golden(以下g):「ベテランたちが元気だった80年代を代表する重要作品をひとつ忘れてた。」
blue(以下b):「ん?」
g:「ザ・バンドの解散以来、10年のブランクを経てリリースされたロビー・ロバートソンのソロ・アルバム『Robbie  Robertson』。」
b:「あれはカッコよかったな。」


Robbie Robertson / Robbie Robertson(1987)


b:「リリースされた当時はすでにザ・バンドのレコードにはかなり深入りしてたから、めっちゃ期待して。」
g:「でも、いざ聴いてみると、ザ・バンドの面影なんてまるでない、すごくシュールな感じのアルバムだったんだよね。」
b:「最初は、んっ?って思うてんけどな、これはこれでなんかすごいなぁって。」



g:「プロデューサーはダニエル・ラノワ。」
b:「ダニエル・ラノワらしい、音響空間を活かしたヒリヒリするようなサウンドがかっこよかった。」

g:「ドラムはマヌ・カッツェとテリー・ボジオ、ベースはトニー・レヴィン。」

b:「そういうメンツっぽい、奥行きのある音やな。やわらかいのに硬質な響きがあって。」
g:「セピア色でハーフトーンのアルバム・ジャケットが音楽の世界観と一致してる。」

b:「空の高いところで冷たい風が吹き抜けているとか、ゆらゆらと陽炎が揺らめいているとか、誰もいなくなった工場の跡地で残響音だけがこだましてるとか、そういう雰囲気。」



g:「リリース当時、ロバートソンは44才か。」
b:「20代にあれだけ深い表現をしてスーパースターになったのに、そういう過去のスタイルをまるで踏襲せずに、40代になって新しいスタイルを獲得できるっていうのが凄いな。」

g:「10年もの沈黙の間には、ザ・バンドの再結成があって、その後リチャード・マニュエルが自殺したりしているんだよね。」
b:「ザ・バンドの再結成にはロバートソンが参加せーへんかったのも、何か思うところがあったんやろな。いつまでもついてまわる“元ザ・バンドの〜”っていうレッテルに対して、そういう幻影にすがって生きていくのか、新しい世界観を構築することができるのか。」
g:「敢えてハードな道を選ぶ潔さがカッコいいよね。」
b:「元々ザ・バンドのああいう南部っぽい音楽性はリック・ダンコやリチャード・マニュエルやリヴォン・ヘルムのもので、ロビー・ロバートソンという人は違うイメージを持ってたんかもな。」


b:「長いブランクの末にベテランが復活した作品といえば、ブライアン・ウィルソンの『Brian Wilson』も同じような時期のリリースだったね。」
g:「どちらもセルフタイトル作、どちらも長いキャリアで初めてのソロ・アルバム。」

b:「そして、ブライアン・ウィルソンもかつてのバンドのメンバーの死をくぐり抜けてきているという。」


Brian Wilson / Brian Wilson(1988)

g:「このアルバムが出た頃にはすでにビーチボーイズの『Pet Sounds』とか聴いてたけど、ブライアン・ウィルソンっていうのはもう伝説の人物だったから、まさかこうやってソロ・アルバムがリリースされるとは思わななかったよね。」
b:「ガラス細工のような繊細で美しい世界と、どこか懐かしさを感じる甘い感じ。」



g:「このアルバムも、ジャケットのイメージと音楽の世界観が一致してるよね。」
b:「どこか苦くてせつない感じな。」

g:「ロバートソンとは逆で、こっちはブライアン・ウィルソンのイメージどおりの音が奏でられてる。」
b:「『Pet Sounds』や『Smile』で表現しようとした世界やな。」
g:「表舞台に出ない20年近くもの間、精神的な病と戦いながら、ずっとこういう表現を内に秘めていたっていうのは凄いことだよね。」




b:「その昔、ロックを聴きはじめた頃、まさか50代も半ばになってまだロックを聴きつづけてるとは思いもせんかったな。」
g:「ロックなんか一過性の熱病のようなものですぐに飽きて、いずれ演歌とか聴くようになるんだろう、って。」
b:「まぁロックだけやなくソウルやジャズが心地よくなっていったっていうこととか、ロックだけに熱中し続けてきたわけではないけどな。」
g:「ロックが単純に若者だけのパーティー・ミュージックではなく、大人になってからも深い表現ができる器だということを知らしめてくれたのは、こういうベテラン・アーティストたちの真摯な作品のおかげだったのかも、って思ってね。」
b:「若い頃にとった杵柄の縮小再生産ではない表現に立ち向かったロビー・ロバートソンも、若い頃の思いを純粋に持ち続けて結晶させたブライアン・ウィルソンも、どっちもな、大人の生き方っちゅーのを考えさせてくれるなー。」