golden(以下g):「欧米のヒット曲、いわゆる洋楽を聴き始めたのって、中学2年生くらいの頃だったよね。」

blue(以下b):「早生まれの13歳、1980年やな。」

g:「いろいろと色気づいてくる年頃(笑)」

b:「ビリー・ジョエルの”Honesty”がCMで流れてたりな、それまでなんとなく聴いてた歌謡曲とか、まぁサザンとかツイストなんかは売れてたけど、日本のいわゆる歌謡界とは違う世界があるってことに気づき始めた。」

g:「FMラジオでヒットチャートの番組とか聴き始めたりして。」

b:「そういう矢先に、ジョンが撃たれてまう事件があったんや。」

g:「びっくりしたよね。」

b:「“(Just Like)Starting Over”が気に入って、ちょっとファンになり始めた頃やっただけにな。」


John Lennon,Yoko Ono / Double Fantasy(1980)

g:「ただ、それですぐアルバム『Double Fantasy』を聴いたかっていうとそうでもなくて。」

b:「その頃はまだ、海外の音楽をアルバムで聴くっていう発想がなかった。友達とかもアリスや中島みゆきのアルバムは持ってても、海外のアーティストのアルバム持ってる奴がそもそもおらんかったな。」

g:「洋楽はヒット曲を楽しむもの、っていうイメージがあったよね。」

b:「あれ、高校生になってからやったかな、『The John Lennon Collection』っていうベスト盤が出て、そこに『Double Fantasy』のジョンの曲が全部入ってて、ずっとそればっかり聴いてたからな。」

g:「『Double Fantasy』のオノ・ヨーコの曲は評判悪いのは噂では聴いてたからね。」

b:「“Kiss,Kiss,Kiss”とかな。あれ中学生とかで聴くとどうしてええかわからんかったやろな。ヨーコの喘ぎ声とか。」



g:「さて、今回は“80年代ロック・クロニクル”と題して、80年代に聴いてたレコードをもう少しピックアップしてみたいと思ってて。」

b:「前の対談シリーズ では拾いきれんかった奴な。」

g:「クロニクルっていうのは、年代記という意味ですね。年代順にトピックを追っていこうかと。」

b:「個人史と当時の社会情勢を絡み合わせつつ、っていう感じ?」

g:「で、VS企画的に、対になるようなレコードを2枚ずつ紹介したいんだよね。」

b:「ジョンと対になるっていうと、ポールしかおらへんわな。」

g:「『Double Fantasy』の2年後にリリースされた『Tug Of War』だね。」


Paul McCartney / Tug Of War(1982)

b:「ジョンの死を悼んだ“Here Today”が泣ける。」

g:「タイトル曲“Tug Of War”とかスティーヴィーとの共作“Ebony and Ivory”とか、平和への願いが込められた曲が印象的だよね。」



b:「ジョンは死んでから”平和を求めた聖人君子”的な扱いをうけたけど、ポールもそういう歌をたくさん作ったわりにはそういう扱いを受けへんのは、なんか不憫やな。」

g:「この2枚のアルバムって、ジョンらしさとポールらしさがすごく出てるアルバムだよね。」

b:「『Double  Fantasy』の中で一番好きなんは“Watching The Wheels”やねん。」

g:「最初聴いたとき“Watching The Whoels”だと思いこんでて、ホエールウォッチングの歌だと思ってた(笑)」



b:「“僕はただ座り込んで/車輪が回っていくのを眺めてる/車輪が回るのを眺めてるのが好きなんだ/メリーゴーランドからはもう降りた/好きにさせてくれよ”っていう歌詞がな、引退してた頃のジョンの気分やったんやろうな。」

g:「“Woman ”とか“Beautiful Boys”とか、女性をリスペクトしたり息子を思う歌を歌ったりする一方で、こういう孤独でひねくれたジョン像がうっかり顔を出している。」

b:「そういうジョンが好きやねん。」

g:「“Woman ”で歌われている世界観なんて当時はよくわからなかったけど、今の時代に聴くとすごくナットク。」

b:「30年早かったんやな。」



g:「ジョンが“Starting Over”でロイ・オービソンみたいに甘いロックンロールを歌い、ポールはカール・パーキンスと組んでロカビリー回帰。ビートルズ解散後の70年代を乗り越えた2人が2人とも、オールディーズなロックンロールに回帰するかたちで80年代の入口に立った、っていうのはすごく象徴的な気がするね。」

b:「ニューウェーヴが続々と出てくる中で、俺たちはずっと昔からシンプルなロックンロールを演ってたんだ、っていう。」

g:「ま、ヨーコの曲は極端にニューウェーヴっぽいけど(笑)」

b:「そこはな、ヨーコをちゃんと立てつつ、並列させることで違いを際立たせるような狙いもあったんちゃうかと思うけど。」

g:「いろいろといわゆる洋楽がヒットしていた中でビートルズの残党から入っていくっていうのは、我ながら保守的だったよね。」

b:「女子がキャーキャー騒いでいるようなチャラチャラしたんは受け付けんかったんや。」

g:「そんな感じだったよね。真面目な文系少年。」

b:「いや、真面目っていうよりな、ちゃんと思想や哲学のあるものを求めてたんやと思うで。」

g:「ポップスやロックンロールに、流行音楽としてだけではない深みみたいなものを求めていた、と。」



b:「ジョンが死んだときにちょうどロックの入口に立ったっていうのは、我々の世代にとってすごい象徴的なことやと思うねんな。」

g:「ロックがロックたるアティテュードを終えようとした頃に入口を覗き始めた世代。」

b:「その分、俯瞰的で幅広い視野を持ち得た、というのはあると思う。」

g:「こういう音楽に出会って、ただの流行歌ではない深みを感じることができたからこそ、それからどんどんのめり込んでいくことになったんだろうね。」

b:「うーん、それからすでに40年以上か。」

g:「ジョンの『Double Fantasy』やポールの『Tug Of War』を聴くと、そんなに前の音という古臭さは全然感じないよね。」

b:「まぁ、スタンダードの持つ強さやろな。」

g:「聴いてるうちに14才の気分にも戻れる感じ。」

b:「いやぁ、あんなしょーもない年頃には戻らんでええで。大人の気持ちでちゃんと向き合って、やっぱりええ音楽やと思うけどな。」