リントン・クゥエシ・ジョンソンは、社会派の詩をダブのリズムに乗せて語るように歌うポエトリー・リーディングの第一人者。

メッセージを直接語るポエトリー・リーディングというスタイルがラップに直接影響を与えたのは想像に難くないけれど、それ以上に革命的だったのはダブだ。
メロディーやアレンジではなく、音響を音楽の一部としたというのは、エレキギターの登場に匹敵するようなかなりの革命的な事件だったのではないだろうか。

ダブの歴史は意外と古く、60年代後半にレゲエの手法のひとつとしてリー・ペリーらが始めたそうで、そもそもはシングル盤のB面の制作費用すらないレゲエ・シンガーがB面に歌なしのカラオケを入れて発売したもの。ただのカラオケではおもしろくないとディレイやエコーをかけたりリズムを立たせたりといった音響効果を追加したのだそうだ。
ブラック・ミュージックの歴史にはデルタ・ブルースの弾き語りやジャンプ・ブルースのスモール・コンボ、あるいはドゥ・ワップなど、貧しさに起因して発展したスタイルが多くあるけれど、ダブもそのようにして発明されたのだ。


リントン・クゥエシ・ジョンソンはジャマイカに生まれ少年の頃に両親と共にイギリスへ移民。
イギリス社会の中でマイノリティとして多感な時代を過ごし、社会的弱者の視点からの異議申し立てを歌うレゲエ詩人となった。


例えば“Making  History”はデモや暴動を煽るようなメッセージソングだ。

どんだけずっと続くと思っているのか
俺たちをずっと踏みにじり続けて
真実が明らかになったとき
お前らがどんだけ掴み、盗んできたか
お前らがどんだけ曲がった対処を重ねてきたか
サウスオールのダウンタウンで
ピーチ地区で
アジア人たちが人間の壁を作る
ファシストや警察に立ち向かうため
アジア人のとてつもないエネルギーを見せつけられるだろう
なにもおかしくはない
俺たちが歴史を作る

リントン・クゥエシ・ジョンソンの音楽には、レゲエはもちろん、ソウル、ブルース、ファンク、ジャズとあらゆるブラック・ミュージックの要素が含まれている。


ダブという音響効果の音楽化の先にヒップホップがあり、ポエトリーリーディングの先にラップがある。
ポエトリーリーディングは、ルーツを辿ればゴスペルの説教になり、更に辿れば西アフリカで民族の物語を延々と語る口承芸能のグリオに行き着く。
ラップやヒップホップについてはあまり詳しくはないけれど、そういう黒人文化の歴史を背負った表現だからこそ黒人たちの間であっという間に広く浸透していったのか知れない。