サム・クック、レイ・チャールズ、ジェームス・ブラウン、ジャッキー・ウィルソンと大御所が続き、さらにチャック・ベリーまで引っ張り出してしまったからには、ブルース界の巨人マディ・ウォータースもリストアップしておかないわけにはいかなくなる。
ということで、60年代後半時期のマディの作品、68年の『Electric  Mud』を。
名曲“I Just Want To Make Love To You”や“I'm Your Hoochie Coochie Man”や“Manish Boy”を、ロックっぽい太い音で再レコーディングした作品で、マディらしく圧倒的なパワフルさでグイグイくる迫力満点のレコードで、ブルース・ロックが大隆盛する60年代後半に、本家本元の凄さを見せつけた一枚。
ジミ・ヘンドリックスの向こうを張るノイジーなギター、ジョン・ボーナム級のドタバタとラウドなドラムに、ジョン・ロード張りの凶暴なオルガンのヘヴィーなサウンドは、明らかに当時隆盛し始めたブルース・ロック、クリームやジェフ・ベック・グループなどを意識したものだろう。


このアルバム、実はマディは録音に乗り気ではなかったそう。
ブルース・ロックの盛り上がりの機運を背景に、若いロックファンに本物のブルースの凄さを見せつけようと、或いはそのことで一発大儲けしようと企んだプロデューサーの主導によるものだったようで、マディは「お膳立ては全部こちらでするので、いつもの感じで歌ってくれればいい」と説得されてレコーディングに応じたのだそうだ。


実際、このアルバムでマディはギターを弾いておらず、ギターを弾いているのはフィル・アップチャーチとピート・コージーのふたり。
ただ、このふたりのギターが、めちゃくちゃハードロックでかつサイケデリックでめちゃくちゃかっこいいのだ。
ジミ・ヘンドリックス張りのクレイジーなギターを弾きまくっているのがピート・コージー。後にマイルス・デイヴィスのエレクトリック路線のバンドに参加したピート・コージーだけど、彼がマイルスからスカウトされたのはおそらくこのアルバムでのプレイ故のことだろう。
ピート・コージーとタメを張るフィル・アップチャーチも70年代にソウル系のセッション・ギタリストとして引っ張りだこになった人で、ラムゼイ・ルイスやジミー・スミスなどソウルっぽいジャズやダニー・ハサウェイの一連のスタジオ・アルバムのレコーディングにも加わっているようだ。
マディがギターを弾いていないなんてブルースとしては邪道だ、という気もするけれど、それはそれというか、このアルバムでギンギンに鳴りまくっているギターのかっこよさにはやはりノックアウトされてしまう。
マディのレコードというより、ピート・コージーとフィル・アップチャーチのレコードとして、これは素晴らしい作品だと思うのです。

また、改めてクローズアップされるべきなのは、ヴォーカリストとしてのマディの凄みだ。


地響きのようにズシンズシンと腹に来る声、その野太さと迫力。
ドスのきいたうなり声と、いかついシャウト。
どの曲からも唯一無二の存在感を示すマディが屹立している。
そのマディの存在感に触れるだけでじゅうぶんお腹いっぱいになれるアルバムだ。