golden(以下g):「ファビュラス・サンダーバーズやジョージア・サテライツのようなギターがギャンギャン鳴ってるワイルドなロックンロールっていうのも大好きなんだけどさ、アコースティック楽器の響きがカッコいいバンドもカッコいいよね。」
blue(以下b):「エレキよりもアコースティックな方が楽器が上手いように聴こえたりするな。」
g:「アンプラグドのブームが来るのは90年代に入ってからで、80年代の前半っていうのは、シンセや打ち込みのリズム、ギターもエフェクトをかけたものが主流だったんだけど、86年くらいから潮目が変わってきた気がするんだよね。」
b:「そう言われるとそやな。」
g:「例えば、ブルース・ホーンズビー&ザ・レインジの『The Way It Is』。ブルース・ホーンズビーの弾くピアノの音色がすごくきれいで。」

Bruce Hornsby & The Range /The Way It Is(1987)

b:「ヒューイ・ルイスが前座で起用してメジャーになったっていうバンドやな。」
g:「でも、泥臭いヒューイ・ルイスに比べるとずいぶん洗練された音楽を演っていたよね。」
b:「80年代はシンセ全盛の時代やったから、ピアノの音がこれだけ全面に出てる音楽そのものが新鮮やったな。」



g:「ブルース・ホーンズビーという人はそもそもはクラシック・ピアノを学んでいて、ジャズなんかも演ってた人っぽいんだよね。」
b:「知らんけど、まぁ音の感じは明らかにそうやな。ロックンロールのピアノの音色とはちょっとちゃう。」
g:「キース・ジャレットみたいって当時言われてたけど。手数が多くて軽やかで疾走感があって。」
b:「どこか内省的というか、外に向かって放たれるというよりは内に向かって意識の底へ降りていくみたいなところがあるな。」
g:「でも鬱方向ではなく、華やかさは損なわれないっていう。」
b:「ユーロビートがけたたましく躁状態でアゲアゲ気分を煽っていた80年代中期に、すごく癒やされる音やったな。」
g:「ピアノはジャズっぽいんだけど、ヴォーカルはSSW、あと、このバンドってリズムがすごくこざっぱりしてて、その辺りのバランスが絶妙だったよね。」
b:「あ、ほんまやな。バスドラやスネアよりもリムショットみたいな硬めの音が中心で、しかもすごくループっぽいシンプルなリズムパターンが多いな。」
g:「後にラッパーがカヴァーしてたのはそういう部分もあったのかも。」


b:「で、アコースティック楽器が美しい80年代バンドといえば、俺やったらロス・ロボスやなぁ。」
g:「デヴィッド・イダルゴの弾くアコーディオンが存在感あったよね。」
b:「ロス・ロボスといえば世間的には“La Bamba”だし、ロック好きにはむしろミッチェル・フレームがプロデュースしだしてからの『Kiko』や『Colossal Head』のインダストリアルな響きの作品の方が評価が高いんやけど、俺が一番好きやったんは86年の『By The Light Of The Moon』やねん。」

Los Lobos / By The Light Of The Moon(1987)

g:「80年代とは思えないような生っぽい録音だね。」
b:「ギターのトーンもクリアで、マンドリンとかメキシコ楽器のギタロンとかバホ・セストとかの醸し出す田舎っぽさがなんとも落ち着く。」
g:「80年代のザ・バンド、みたいなテイストだった。」
b:「4曲目やったかな、イダルゴのアコーディオンをフューチャーしたスペイン語の曲があって、これがすんごいええねん。哀愁があって。」
g:「“All I Wanted To Do Was Dance”とかでもアコーディオンがいい味出してるよなぁ。」



g:「ロス・ロボスはその後も一切メンバーチェンジなく今も5人で活動中で。」
b:「2、3年前に出たカヴァーアルバムもカッコよかったんよ。ジャクソン・ブラウンとかバッファロー・スプリングフィールドとかカヴァーしてて。」
g:「ロス・ロボスってメキシコのバンドって思いがちだけど、メキシコ系アメリカ人であって出身はみんなロサンゼルスなんだよね。」
b:「メキシコ系アメリカ人としての自らのルーツを追求しつつも軸足はアメリカン・バンド。」
g:「やっぱりルーツっていうのは大事だよね。」
b:「日本人としては、日本人のくせに何でアメリカ南部とかアイルランドとかにルーツ感を感じとんねん、って思うたりはするけどな。。」
g:「僕たちの世代っていうのは、ある意味日本文化よりもアメリカ文化や西欧文化が当たり前のように育ってきた部分はあるからね。」
b:「率先して日本文化を破壊して来た世代かも知れんな。」
g:「トランプはメキシコとの国境を閉鎖して移民政策を一新するって息巻いてるけど、この先どうなるんだろうか。」
b:「実際メキシコ国境を越えてくる移民の数っていうのはものすごいらしいし、現地ではそら軋轢もあるやろな。バイデンもさすがに移民は抑制するって言い出してるし。」
g:「30年以上も前かな、サンディエゴから国境を渡ってティファナとか行ってみたけど、確かにけっこうな貧富の差だったよね。」
b:「メキシコ側の町はいきなり未舗装で砂埃が舞ってたりな。」
g:「ブルース・ホーンズビーの“The Way It Is”もそういう貧困問題を取り扱った曲だったりする。」
b:「生活保護の支給の列に並んで/有り余るほどの時間をつぶす職のないひとたち/スーツを着た役人がふざけ半分に「仕事探せよ」って嘲る/これが現実/ずっと変わらない現実/でも、そんなもんだって丸め込まれてしまうのかい?・・・そんな歌詞やねんな。
g:「そういうシビアな歌詞も、後にラッパーに採り上げられた理由だろうね。」
b:「貧困層に共感を得たんやな。」
g:「アメリカで起きていることはやがて日本でも起きる。この30年のうちに日本でも、貧富の格差や貧困問題は当たり前の感じになってしまいました。」
b:「そういうもんや、ってゆーてしまえばそれまでやけど。」
g:「そーゆーもんや、っていうのは英訳すれば“The Way It Is”なんだよね。」
b:「そうか、そーゆーもんやって丸め込まれたらあかんな。おかしいことはおかしいと声を上げるんが大事やで。現状を嘆くばかりではなく、訴えていくことが社会を変えていく出発点になる。」
g:「おー、いつになくまともなまとめ方!」
b:「俺かってたまにはまともなこと考えるわい。」