「エルヴィス以前のロックの歴史」 、「60年代〜90年代のロック・アルバム」 、と歴史を遡るシリーズを書き連ねてきたので、次は「60年代〜90年代のソウル/R&B」について書いてみようと思う。

若い頃に衝撃を受けたロックはもちろん自分の基礎だけど、実際のところ日常的には、ロックよりもソウルやR&Bを聴くことのほうが多いのだ。


ソウル/リズム&ブルース、とは言ったものの、その定義というのは実にあいまいだったりする。

では、ソウル・ミュージックとはそもそもなんぞや、というと・・・wikipediaでは以下のように解説されていました。

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1950年代、アメリカにおいてアフリカ系アメリカ人のゴスペルとブルースから発展しできた音楽の体系である。アメリカを始め、世界中でリズム・アンド・ブルース(R&B)がロックンロールという形を装ってポピュラー音楽の中に広く浸透し始める中、1950年代中葉から末にかけてアフリカ系アメリカ人の教会音楽の影響を多分に受けた新しいサブジャンルが誕生する。そして1960年代に、黒人のポピュラー音楽でゴスペルの影響力がよりはっきりとなるにつれて、ソウル・ミュージックと自然発生的に呼ばれるようになった。

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ブラック・ミュージック、とまで幅を広げると広すぎるのかも知れないけれど、ブラック・ミュージックと呼ばれる音楽のほとんどにはソウル・ミュージックと共通の“ソウル”がある。それは、コロンブスがアメリカを“発見”してからの400年もの間、虐げられ苦しめられた民族の歴史や、苦しい暮らしの中だからこその哀歓が共通のベースにあるからだ。

ただ、このあたりの音楽は、日本ではやたらとマニアが幅をきかせてレア度を競っていたり、ソウル、ファンク、ブルース、ジャズも含めてジャンル分けが厳しい感じがあって、実際の音楽はどのジャンルとも呼べそうな音でも分断されているようなところがあることが多くて。
それってどうなんだと思うところもあるので、ジャンルはむしろごちゃまぜで、ソウル/R&B的なジャズやブルースもぶっこみで、好きなアルバムを並べてみようかとの目論見です。
1年1枚換算として40年分40枚、敢えてベスト盤とライヴ盤は選ばず、オリジナルアルバムのみを選択の対象とします。
黒人・白人という呼称はもはや時代錯誤感があるけれど、この種の音楽を歴史を踏まえて語る場合にはやはりこの呼称がしっくりくるので敢えて使用します。


ロックンロールの歴史がエルヴィスを起点に始まるならば、ソウル/R&Bの始まりはサム・クックからに決まってる。

赤い鮮烈なジャケットに満面の笑みのサム・クック。
ジャケットだけでご飯がおかわりできそうなアルバムだ。


サム・クックは元々はゴスペル・グループのソウル・スターラーズの看板スター。
神を崇め信仰を称えるゴスペル界のスターが世俗の歌を歌うということは当時とても物議を醸したのだそうだ。



1曲目から“Twistin' The Night Away”で朝まで踊りまくろうとポップに盛り上げて、2曲目“Sugar Dumplin'”で立て続けにたたみかかけ、あとはもうサム・クック節のオンパレード。
サム・クックの何がいいって、爽やかだよね。
ポップで清々しい。
その清々しさの中にフックになるように、ちょっとした“アウッ”とか“ワォゥ”とかはさまるシャウトがかっこいい。
優しげだけど実はしたたかでワイルドで熱いのだ。

ベスト盤で聴けるヒット曲ではストリングスをバックにした上品なサウンドが多いサム・クック。それはそれで好きなんだけど、このアルバムはホーンも含めたバンド・サウンドで、まさに元祖ソウル・ミュージックという感じがしてエキサイティングだ。

黒っぽさも満点なんだけど、それでもやっぱりサム・クックらしい明るさや清々しさがある。



サムがゴスペル界からポップス界へと転身したのは、もちろん商売上のマーケット拡大を狙ってのことだけど、黒人向けだけではなく白人層にも広く受け入れてほしいとの思いが根底にあったと言われている。

敢えてシングルは黒っぽさを控えて軽くポップに仕上げて白人の少年たちもすんなり受け入れられるように。そこへ黒人としてのメッセージを忍び込ませてアメリカ中に聴かせようとした。

そこには、差別が厳しく貧困から抜け出せない黒人社会の現状を変えていくためには、黒人社会の中だけで支持されるのではなく、白人社会に入り込んで白人社会の中で黒人が対等に扱われるようにしなければとの思いがあったのだそうだ。

演説や、デモや、まして暴力ではなく、こういうポップなフィールドで世の中を変えたい、そんな意思が感じられる。



サム・クックの音楽が持つ、清らかで明るい変革の意思。

敵を作って格差や分断を煽るやり方ではなく、愛と共感をベースにしたやり方で世の中を変えることはできないものかという思い。

ソウル・ミュージックはただのポップスではなく、根底のところでそんな思いを抱いて始まったのだ。