golden(以下g):「新しい音楽が台頭してきた80年代中期。ヒップホップがメジャーシーンに一躍踊り出てきたのが1986年でした。」
blue(以下b):「Run D.M.Cがエアロスミスの“Walk This Way”をカヴァーして大ヒットしたんやったな。

g:「スティーヴン・タイラーとジョー・ペリーがゲスト出演したのにはビックリしたよね。

b:「まさか本物が出てくるとはな。」
g:「ヒップホップはすでに80年代初頭から胎動はあったとはいえ、ロックファンへの認知度を一気に高めたのがこの曲でした。」


Run-D.M.C / Raising Hell(1986)



b:「この曲はさすがにスゲェって思うたけど、アルバム聴いてみても正直ピンと来んかったわ。」
g:「そう?カッコいいじゃん。」
b:「いや、ラップってな、言葉が大事やろ。英語がすんなり入って来ぉへん状況ではなかなかな。」
g:「それってさ、中学生くらいのときに“洋楽って歌詞がわからないから聴かない”って言ってニューミュージックしか聴いてなかった奴らと同じ言い訳っぽいよね。」
b:「うっ、、痛いところを。」
g:「言葉だけがメッセージじゃない、音楽そのものが放つメッセージってあるじゃない。」
b:「そらそうなんやけど、実際よーわからんかってんもん。」
g:「明らかに攻撃的なビートと攻撃的な歌い方、ストリートでたむろしてる若者たちの表現だということは伝わってくるよね。」
b:「まぁ、パンクみたいなもんやろな、っていう認識はあったんやけどな。」



g:「My Adidasのリリックはこういう感じかな、“靴ひもをしないでアディダスを履く/この靴は盗んだんじゃない、買ったんだ/ジーンズと最高のコンビだから/盗もうとした奴がいたんで戦った/俺は街を歩く/ビートにのせて”」
b:「カッコええな。ストリート感あるやん。」
g:「Run-D.M.Cの一番の功績は、やっぱりヒップホップにロックを大胆に融合させたことだろうね。」
b:「単に借りてきて使う、ということより一歩すすんだ、融合という感じがあるな。スタイルも世代も人種も違う音を敢えて内側に取り込んで進化させる、的な。」
g:「確かにエアロスミスの“Walk This Way”は元々ラップみたいにファンキーだけど。」

b:「エアロスミスは70年代はストーンズ経由の黒っぽさをしっかり持ってたバンドやったからな。」

g:「再結成後はただのスタジアム・ロックになったとはいえ、ソウルやブルースのフィーリングもあったバンドでした。」
b:「まぁ、それはええねんけどな。Run D.M.Cが作ったロックとヒップホップの融合の機運の中から出てきたのがビースティー・ボーイズやった。」


Beastie Boys / Licensed To Ill(1986)


g:「ビースティー・ボーイズは元々ハードコアパンクのバンドで、ヒップホップに刺激を受けてラップを取り入れたんだってね。」
b:「いやー、ビースティー・ボーイズはわかりやすかったよ。ギターがギャンギャン鳴ってて。なるほど、新しいロックやなって思うたわ。」
g:「“RHYMIN & STEALIN”ではレッド・ツェッペリンの“When the Levee Breaks”、ブラック・サバスの“Sweet Leaf”、クラッシュの“I Fought The Law”がサンプリングされてたり、“NO SLEEP TILL BROOKLYN”ではメタルバンドのギタリストがAC/DCの曲のリフを弾いてたり。」



b:「とりあえずやかましいな。」
g:「ダンスミュージック的なヒップホップというよりは、ただ騒ぎたい音楽という感じではある。」
b:「でもな、俺がこの86年当時にアメリカ在住の14才やったとしたら、めちゃくちゃこーゆーのに夢中になってたと思うねん。」
g:「俺らのための新しい音楽って感じがしただろうね。」
b:「当時ヒットしていた大御所たちの放つ金儲けの臭いとかな、あとはベタで退屈なバラードやブラコンの放つセックスの臭い、そういうのって子供は敏感やろ。」

g:「あー、そうだね。例えば70年代後半の歌謡曲。西条秀樹や郷ひろみや沢田研二みたいな芸能界のエスタブリッシュメントやピンク・レディーのような作られたスター、あるいは演歌の大御所しかいなくて、まぁ当時はそういうものだろうって思ってたときに、サザンオールスターズみたいのがワッて出てきて、子供たちはみんな飛びついたもんね。」
b:「子供たちは常に、上の世代が理解不能なものに魅力を感じるからな。」
g:「そういう意味では、ヒップホップの台頭っていうのは、エルヴィスやビートルズやセックス・ピストルズがやったことと同じ現象だったんだろうね。」
b:「まさかこの当時、その後にラップがあんなにも広がりを見せるとは想像もつかんかったけどな。」

g:「さすがに、何を歌ってるかわからないと日本人にはきついよね。」

b:「さっき、言葉だけがメッセージやないってゆーとったやんっ!」