golden(以下g):「80年代を語るシリーズもすでに後半にさしかかってますが。」

blue(以下b):「こうやって見ていくと、80年代中期っていうのはエフェクトをかけてビート感を強調したり、複雑なリズムを導入したりといったリズム中心の音が主流になっていった時代やったと改めて思うんやけど、後半になってくると原点回帰的な揺り戻しが始まったりもしてたな、と思って。」
g:「グランジやオルタナティヴの時代になるちょっと前に一瞬、ああいう青白いロックじゃなくもっとアホまるだしのワイルドなバンドが出てきてたよね。ファビュラス・サンダーバーズとかジョージア・サテライツとか。」
b:「おー。けっこう好きやったわ。」
g:「ま、ファビュラス・サンダーバーズなんかは実際70年代から活動してるバンドなんだけど、80年代後半になって一気にブレイクした。」


Fabulous Thunderbirds / Tuff Enough (1986)



b:「70年代っぽいシンプルでワイルドなロックンロールやな。10年前からひとつも演ってることが変わってへん感じ(笑)」
g:「ジミー・ヴォーンのロックンロール職人的ギターとキム・ウィルソンの渋いヴォーカル&ハープ。」
b:「タイプとしては、Dr.フィールグッドのウィルコ・ジョンソンやロックパイルのデイヴ・エドモンズみたいな、頑固一徹ロックンロール職人とおんなじ匂いがするな。」
g:「どブルースの弟スティーヴィーとはまた違ってね。」

b:「イギリス人がアメリカに憧れて始めたパブロックを本家のアメリカ人がやったような安定のカッコよさっちゅー感じやな。」

g:「そもそもプロデューサーがデイヴ・エドモンズなんだよね。」

b:「こういう音を大音量でかけながらアメリカのハイウェイをぶっ飛ばしたら気持ちええやろなぁ、とか思うな。」

g:「トラクターやコンバイン動かしながら聴くと、農作業もはかどりそう。」

b:「トラクターとかコンバイン動かしながら聴くって、めちゃくちゃ爆音やで(笑)」

g:「いや、爆音で聴くのが気持ちいい音だからね。」



b:「ジョージア・サテライツの方はもうちょっとハードロックっぽいうるささやサザンロックっぽい埃っぽさが魅力やった。」
g:「エアロスミスが南部へ行っておおらかになったみたいな。」
b:「あと、フェイセズっぽい独特のノリの軽さもあったな。」


Georgia Satellites / Georgia Satellites (1986)


g:「田舎っぽいなぁ。」
b:「ちょこっとヨーデルっぽい裏声が入るところなんか、カントリーの影響もあるんやろな。」
g:「ストーンズっぽいとも言われてたけど、ストーンズほどブラックミュージックからの影響はないもんね。」
b:「もっと豪快一直線やな。」
g:「中心人物はダン・ベアードとリック・リチャーズ。二人ともデビュー時には30才を越えてたから、世代的にはファビュラス・サンダーバーズのキム・ウィルソンやジミー・ヴォーンとあまり変わらないわけで、70年代にデビューしててもおかしくなかったんだろうけど。」
b:「おっさんバンドっぽいとは思ったけど、そうやったんや。」
g:「“Keep Your Hands To Yourself“がチャートの2位まで上がったときの1位だったボン・ジョヴィとは10才くらい離れてるんだよね。」



b:「しかし、考えてみれば、おっさんバンドが元気な時代やったんやな、80年代って。」
g:「ロックンロールは基本的には子供たちのための音楽としてスタートしているから、40才過ぎてもロックを演っているなんて本来は想定外だったはずなんだよね。」
b:「それが、おっさんになってもロックし続けられると証明されたのも80年代のトピックのひとつかもな。今やストーンズのメンバーなんか80代やからな。」
g:「逆に若者はロックを聴かなくなって、ロックは爺婆の音楽になっちゃてる気がするけどね。」

g:「ジョージア・サテライツにしても、エアロスミスやフェイセズといった名前が出るくらい、既出のサウンドというか、先祖返り的な音なんだけど、ずっと新しいサウンドへと進化してきた80年代に突然こういう土臭い音楽がヒットするっていうのは何があったんだろう。」
b:「いやいや、別にこういう音楽がまったくなくなってたわけではないやろうからな。オーバーグラウンドのシーンではヒットしてなくても、こういうアマチュアバンドはアメリカ中にいっぱいおったんちゃうか。」

g:「だとしたら、ずっとアンダーグラウンドだった彼らに、この時代に光があたったのはなぜか、と。」

b:「アメリカの分断や階層化がすすんだ側面の反映とも言えるかもな。ニューヨークやロサンゼルスといった都会での最先端の流行を競う流れから振り落とされた、もしくは最初からついていけなかった層からの揺り戻し。」
g:「レーガン大統領が標榜した強いアメリカというファンタジーにすがった、没落しつつある白人たちからの逆襲、みたいなことだったんだろうか。

b:「まぁ、そういう面もあっただろうけど、そもそもは主流になった打ち込みのリズムとかに飽きてきたんちゃうの?パシャパシャピコピコはもうエエで、って。」

g:「それもありそうだよね。揺り戻しというか、新しいものにちょっとバテたっていうか。」

b:「時代はそうやって、行ったり来たりを繰り返しながら進んでいくからな。」
g:「流行遅れのスタイルが、一周回ってトレンドになるっていう。」