golden(以下g):「百花繚乱の80年代ロックだけど、90年代オルナタテヴィヴ・ロックへの影響力がとても強いという点で外せないのがザ・スミス。」
blue(以下b):「うーん、実は当時あんまり熱心に聴いてたわけではないねんな。」
g:「モリッシーのね、あのなんともふにゃふにゃした感じが苦手だった。」
b:「いじめられっ子が突如として脚光を浴びたような、なんとも居心地の悪そうなギクシャク感がな。」
g:「まぁ、そこがスミスのスミスらしいところなんだけど。」
b:「スミスって、オリジナル・アルバムは4枚しかリリースしてへんかってんなぁ。」
g:「シングルを次々リリースしてたし、もっと多作なイメージがあるけどね。」
b:「一番よく聴いたんはシングル集の『The World Won't Listen』なんやけど、オリジナル・アルバムで言うと『Queen Is Dead』かなぁ。」

The Smith /Queen Is Dead(1986)




g:「“Big Mouse Strikes Again”とか“The Boy With The Thorn In His Side”がそこそこヒットしてたっけ。」
b:「“The Boy With The Thorn In His Side”なんて羊飼いの鼻歌みたいなメロディーだけど、愛情に飢えた孤独な渇望を歌ってたりする。」
g:「改めて聴き直すと、けっこうビートが効いてるし、ギターもシャープでカッコいいね。」
b:「ただ、ロックだぜっ!って感じではないねんな。躊躇しつつおずおずと、っていう感じ。」
g:「モリッシーの歌い方も歌メロも独特で。」
b:「なんていうんやろうなぁ、型式的ではないというか、純朴というか。」
g:「AメロがあってBメロが来てサビ、みたいな歌の構造とはちょっと違うんだよね。つい口をついちゃうようなメロディーが全然ない。」
b:「モリッシーはモリッシーで勝手に歌ってて、バンドはバンドで勝手に弾いてる、みたいな変な違和感があんねん。せやけど、それが不思議にマッチしているっていうような。」
g:「まぁ、そういうなんともいえない違和感というか、ザラザラした居心地の悪さみたいなのがスミスのスミスらしいところなんだろうね。」
b:「“Never Had No One Ever”とか、幽霊でも出てきそうやん、って思いながら聴いてたけど。」
g:「“Franky,Mr.Shankly”みたいなスカっぽい軽妙な曲もあったりするんだけど、だいたいの曲はモリッシーだけが幽体離脱してる。」
b:「なんかムズ痒いなぁって思いながらもう一回リピートしてまうねんな。」
g:「スッキリしないぶん、つい、ね。」
b:「まぁ、なんとも不思議な魅力のバンドやな。なんにしても唯一無二の存在感ではある。」


g:「そういう感じの不思議な存在感で、淡々としていながらどこか惹きつけられたバンドといえばThe Theがそうだったかな。」

The The / Infected(1986)

b:「スミスが解散した後にジョニー・マーが参加することになるっていう意味でも因縁があるな。」
g:「この『Infected』は、その前の86年。」

b:「これ、ジャケットがエグすぎて引いたけどな。」
g:「The Theっていうバンド名だけど実際はマット・ジョンソンだけがメンバーの一人ユニットで。」

b:「印象としては“俺は絶望してるんだぁー”って叫ばないモリッシーなんやけど。」

g:「音楽としてはだいぶ違うけど、イメージとしては確かにそんな感じがあります。」

b:「音楽全体から漂う悲壮感というか絶望感というか。」

g:「辛辣で皮肉っぽくて、でもどこかロマンティシズムが溢れるような。」

b:「歌詞はけっこう社会風刺や批判みたいなものも含んでいるらしいな。」

g:「“Heartland”では貧富の格差が広がっていく当時のイギリス社会を自嘲的に描写していたり、“Sweet Bird Of Truth”は中東へ爆撃を仕掛けるパイロットの視点で戦争の虚しさを歌ったり。」

b:「でも、そういう重々しいテーマとは別に音楽そのものはわりとグルーヴィーやねんな。」
g:「音楽の空間が広いっていうか、身を委ねているとそのままズルズルと吸い込まれてしまうような。
b:「ブラックホールみたいやな。」
g:「ブラックホールっていうのはある意味負のエネルギーの固まりみたいなもんやから、近いかもね、その例え。」

b:「でしゃばらへんけどフックの聴いたギター、意外にうねるベースやタイトなドラム、けっこうドラマチックな起伏のある構成も音の空間の広さを感じさせる。」
g:「でも、グルーヴィーなんだけど踊れないっていうか、どこかにギクシャク感があるんだよね。」




g:「スミスもザ・ザも、商業主義に染まりまくっていた音楽業界やそのファン、やたらとポップで享楽的な時代の空気に対してのオルタナティヴとして機能していたんだろうね。」
b:「パッと聴いてすごくいいと感じる種類の音楽ではないねんけど、どこか気持ちが囚われてしまって何度も聴いてしまいたくなるし、意味深なメッセージがそこら中に仕掛けられていてハッとさせられる。」
g:「ちょっと立ち止まらされる感じがあるよね。」
b:「地縛霊的に呼ばれるみたいな。」
g:「深い諦念の中から湧き上がる情念をもう一回クールダウンさせてから作品にする、そういう表現姿勢が引き起こす怨念みたいなのが確かに音楽に乗り移ってると思うよ。」

b:「あぁ、それな。スミスとザ・ザって音楽的には近くないのにどこに共通点を感じるんだろうと思ったら、そういうところか。」

g:「報われない人々、虐げられた人々の怨念をイタコのように歌う、っていう。」
b:「表層の明るさとは真逆のこういうヘヴィーな世界観が裏で蠢いていたのが80年代やったんやな。」