シカゴ・ソウル、デトロイトのモータウンと来て再び南部へ。
メンフィスに拠点を置いたスタックス・レコードは、MG'sという最強のハウス・バンドと共に山ほどの素晴らしいリズム&ブルースを録音した。
ウィルソン・ピケット、ソロモン・バーク、サム&デイヴ、アレサ・フランクリン、エディ・フロイド、パーシー・スレッジ、アーサー・コンリー、ジョー・テックス、ジョニー・テイラー。
数多くいるソウル・シンガーたちはそれぞれにみんなカッコいいんだけど、ものすごく極端に括ってしまうとオーティス・レディングと同系統である。もちろんそれぞれの音楽はまったく同じではないけれど、聴いたときに得る高揚感や感情の動かされ方はとても近い、という意味では同系統なのだ。
そういう南部系のシンガーの中で、あ、この人の存在感は何か違う、と感じさせるのがドン・コヴェイだ。


ドン・コヴェイといえば“Mercy,Mercy”、“Mercy,Mercy”といえばドン・コヴェイ。
初期のストーンズがカヴァーしたことで有名だし、歌い方のクセがミック・ジャガーそっくりということでも有名。いや、実際はミックがドン・コヴェイに似てるんだけど。
それからこの曲でギターを弾いているのは、まだジミー・ジェームスを名乗っていた頃のジミ・ヘンドリックスだというのも有名な話。


まぁ、それはともかく。
この人の佇まいは、ソウル・シンガーというよりはブルースマンの匂いがするのですよね。
ギター弾いて曲を作って自分のバンドで歌う、というスタイルがブルースマンっぽいし、実際後年にはジェファーソン・レモン・ブルース・バンドというバンドを率いてのブルースのアルバムをリリースしたりもしていたりする。
ウィルソン・ピケットやソロモン・バークなどゴスペルから直接影響を受けたようなシンガーのど迫力とは対極で、野太い声を震わせないかわりの華奢ながら鋭さのあるシャウトなんかがすごくカッコいいのだ。


“I'll Be Satisfied”。
この曲なんて、タイトルからしてブルースっぽいし、ストーンズの初期のアルバムに紛れてたって気がつかないかもしれない。


ジャンプ・ナンバーの“Come On In”も、シャウトがめちゃくちゃカッコよくて。
長い間、オムニバスのアルバムでの“Mercy,Mercy”と“Sookie,Sookie”と“See Saw”しか知らなかったから、これを聴いたときはちょっとぶっ飛んだ。っていうか、この曲で得られる興奮は、ソウルやリズム&ブルースというよりロックの高揚感に近い気がするのです。
ソロモン・バークのような威風堂々とした感じやウィルソン・ピケットのような熱血一筋な感じには、どこか気後れさせられてしまうようなところもあって、それより、ドン・コヴェイくらいラフで、どこかツメが甘いような感じのほうが親近感があるのだ。
まだ少年だった頃のミック・ジャガーもひょっとしたら、どこか近い匂いを感じてスタイルを取り入れようとしたのかもしれない。
いや、それは言い過ぎとしても、ドン・コヴェイの、ソウル・ミュージックのど真ん中ではない立ち位置は、アメリカから遠く離れたイギリスで黒人音楽をプレイするローリングストーンズの立ち位置と共通するものがあるような気がする。

ソングライターとしては、チャビー・チェッカーの”Pony Time”やアレサ・フランクリンの“Chain Of Fool”を作曲、またプロデューサーとしての資質もあったようで、ロック界でスーパーグループがいろいろ現れた1968年にはスタックスのレーベルメイトであったシンガーたちを集めた黒人版スーパーグループ「Soul Clan」というプロジェクトを起こしてシングルをリリースしたりもしている。


このソウル・クラン、メンバーはソロモン・バーク、ベン・E・キング、アーサー・コンリー、ジョー・テックスにドン・コヴェイ自身という錚々たるメンバーで、当初はウィルソン・ピケットやオーティス・レディングも参加する予定だったそうだからすごい。
こういうメンツを招集できるだけの実力と、一方で山っ気というか怪しさというか、そういう面もあったんだろうな。
そういうところもブルースマンぽいっというか、十把一絡げにできない魅力を感じるところだ。