科学への信頼が厚く、大学は工学部に入った皆藤章さん。
そんな皆藤さんが、臨床心理士を目指すようになったきっかけとなった、ある恐ろしい事件とは――。

致知出版社の人間力メルマガ 2018.4.27
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鈴木 秀子(文学博士)
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皆藤 章(臨床心理士)

※『致知』2018年5月号
※特集「利他に生きる」P26
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【皆藤】
河合先生と出会えたのは全くの偶然です。
私は高度成長期に多感な時期を過ごしたので、科学への信頼はかなり厚いものがあったんです。
科学で社会に貢献したいと思って大学は工学部に進みました。

2年生の時に不登校の中学生の家庭教師をしていました。
ある日その家に行くと、その中学生が運動靴を履いたまま「おかんどこや」と叫びながら居間を歩き回っていました。
怖くて押し入れに隠れていた母親を見つけると激しく殴ったり蹴ったりして、最後には電話線で首を絞めたんです。それは凄惨な状況でした。

【鈴木】
そんなことが……。

【皆藤】
私は「やめろ」と叫んで後ろから羽交い締めにしましたが、母親は「先生、止めないでください。私が悪いんです」と言うのです。
母親は失明寸前の大けがを負い救急車で運ばれましたが、この衝撃的な出来事をとおして、私はどれほど科学が進んだとしても、この家族が抱える問題を解決することはできないと痛切に感じたんです。
工学部で学ぶ意欲が失せていったのはその時からです。

【鈴木】
それで教育学部に転学なさったのですね。

【皆藤】
転学して最初に受けたのが河合先生の臨床心理学の授業でした。
その時、先生は仁王立ちになって遠くを見つめながら、「臨床という言葉は床に臨むと書く。つまり、臨床とは死に逝く人の床に臨んで魂のお世話をすることです」とおっしゃるんです。

周りの学生たちは頷いていましたが、「魂のお世話」と言われても私には何のことだかさっぱり分からなかった。
科学は魂という概念を捨てるところから始まっているわけですからね。

でも、一方では「変なことを言う先生だけど、この先生に学べばあの親子の気持ちが少しは理解できるかもしれない」と思うと、すごくエネルギーが湧いてくるのを感じたんですね。
心理学を学ぶ学生の中では最後尾を走っていた私でしたが、それでも必死に勉強して大学院へと進みました。


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