golden(以下g):「ジョンとポールで始まったこの雑談シリーズ、やはりミックとキースに登場いただかないと。」
blue(以下b):「いやー、あの当時、ストーンズ絶対解散すると思うたよなぁ。」
g:「ミックの初ソロ『She's The Boss』が84年、それから『Dirty Work』がリリースされて一旦冷戦状態が融和したかに見えた87年にミックが『Primitive Cool』を、88年にキースが『Talk Is Cheap』をリリース。二人とも本気でソロ活動する気満々かな、っていう雰囲気だったよね。」


Mick Jagger / Primitive Cool(1987)


Keith Richards / Talk Is Cheap(1988)

b:「この2枚、どう考えても俺はキースに軍配を上げるな。」
g:「僕はどっちかっていうとミック派ですが、それでも僕もキースの勝ちに一票かな。」
b:「まぁ、一説にはミックのこのセカンド・ソロがコケてキースのソロの評価が高かったから、ミックはストーンズの解散を思い留まったとも言われるくらいで。」
g:「おかげで92年の初来日に立ち会うことができました(笑)」



b:「ギターはジェフ・ベックやったっけ?」
g:「他にもG.E・スミスやジミー・リップ、リヴィング・カラーのヴァーノン・リードなんかも弾いてるみたいだね。」
b:「ミックってわりとテクニカルで鋭角的な音が好きっぽいなぁ。」
g:「まぁ、キースやロニーとはできないことをソロでやりたかった、っていうのもあるんだろうけど。」
b:「その割には、曲はストーンズで演りそうなんが多いで。しかもどれもアルバムの3、4曲目っぽいような可もなく不可もないクラスの曲やな。」
g:「確かに、これっていう名曲がないのがこのアルバムの低い評価につながってはいるんだろうけど、全体としてポップでグイグイ押してくるスキのない音だと思うよ。」



b:「“Shoot Off Your Mouth”とか“Party Doll”の歌詞がキースをディスってるとも話題になったけどね。」
g:「そこはそれ、ミックならではの話題提供でしょうよ。世間がゴシップ好きなのを逆手にとった戦略。」




g:「さて、一方のキースは初めてのソロ・アルバム。」

b:「これはもうな、聴いた瞬間にうぉおおおーっ、ってなったな。」
g:「キースらしさ満開っていうか。」
b:「ストーンズの泥臭いとこ、ルーズなとこ、ファンキーなとこはやっぱりキースが担ってたんだって。」
g:「スティーヴ・ジョーダンとチャーリー・ドレイトンのリズム隊の音が分厚い!」
b:「チャーリー・ワッツ&ビル・ワイマンよりもグルーヴが粘っこい。」
g:「キースは、スティーヴ・ジョーダンとはチャック・ベリーの『Hail,Hail,Rock'n'Roll』でも一緒に演ってて、こういうリズム隊と演ってみたかったんだろうね。」



b:「ファンキーやなぁー。」

g:「たださ、やっぱりヴォーカルは弱いよね。」

b:「キースならではの渋さがあってええやん。」

g:「いや、いいんだけどね、アルバム一枚通すとちょっともたれるっていうか。」

b:「うーん、まぁ一般受けする歌ではないのは確かやな。アルバムで1,2曲歌うくらいがちょうどええっていえばその通りや。」

g:「ミックのサウンドはスタジアムで盛り上がるような音、キースのは小さなハコでのジャム・セッションみたいな。」

b:「改めてこの2枚を聴くと、ミックの要素とキースの要素が混ざりあってのストーンズ・サウンドやったということがよーわかるな。」
g:「鋭角的できらびやか、普遍的なロックの音を維持しつつも新しさに貪欲なミックと、泥臭くて粘っこく、トラディショナルなスタイルを継承していこうとするキース。」
b:「そういう相反する志向の二人がおったからこそ、ローリング・ストーンズという何でもかんでも飲み込んでいくような巨大なロックバンドが60年も続いてきたんやろうな。」

g:「その辺りはね、実は80年代のロック・シーンがたどった道のりも同じようなことで。」

b:「どういうこっちゃ?」
g:「ポップさとアヴァンギャルド、クールさとホットさ、最新型のスタイルの追求とルーツ回帰。それぞれのバンドやミュージシャンたちが、相反するいろんなものを提出していくなかで、いろんなものが混ざりあって盛り上がっていったっていう感じがするんだよね。」

b:「80年代っていうんは、そうやって音楽表現がどんどんと豊かになっていった時代やったんやな。ま、こじつけっぽいけど(笑)」

g:「いい時代に思春期を過ごすことができてよかったんだろうね。」

b:「まぁ、誰でも自分が育った時代に愛着はあるもんやけどな。」