■「加瀬英明のコラム」メールマガジン
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無関心でいられない 中東の危機
昨年12月に、クリスティーズの美術オークションで、新しく発見され、レオナルド・ダヴィンチの作品だと鑑定された、イエス・キリストの肖像画が、過去最高額の4億5000万ドル(約500億円)で落札されて、世界的に話題を呼んだ。
海外メディアによれば、サウジアラビアのモハマド・ビン・サルマン皇太子が落札した可能性が高く、現在、隣国の首長国のアブダビの美術館に寄贈されて、所蔵されている。
日本におけるサウジアラビアのイメージといえば、灼熱の砂漠、駱駝と、石油マネーが唸る神秘的な国だが、アラビア半島が日本の天然ガスと石油のほとんどを、供給している。
昨年11月に、32歳のモハメド皇太子が、有力な王子グループを拘留して、国政を掌握した。これまでサウジアラビアでは政治が、王族たちの合議(コンセンサス)によって行われてきたから、クーデターだった。
逮捕されたプリンスたちは、首都リディアの贅をきわめるリッツ・ホテルから、一般客を追い出して幽閉されたが、1月に不正に蓄財したという数百億ドルが没収された後に、釈放された。
モハマド皇太子は石油に依存してきた経済から、2030年までに脱却して、近代国家を建設する目標を掲げている。
サウジアラビアは、もっとも保守的なイスラム国家だったが、改革を進めて、女性が目だけをだして黒衣で全身を覆い、家族の男性の同伴なしに外出したり、自動車の運転を禁じ、戒律に従って映画館も、劇場もなかったのを、許すようになるという。大改革だ。
皇太子の政権奪取は、シリアでIS(イスラム国)が壊滅し、イランが支援するアサド政権が勝ったことに、強い危機感に駆られたためといわれる。この直後に、内戦に陥っている隣国イエメンから、イランが操る反乱軍が、リディアへ向けてミサイルを発射した。
サウジアラビアはイランを天敵とするイスラエルと、かねてから裏で協力してきたが、ムハマド皇太子は事実上の同盟関係を結んだ。イスラエルは隣のレバノンで、イランが支援する民兵のヒズボラに脅かされている。
12月の皇太子による実権掌握は、あきらかにトランプ大統領の承認を受けたものだ。その前月、トランプ大統領の娘のイバンカが東京を訪れたが、この時、夫君のクシュナー氏がリディアを訪れている。
皇太子の「2030年改革計画」は、アブダビを手本にしているといわれる。
私は性急な改革が、成功しないと思う。かつてイランで、パーレビ皇帝が性急に改革を進めたために、イスラム保守派革命が起って、帝政が倒れた轍(てつ)を踏むのではないか。
2030年改革計画では、巨大な新都市をいくつも建設することになっているが、すでに資金調達が行き詰まるようになっている。昨年、サウジアラビアの経済成長率は、マイナス0.6%に陥った。毎年、人口が2%で増えてゆくのに、追いつかない。
先のダヴィンチの絵画は「サルバトル・ムンディ」(救世主)と題される聖画だが、イスラム教は人の像を描くことを固く禁じており、ましてイエスを神として認めていない。
サウジアラビアのイスラム僧をはじめとする宗教保守勢力が、一連の改革による脱イスラム化を、傍観するものだろうか。
私は中東の研究者だが、1980年にレバノンのベイルートを占領していた、パレスチナ解放機構(PLO)のアラファト議長に招かれて、会ったことがあった。その時に、アラファト議長が「中東は砂丘のように、ある時、様相が一変する」と、語った。
アラビア半島が大混乱に陥った時に、いまアメリカは東アジアと中東の2正面を、同時に守る軍事力を持っていない。
アメリカ軍が東アジアを留守にした時に、日本は北朝鮮、中国に対抗することができるのだろうか。
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無関心でいられない 中東の危機
昨年12月に、クリスティーズの美術オークションで、新しく発見され、レオナルド・ダヴィンチの作品だと鑑定された、イエス・キリストの肖像画が、過去最高額の4億5000万ドル(約500億円)で落札されて、世界的に話題を呼んだ。
海外メディアによれば、サウジアラビアのモハマド・ビン・サルマン皇太子が落札した可能性が高く、現在、隣国の首長国のアブダビの美術館に寄贈されて、所蔵されている。
日本におけるサウジアラビアのイメージといえば、灼熱の砂漠、駱駝と、石油マネーが唸る神秘的な国だが、アラビア半島が日本の天然ガスと石油のほとんどを、供給している。
昨年11月に、32歳のモハメド皇太子が、有力な王子グループを拘留して、国政を掌握した。これまでサウジアラビアでは政治が、王族たちの合議(コンセンサス)によって行われてきたから、クーデターだった。
逮捕されたプリンスたちは、首都リディアの贅をきわめるリッツ・ホテルから、一般客を追い出して幽閉されたが、1月に不正に蓄財したという数百億ドルが没収された後に、釈放された。
モハマド皇太子は石油に依存してきた経済から、2030年までに脱却して、近代国家を建設する目標を掲げている。
サウジアラビアは、もっとも保守的なイスラム国家だったが、改革を進めて、女性が目だけをだして黒衣で全身を覆い、家族の男性の同伴なしに外出したり、自動車の運転を禁じ、戒律に従って映画館も、劇場もなかったのを、許すようになるという。大改革だ。
皇太子の政権奪取は、シリアでIS(イスラム国)が壊滅し、イランが支援するアサド政権が勝ったことに、強い危機感に駆られたためといわれる。この直後に、内戦に陥っている隣国イエメンから、イランが操る反乱軍が、リディアへ向けてミサイルを発射した。
サウジアラビアはイランを天敵とするイスラエルと、かねてから裏で協力してきたが、ムハマド皇太子は事実上の同盟関係を結んだ。イスラエルは隣のレバノンで、イランが支援する民兵のヒズボラに脅かされている。
12月の皇太子による実権掌握は、あきらかにトランプ大統領の承認を受けたものだ。その前月、トランプ大統領の娘のイバンカが東京を訪れたが、この時、夫君のクシュナー氏がリディアを訪れている。
皇太子の「2030年改革計画」は、アブダビを手本にしているといわれる。
私は性急な改革が、成功しないと思う。かつてイランで、パーレビ皇帝が性急に改革を進めたために、イスラム保守派革命が起って、帝政が倒れた轍(てつ)を踏むのではないか。
2030年改革計画では、巨大な新都市をいくつも建設することになっているが、すでに資金調達が行き詰まるようになっている。昨年、サウジアラビアの経済成長率は、マイナス0.6%に陥った。毎年、人口が2%で増えてゆくのに、追いつかない。
先のダヴィンチの絵画は「サルバトル・ムンディ」(救世主)と題される聖画だが、イスラム教は人の像を描くことを固く禁じており、ましてイエスを神として認めていない。
サウジアラビアのイスラム僧をはじめとする宗教保守勢力が、一連の改革による脱イスラム化を、傍観するものだろうか。
私は中東の研究者だが、1980年にレバノンのベイルートを占領していた、パレスチナ解放機構(PLO)のアラファト議長に招かれて、会ったことがあった。その時に、アラファト議長が「中東は砂丘のように、ある時、様相が一変する」と、語った。
アラビア半島が大混乱に陥った時に、いまアメリカは東アジアと中東の2正面を、同時に守る軍事力を持っていない。
アメリカ軍が東アジアを留守にした時に、日本は北朝鮮、中国に対抗することができるのだろうか。