golden(以下g):「80年代はリズムの時代だったって言ってたけど、いわゆるワールド・ミュージックの応用というか、西洋以外のリズムを導入した音楽がたくさん出てきた時代でもありました。」
blue(以下b):「ま、そもそもレゲエがそうやし、トーキング・ヘッズなんかが大胆にアフリカのリズムを導入してたりしてたけどな、当時はあんまりピンと来んかった。」
g:「ワールドミュージック的リズムの認知度を一気に高めたのが、ピーター・ガブリエルの『So』やポール・サイモンの『Graceland』だったかなと思うんだけど。」


Peter Gabriel / So (1986)

Paul Simon / Graceland (1986)


b:「調べてみたら、『So』のリリースが86年の3月で『Graceland』が8月やってんな。俺、ピーター・ガブリエルにはどうも苦手感があって、聴いたんはポール・サイモンの方が先やった記憶があるわ。」
g:「どっちのアルバムもめちゃくちゃヒットしたけどね。ピーターはビデオ・クリップも話題になったし。」



b:「タメの効いたファンクビートで、ギターもベースもドラムとは違ううねりのリズムを持ってて。ポリリズムっていうの?こういう複合的なビート感って、最初はピンと来んかってんけど、はまるとクセになるな。」
g:「普通のエイトビートだと何か物足りなくなるようなね。」
b:「ピーター・ガブリエルってシリアスでシュールで観念的なイメージが強かって、このアルバムでもそういう一面もありつつ、一方ではめちゃめちゃポップでソウルフルやねんんな。」
g:「リチャード・ティーとケイト・ブッシュが参加した“Don't Give Up”なんかは荘厳なアレンジだけど、曲そのものはゴスペルっぽいソウルだもんね。」



g:「ユッスー・ンドゥールが参加してる“In Your Eyes”とかも、複雑なリズムのミドルテンポなんだけど、どこかすごくソウルフルで。」

b:「この曲の後半でアフリカンなコーラスが入ってくるところあるやん。そのあと、ドーワップっぽい低音とアフリカが混ざるとこがあって。あれ聴いたときに、アフリカンコーラスとR&Bとゴスペルの共通点を感じたっていうか、あー、単にいちびってアフリカっぽい音を導入してるんやなくて、ソウルからルーツを辿るような必然性があったんや、って思うたんよ。」
g:「なるほどね。」



b:「ポール・サイモンは、南アフリカで公演したことを揶揄されたり、アフリカのリズムを搾取してると言われたり、このアルバムはけっこう叩かれたりもしてたけど。」

g:「そうだったね。」

b:「ポール・サイモンとアフリカってイメージ的にあんまり結びつかへんしな。」
g:「いやいや、ポール・サイモンって繊細で軟弱なフォークシンガーのイメージが強いけど、元々はドゥワップやロックンロールにガツンと衝撃を受けて音楽を始めた人なんだよね。」
b:「そうらしいな。」
g:「で、リズムに関しては、サイモン&ガーファンクルの時代からいろいろとチャレンジをしてた人でもあって。」
b:「“Cecilia”とかすでにポリリズム取り入れてるもんな。

g:「ファースト・ソロでも“Mother and Child Reunion”でいち早くレゲエ演ってたり、“Late In The Evening”はサンバだったり。」
b:「そういうリズムのチャレンジを繰り返す中で、アフリカのポップスのリズムに出会うんは、確かに必然なんやろうけどな。

g:「ポール・サイモンは、このアルバムに参加しているマハティーニのムバカンガのリズムに出合ったときに、ロックンロールの原初的なエネルギーを感じたんじゃないかと思うんですよね。ロックンロール的プリミティヴさを取り戻しつつ、より洗練されたリズムのトライアルができるのはこれだっ!っていう感じ?」



b:「ま、確かにプリミティヴなエネルギーに満ちてるよな、このアルバムは。ポール・サイモンらしくなく明るくて楽しい。」

g:「ポール・サイモンのアルバムとしては『There Goes Rhymyn Simon』くらい明るくて開放的なんだよ。」
b:「レディスミス・ブラック・マンバーゾやったっけ、アフリカンコーラスが入ってる曲もええよな。」



g:「ああいうコーラスに、ドゥワップーゴスペルーアフリカとつながる一本のラインを感じるよね。」
b:「なるほどな、サイモンが少年時代に親しんでいたドゥワップがここでクロスしてくるわけや。」
g:「ピーター・ガブリエルもポール・サイモンも、これみよがしにアフリカの音楽を持ってきたわけじゃなくて、自分の音楽のルーツを掘り下げつつ、自分なりの音楽的進化を謀る上で必然性を持ってアフリカのリズムを取り入れていったわけだね。」
b:「ベテランになっていくとやっぱり外から刺激を取り入れんと、自分のパターンに自分で飽きたりするんやろな。」

g:「洗練はされるけど、初期衝動的エネルギーは失われてしまう。」

b:「ひとつひとつの音をいかに魅力的に響かせるのかという音楽的洗練と、自身の表現したい世界観をどれだけ生のまま閉じ込めておくことができるのかという、両立させるのがとても難しいテーマをつなぐ鍵が、アフリカのリズムとコーラスやった、ということやと思うで。」