golden(以下g):「1986年は、パンクロック誕生10周年という年でした。」
blue(以下b):「一瞬で燃え尽きるパンクに何周年もなんもあったもんやないけどな。」
g:「実際パンクロックが燃え盛ったのはほんの数年で、80年代にはハードコアとかポジティブパンクとか細分化されたジャンルになってたよね。

b:「ハードコアもポジパンも音楽としてはクソやったな。」
g:「オリジネーターたちも、ニューウェイヴ的ないろんな実験を繰り返した末に袋小路にはまっていった、という印象があります。」
b:「クラッシュは解散するし、P.I.Lはメンバー脱退が相次いでほぼジョン・ライドンのソロ・プロジェクトになってたし。」
g:「そんな中で出たP.I.Lの『Album』は、けっこう話題になりました。」


Public Image Limited / Album(1986)


g:「ドラムがジンジャー・ベイカーとトニー・ウィリアムス、ギターにスティーヴ・ヴァイ、キーボードにはバーニー・ウォーレルに坂本龍一と、超豪華なメンバーが参加してるんだよね。」
b:「スーパーバンドやとか言われとったけどな。」
g:「ハードロック、ヘヴィメタル、ジャズ、ファンク、テクノとすごいメンツ。」
b:「あれはジョン・ライドン流のジョークやで。あんたらこーゆー豪華メンバー好きやろ、っていうのをとことん並べて。」
g:「なるほど。」
b:「別に誰が演奏してようと、出来上がった音はプロデューサーのビル・ラズウェルの音やん。ジョン・ライドンならではのハッタリやで。」
g:「そう言われればそうかも。」
b:「ただ、音はめちゃくちゃかっこよかったな。」

g:「オープニングからギターがギャンギャギャン、ドラムはドスンドスンのハードロック(笑)」



b:「ジョン・ライドンのヴォーカルも久しぶりにイキオイがあるっていうか、気合い入ってる。」
g:「毒吐きまくりな感じ。」
b:「“Rise”も毒毒しくて皮肉っぽくて、いかにもジョン・ライドンっていう感じやしな。」



g:「この曲で繰り返される“Anger Is An Energy”っていう歌詞が、若い頃にはグッと刺さったね。」
b:「何か腹立つこととかあったときに、この曲は何かの呪文を唱えるみたいによー聴いたわ。」
g:「ジョン・ライドン健在を見せつけた一枚でした。」
b:「ジョンはパンクがとうに終わってるのを承知で、その死体をどう弄ぶかってことをやってたんやろうな。自分で殺したパンクをおもちゃにすることで完全抹殺するつもりやったんちゃうかな。」

g:「ビル・ラズウェルにおもちゃにされるのを自虐的に楽しんでる、みたいな。」

b:「ジョン・ライドンは自分のキャラのどこがウケてるか、よくわかってるからな。」


Big Audio Dynamite / No.10 Upping St.(1986)

g:「さて、一方のクラッシュは空中分解して。クラッシュをクビになったミック・ジョーンズが結成したのがビッグ・オーディオ・ダイナマイトでした。」
b:「最初聴いたときに、こらあかんわと思うたな(笑)」
g:「打ち込みメインの機械的なビートで、ギターも全然弾かない、ヴォーカルも柔い。」
b:「クラッシュの延長で考えるとキツイもんがあったな。」
g:「誰だってもっとワイルドなのを期待するよね。ファースト聴いてありゃりゃってなって、このセカンドはジョー・ストラマーも一枚噛んでるって期待したんだけど、さっぱりだった。“C'mon Every Beat Box”って曲がかろうじて、エディ・コクランへのリスペクトを感じられて好きだったかな。」



b:「でもな、クラッシュの音の変遷を考えると、このヒップホップ系路線っていうのは案外、クラッシュで演ってたことの延長上にある気もすんねんな。」
g:「どゆこと?」
b:「元々デビューの頃からレゲエは演ってたし、『Sandinista!』の頃にはすでにダブとか音響的な実験にもチャレンジしてたやろ。」
g:「『Combat Rock』でもディスコっぽいビートやファンクも取り込んでたね。リズムへの探求心は前からあったんだ。」
b:「それに何より、ジョーもミックも目線は底辺の暮らしをしてるハングリーな若者たちの位置にあったわけやろ。そうなると台頭してきたヒップホップには注目せんわけがないやろ。」
g:「例えば、クラッシュが解散していなくてもこういう音にチャレンジしてた可能性はあった、ということ?」
b:「ジョーのソロもパンクよりはメキシコとかカリプソとかああいう感じやったし、あり得たんちゃうかと思うねん。」
g:「うーん、でもあの音はなかなか、パンクとの落差がね。」
b:「いやいや、今聴くとけっこうかっこええで。それにな。」
g:「ん?」
b:「俺、ミック・ジョーンズの声、好きやねん。クラッシュ時代の“Stay Free”とか“I'm Not Down”とか“Should I Stay Or Should I Go”とか。

g:「初期ロカビリーっぽい、ちょっと軽くて甘い声質ね。」
b:「とりあえずはミックの声だけで許すわ、と(笑)」



g:「パンクの屍を弄ぶジョン・ライドンと、ひとつの場所に安住せずにずっと新しい場所を追い続けるミック・ジョーンズ。二人ともある意味、パンクのスピリットを貫き通そうとしてるよね。」
b:「スタイルを継承するんやなく、スピリットを継承する。悪戦苦闘を受け入れて、あがきまくってるんがかっこええな。」
g:「時代を背負ったヒーローだったからこその矜持っていうか。」
b:「Punk is not style.It's Atitude.by Joe Strummer.」