レニー・クラヴィッツは、1964年ニューヨーク生まれ。父親は東欧系ユダヤ人、母親はマイアミ出身のバハマ系。
幼い頃から音楽好きの両親の下で音楽に親しむ生活を送り、少年時代に好きだったミュージシャンは、カーティス・メイフィールド、ジェームス・ブラウン、ジョン・レノン、レッド・ツェッペリン、ジミ・ヘンドリックス、ジャクソン5などだったそうだ。
この出自と音楽嗜好を聞くだけでも、このリストにラインナップしたのはどうだったかと思ってしまうほど、レニー・クラヴィッツはソウル/R&Bの大きな流れとは別の場所で生まれたミュージシャンだ。アフリカ系のルーツとはまったく別のところで音楽観を形成してきたと言えるだとう。
1964年生まれともなるとほぼ同世代だから、こういう音楽嗜好というのはとてもよくわかる。
パンクでさえ過ぎ去ろうとしていた時期に音楽に興味を持った我々世代には、ハードロックもビートルズもソウルもファンクもレゲエも、あらゆる音楽が等距離にあって、手を伸ばせばいつでも触れられる環境で育ってきたのだ。

サウンド的にも70年代のアナログな音を志向し、80年代のキラキラしたアレンジはこの時期すでに絶滅寸前だったとはいえ、レニーの登場が留めを刺した印象がある。
歌詞も含めて、レニーが憧れた70年代ソウル的ラヴ&ピースなメッセージや、ジョン・レノン的怒りや告発っぽいメッセージが満載で。
正直初めて聴いたときは、やりすぎなんちゃう?とも思った。
でもその一方で、こーゆーのんって文句なしにかっこええわ!と思ってしまう自分もいたのだった。

このアルバムには大好きな曲がいっぱい入っている。
スラッシュがワイルドなギターを弾いている“Always On The Run”はバリバリのハードロック。“Stop Draggin' Around”もヘヴィなリフで組み立てたロックチューン。70年代のロックの感じだ。


“Stand By Woman”なんてもろ『ジョンの魂』からの影響まるだしの歌唱とサウンドメイクで、そこに若干のソウルっぽさをプラスして仕上げている。
ソウルっぽいといえば“It Aint Over Till It's Over”なんかはフリー・ソウル風。カーティス・メイフィールドのカヴァー曲だと言われれば信じてしまいそうなくらいだけど、これがまた実にかっこいい。


でも、こういうのをパクりだと揶揄する気にはならないんだよな。
うん、わかるよ、って感じ。
ロックもソウルも等距離で接し、いずれもリスペクトしてきたからこそのなんでもありの感覚。
ハードロックもビートルズもソウルもファンクもレゲエも、かっこいいものは何だって取り入れる。
ロックもソウルも元々ブルースやジャズやカントリーが混交しながらその時々にカッコよかった様々なスタイルを取り込んで変化してきた音楽なのだから、なんでもアリの感覚こそがロックやソウルらしさとも言えるわけで。
要はカッコよけりゃいいんだよ、というレニー・クラヴィッツのスタンスは、そういう意味でもとてもロックらしくソウルらしい音楽なのだと思う。