ヒップホップはあまり得意ではない。
得意でない理由として、言葉に大きなウェイトがある音楽でありながら言葉がダイレクトに伝わってこないことが挙げられるだろう。
もうひとつの理由は、アナログ育ちの世代なのでスクラッチ・ノイズや打ち込みのデジタルなリズムがどうにも肌に合わないこと。
そんな中で現れたアレステッド・ディベロプメントの生音感の強いヒップホップには素直に拍手喝采だった。
やっぱり生音だよな。
言葉がわからなくても、やっぱりリズムさえ良ければ音楽はすっと入ってくる。


アルバム・ジャケットからもわかるように、自然回帰やアフリカ回帰を理想としたようなオーガニックでスピリチュアルな感覚が満載の音楽だ。
アフリカを感じさせるパーカッションを中心に据え、そこにファンク、ブルース、ゴスペル、レゲエの要素をたっぷりと盛り込んで。
ドラムの音はカンッと硬めでタイト。たくさんのパーカッションがリズムの隙間を埋めつくす。サビでは、ゴスペル直系の女性コーラス。
ルーツと最新型が、南部の田舎の泥臭さと都会のセンスが、ハイブリッドされた音楽。
それらが、奴隷解放から公民権運動での戦いの記憶を含め、黒人ならではの歴史観の元に構築されている。


“Mama's Always on Stage”ではジュニア・ウェルズのブルース・ハープをサンプリングしていて、これが土臭くてブルージーですごくいい。あぁ、サンプリングっていうのはこういうこともできるのかと目からうろこだった。

オープニングの"Man's Final Frontier" ではジェームス・ブラウンのシャウトをサンプリング。

“People Everyday”はタイトルどおりスライ&ファミリーストーンの“Everyday People”、“Fishin' 4 Religion”でも同じくスライの“Stand”のフレーズがはさみこまれているし、“U”ではラムゼイ・ルイスのピアノ、“Tennessee”ではプリンスの“Alphabet Street”など、あちらこちらで先人たちへのリスペクトが感じられるのがいい。



中心人物のSpeechをはじめ、メンバーの多くは1960年代後半生まれで、このミクスチャー感覚は同世代の僕も感覚的によくわかるというか、この世代ならではのものではないだろうかと思ったりする。
豊かさがある程度当たり前になってから育った僕たちの世代は、上の世代ほどハングリー精神や上昇指向はない。伝統に固執しないけれど伝統の大切さは理解している。上の世代が挫折した社会運動には憧れと失望を同時に抱いた一方で、リベラルというか公平な視野で物事を受け入れることには慣れている。
そういう背景から生まれたフラットなミクスチャー感覚から生まれた音楽のような気がする。

黒人解放の歴史観を踏まえた上で、ゴスペルーブルースーファンク・ソウル・レゲエーヒップホップと、歴史を辿るかのように織り込み、生音とサンプリングを有機的に融合させたミクスチャー・ソウル。
個人的には、このバンドのおかげでヒップホップに対する偏見がずいぶんと緩和されたかもしれない。