ウェイラーズの三声コーラスはもろにインプレッションズだし、トゥーツ&ザ・メイタルズのトゥーツ・ヒバートは後年にオーティス・レディングやメンフィス・ソウルのカヴァーアルバムをリリースしているくらいメンフィス・ソウルの信奉者だ。
ケン・ブースのジェントルさはサム・クックだし、メロディアンズやヘプトーンズはドリフターズやテンプテーションズのスタイルのジャマイカ版だろう。
そんなレゲエ第一世代の中で一番大好きなのは、ジミー・クリフなのだ。
ハリのある歌声の艶やかさ、伸びやかなリズム、クリアーなトーン、包み込むような大らかさ。
テイストやスタンスが一番近いのはスティーヴィー・ワンダーだろうか。
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若い頃からずっと
真実を探していた
生きることは本当に謎だらけで
途方に暮れそうだった
暗闇から振り向いたそのとき
そこに光があった
すべてがリアルになった
灯りを見つけたんだ
灯りを、明るく輝く
もうだいじょうぶ
(I See The Light)
ジミー・クリフが歌うと、どこか牧歌的に響くけれど、歌われている内容は辛辣だ。
戦闘的で直接的なピーター・トッシュや、哲学的で啓蒙的なボブ・マーリーに比べると、ジミー・クリフの印象はとてもゆるくて締まらない感じがするけれど、柔よく剛を制すという諺があるように、このゆるさこそがジミー・クリフの真骨頂なのだと思う。
ピーター・トッシュが原理主義的武闘派、ボブ・マーリーが理想主義的思想家だとすれば、ジミー・クリフは中道的で現実的なジャーナリストみたいな感じだろうか。
強い力で全体をリードしていくのではなく、市井の声に寄り添いながら小さな事例をひとつひとつ積み重ねていけばいいという草の根運動的な。
ただ、怒りや主張を直情的にではなくゆるやかに伝えることはとても難しい。
どうしてもそこには「俺はこんなに苦しいんだ」とか「わかってないお前らはアホや」という風になりやすい中で、ジミー・クリフはそれをとてもマイルドに主張する。
それってすごく難しいけど、ちゃんと主張を伝えるためには大事なことだと思うのだ。
感情の吐き出しでは自己満足に終わりがち。本当に変革したいなら、どう伝えるかということが大切なのだとジミー・クリフを聴くとそう思う。
普段はゆるゆるでもやるときはやる。
この“Born To Win”なんかでも、そういうジミー・クリフのポジティブさがいいよね。
軽やかなレゲエのリズムに乗せて、青筋立てて気張ってばっかりじゃなくて、飄々と仕事をやりあげる。
そういうのってかっこいいよな。
ラスタではなくブラック・モスレムだということもあってか、ハードレゲエ好きからは、日和っている、ソフィスティケートされすぎている、資本主義に魂を売っていると蔑まれがちなジミー・クリフ。だからといって一般的なポップからすればやっぱり独特のバタ臭さ辺境っぽさがあって、結局どっちつかず的でもあり、でもその絶妙なバランス感覚が好きなんですよね。
原理主義にも商業主義にも染まらないバランス感覚。ひとつの価値を絶対視せずにバランスよく取り込んでいく感覚。中和と中庸。根っこのところでは自身のルーツに忠実でありつつ、ソウルにしろアフリカ音楽にしろサンバにしろ、他の文化のエッセンスを上手に取り込んでいくある意味でのいい加減さ。
そういう中庸の美学がジミー・クリフにはある。