golden(以下g):「さて、この時代のブリティッシュ・ポップで評論家筋での評価が異常に高いのが、このプリファブ・スプラウト。」

blue(以下b):「マニアがぎょーさんおるバンドっていうイメージがあるな。」
g:「実は最初は全然ピンと来なかったんだよね。」
b:「そやな。どこかつかみどころがないっていうか。。」
g:「ニューウェイヴでもないし、ネオアコでもないし、トラディショナルなギターロックっぽい香りも漂わせつつ、不思議な浮遊感があって。」
b:「なんか不思議と聴きたくなってまうねんな。」


Prefab Sprout / Steve McQueen (1985)


g:「バンドの中心人物はパディ・マクアルーン、Wikipediaでも“ニューウェイヴの時代以降の最も優れたソングライターの一人”と紹介されていたりします。」
b:「音楽的なことはよーわからんねんけど、確かに通り一遍のコード進行ではないし、凝ったコードとか使ってそうな感じやし、構成も展開も独特やねんな。」

g:「メロディーも複雑で一筋縄ではいかないんだけど美しいし、歌詞もとても繊細なイメージがあるよね。」
b:「“When Love Breaks Down”はこんな感じやな。愛が壊れる時/君は傷つくのを恐れて真実から目を背ける/愛が壊れる時/僕たちが口にする嘘/それはただ自分達をごまかしてるだけ”」

g:「どこか突き放したクールさや皮肉っぽさ、モヤモヤをモヤモヤしたまま歌ってるような。」
b:「“誰よりも永遠に愛してる”とか“希望を星空に描いて”とかそーゆーことは絶対に歌ってそうにないな。」
g:「“Appetite”なんて“食欲”っていうタイトルだもんね。」
b:「“君にどう言うべきか教えようとは思わないけど/君に正しいことをして欲しいだけなんだ/僕は食欲の奴隷/僕は食欲の奴隷”。」

g:「どういうシチュエーションの歌なんだか不可解なんだけどイマジネーションをかきたてられる。」



b:「まぁ、そういう凝った作品づくりや偏屈っぽさが妙に評論家受けする部分ではあるんやろうな。」
g:「ビーチ・ボーイズの『Pet Sounds』みたいに美しいと評されてたり。」

b:「60年代のソフトロックみたいなのの影響が強いんやろうか。」

g:「ハーパース・ビザールとかロジャー・ニコルスとか、ああいう感じ?」

b:「うーん、俺はもうちょっとわかりやすくてストレートな方が好きやねんなぁ。この当時やったら、クラウデッド・ハウスがけっこう好きやったな。評論家筋にはあんまり受けてなかったみたいやけど。」


Crowded House / Crowded House (1986)


g:「“Don't Dream It's Over”は名曲だよね。」
b:「ヘイナウ、ヘーイナーウっていうサビがずっと残る。」
g:「この曲の意味って“もう終わったんだよ、夢なんて見てはいけない”みたいな意味だと思ってたんだけど、どうやら“もう終わりだって夢なんて見ちゃだめだ”っていう意味らしいね。」
b:「そうやったんや。」
g:「ソングライターでギター、ヴォーカルのニール・フィンはニュージーランド出身でバンドが結成されたのはオーストラリア。」
b:「ニュージーランドやオーストラリアもある意味イギリスの辺境やからな、スコットランドやウェールズからカッコええバンドがいっぱい出てきた流れと同じもんを感じるけどな。」

g:「捻じくれたポップのイメージがあるけど、意外とストレートなロックなんだよね。」

b:「ブライアン・アダムスにも通じるような爽やかさ。」
g:「ソフトロックというよりはギターポップだね。」

b:「フレイミング・グルーヴィーズとかビッグ・スターとかの影響を感じるかな。」



g:「プリファブ・スプラウトのパディ・マクアルーンもクラウデッド・ハウスのニール・フィンも素晴らしいソングライターだけど、2人ともヴォーカリストとしてもカッコいいよね。歌が上手いとか声量があるとかいうことではなくて、歌の表現力があるっていうか。」
b:「作った歌の世界をしっかりと表現するに足りる歌手としての技量がある、っていうことやな。」
g:「ま、そういうこと。」
b:「そら、作った本人やねんから、自分の声量や音域に合わせて作るやろうし、気持ちの込めどころもわかってるやろうし。」
g:「それはそうなんだけど、ちょっとした抑揚とかシャウトやファルセットの使い方とか、すごく表現力が高いな、って。」

b:「まぁ確かに。ポストパンク系のシンガーはもっとぶっきらぼうやったり一直線やったりが多かったかな。」

g:「ちゃんと丁寧に歌ってる。」

b:「ポップなメロディーを書いて、ちょっとひねったアレンジをして、そういう曲をしっかりと思いを込めて丁寧に演奏する。それって結局ビートルズなんやろな。」

g:「ブリティッシュ・ポップのDNAっていうか、そういうものが脈々と息づいてるよね。」