■その街にたどり着いたとき、俺はもう半分死にそうなくらいに疲れきっていた。どこか足を伸ばしてくつろげる場所を探してうろうろ歩いてみたけれど、街に数件あるホテルはおろか、小さなビジネス・ホテルも満室。素泊まりのカプセル・ホテルですらさえもだ。観光シーズンな上に、円安の影響もあって海外からの旅行者が安いホテルを埋め尽くすんだな。
コンビニでビールとつまみを買ったついでに「どこか泊まれる場所はありませんか?」って訪ねてみたらレジの男が一言「ありません。」ってよ。
そのとき、俺にはその彼の背中の後ろにいる悪魔の姿が見えたんだ。
悪魔はこう言った。「生きている以上、休める場所なんちゅーとこは、どっこにもあらへんのんよ。さっさと荷物を下ろしたらええねんで。こっちへ連れ出したろか、ヒャッヒャッヒャ。」
結局その夜、俺は個室ビデオ屋のソファーで一夜を明かした。
アダルト・ビデオ?そりゃ、観たよ、10本ばかりとっかえひっかえしながらね。

その荷物を下ろしなよ。荷物を下ろして自由になりなよ。
その荷物を下ろしなよ。
そして、その荷物を俺に背負わせるがいい。

■さてと、カバンを持って立ち上がったものの、どこにも行きたい場所がなかった。
で、あまりにも暇なんで、女を呼び出してみた。得意先のスーパーでパートしてる冴えない女だ。旦那が若い女と不倫してるらしいとかでさ、言い寄って来たんで口説いてやったんだ。そしたらさ、その女、俺と会うのに子供を連れてきやがるんだ。はぁーっ?やってられんぜ。俺にはその子供らが悪魔に見えたね。
その場で二度と会わないって言ってやったさ。電話もしてくるな、ってね。
ハハハ、勝手な話だ。電話して呼び出したのは俺のほうだった。
いつかとんでもなくひどい罰を受けるな。

その荷物を下ろしなよ。荷物を下ろして自由になりなよ。
その荷物を下ろしなよ。
そして、その荷物を俺に背負わせるがいい。

■信心深いルーク氏は ただ審判の日を待って日々を過ごしているらしい。一人娘のアンナ・リーは、いい女ではあるけれど、ちょっと痛い女。あっちこっちの男に騙されては痛い目を見ているくせに、またしょーもない男にほだされてはカネもカラダも貢いでる。どーせまた最後は棄てられるのに、まるで学習するってことを知らない。
で、ルーク氏に会ったときに聞いてみたんだ、アンナ・リーはこの頃どうなんですか、って。
そしたらじいさん真顔になってこう言ったんだ。
「ひとつ相談なんだが、アンナ・リーと所帯を持ってやってはくれないか。あんたみたいな堅実な男と一緒にさぜたいんだ。」って。
はぁ?冗談じゃない。馬鹿な女の尻拭いなんてまっぴらごめんだ。そう腹で思いながら俺の返事はこうだ。
「いやぁ、ルークさん、私なんかにはとんでもなくもったいないレディーでございますよ。」ってね。

その荷物を下ろしなよ。荷物を下ろして自由になりなよ。
その荷物を下ろしなよ。
そして、その荷物を俺に背負わせるがいい。

■ちょっと人と違うっていうことは個性のひとつだとは思う。でも、彼がどんなに努力しようがどんくさいのには変わりない。
ある日上司に呼ばれてこう言われたんだ。
「あんまり出来がよくないと評判の子をうちで引き取ることになった。申し訳ないが面倒を見てやってくれ。」
そう言われたところで俺には断る権限なんてどこにもない。かくして俺の毎日はそいつに引っ掻き回されることになった。
「相談があるんですけど。」と仕事の手を止められることが一日平均28回。で、相談に乗ってアドバイスしたところで、結局そのとおりにしてみた試しがない。「やっぱり自分はこう思うんですー。」って、だったら最初から相談してくるな、って。
挙げ句、半年後にまた上司に呼び出されてこう言われたんだ。
「お前、教育担当失格。」
ハハハ、まったく馬鹿げた話だ。

その荷物を下ろしなよ。荷物を下ろして自由になりなよ。
その荷物を下ろしなよ。
そして、その荷物を俺に背負わせるがいい。

■砲弾を食らって前線から撤退指令が出た。
そのとき、くらっと来たかと思ったら膝がガクンと力を失って、俺はその場に倒れこんでしまった。
あ、やられたかも。
ドクドクと血だまりが足元にできていく。
脳裏に彼女の姿が浮かぶ。彼女こそはただ一人の女。
俺を彼女から引き離してここへ送り込んだのは誰だ?
だから言ったんだよ、国民の平和を守るための法案だなんて嘘っぱちだって。
だから言ったんだよ、確実に戦争に巻き込まれる、若い兵士の命が無駄に失われるって。
でも、まさか、それが俺だったなんてな。
もはや新聞に載りさえしない、交番の前の昨日の交通事故者数みたいにただの数字にされてしまう俺の命のことを、誰か覚えてくれているのだろうか。
せめて彼女くらいは。

リヴォン・ヘルムが歌っている。
その荷物を下ろしなよ。荷物を下ろして自由になりなよ。
その荷物を下ろしなよ。
そして、その荷物を俺に背負わせるがいい。






非常に難解な歌詞として知られる“ザ・ウェイト"。
確かにワケわからんから、出てくる言葉だけをヒントに超意訳してみました。
元の歌にはない言葉もたくさん出てきますが、フィーリングとしてはこんな物語が、僕には浮かんできたのです。
ロビー・ロバートソンの意図はおそらく、こんなテキトーな物語の中にある不条理な人生の嘆きや哀しみ、それを滑稽さも含めて描き出すことだったんじゃないかと。
あくまでも超意訳です。まるで参考にはなりませんこと、ご承知ください(笑)。