From 小浜逸郎@評論家/国士舘大学客員教授

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 『三橋貴明の「新」経世済民新聞』

     2018/2/15




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「新」経世済民新聞
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「技術文明との向き合い方」
From 小浜逸郎@評論家/国士舘大学客員教授


何とこの年になるまで、回転寿司というものに入ったことがありませんでした。
別に寿司の通を気取っていたわけではありません。
チャップリンの『モダンタイムズ』みたいに自分が流れ作業に従事している感じがして、何となく入る気がしなかったのです。
安かろうまずかろうとも思っていました。
せめてゆっくり食事する時ぐらいは静かにテーブルで、と。
しばらく前、近くのデパートのレストラン街に金沢が本店の「もりもり寿司」ができて、うまそうなので、このたび、入ってみました。
完全に食わず嫌いだったことがわかりました。

知っている人にとっては当たり前なのでしょうが、テーブル席にもコンベアが走っていて、そこから自由に取り出せるだけでなく、タッチパネルで注文すると、上部のコンベアをおもちゃの新幹線が走ってきて、ピタとテーブルの前で止まります。
あがりも湯呑に抹茶を入れて自動給湯で思いのまま。
お会計は、テーブルに積み上げたお皿を店員がスキャナーでさっとひと撫で、たちまちレシートが出ます。
相当食べて飲んで、お値段もリーズナブル。
店内は寿司屋らしい和風の雰囲気が保たれています。
肝心のお味ですが、これがまた、なかなかうまいのです。
後で聞けば、こんなシステムはもう何年も前から整っているとのこと。
でも何しろ初めてなので、小さい子どもみたいにちょっと感動してしまいました。

いろいろな人がいて、あんなのは邪道だと思っている向きもあるでしょう。
分厚い檜一枚板のカウンターを挟んで板前さんと差し向かい、世間話に花を咲かせながら江戸前寿司を握ってもらう??これが「本道」なのかもしれません。
こういう伝統的な雰囲気を守ることももちろん大切でしょう。
しかし技術は需要(欲望)に見合って進展します。
スマホがあっという間に普及し、いまなお技術革新の競争が止まないように、その背景には膨大な人々に共通した需要があるわけです。
進化した回転寿司のテーブル版は、家族連れ、数人規模のお客さんなどにはもってこいです。

新しい生活技術、生活文化が登場すると、決まって三種類の人が出てきます。
抵抗なくすぐに飛びつく人、拒否反応を起こす人、定着と改良を待って慎重に構える人。
すぐに飛びつく人がおっちょこちょいかというと、一概にそうでもありません。
早くからその技術に適応し便利さや快適さを判断しつつ、性能をよく知った上で次の改良技術に軽快に乗り換えていくケースが多いようです。
キャリアが長いほど、熟達度も増します。
主として若者たちですね。

当たり前ですが、拒否反応を起こす人は、高齢者に多い。
なかには、自分の拒否反応に理屈をつける人がけっこういます。
テレビが普及し始めた時に、一億総白痴化と評した評論家がいました。
教育に与える悪影響が大真面目に論じられたも
のです。
モータリゼーションの波がやってきた時には、「走る凶器」などと呼ばれ車廃絶運動が実際にそれ相応の力を持ちました。
漫画が流行した時に、大学生が漫画を読むとはなんと嘆かわしいことだと騒がれました。
携帯電話が普及した時には、「心蔵のペースメーカーをつけている人に悪影響を及ぼしますので」なんて、ヘンな車内放送が流れました(そんな人、めったにいねーだろ)。
「偶数号車ではマナーモードで、奇数号車では電源をお切りください」なんてのもありましたね(いちいち車両番号確認して乗る人がいるわけねーだろ)。
もっとも、車内での通話は確かにうるさく感じる人が圧倒的に多かったので、これは迅速にマナーが徹底しましたが。

さてスマホに変わると、迷惑に感じる人はほとんどいなくなったので、今度は、テレビの時と同じように、みんなが車内でスマホを覗いている姿を見て、嘆かわしい時代になったなどとつぶやくご老人も現れました。
でもスマホは、実に多機能ですから、くだらない芸能ネタを追いかけている人もいれば、幼稚なゲームに熱中している人もいる反面、一生懸命調べ物をしている人もいれば、仕事にぜひ必要なメール交換を繰り返している人もいる。
家族や友人、恋人と大切なコミュニケーションをしている人もいます。
そういうことをくだんのご老人は考えてみようとしないのですね。
これは本当は、自分がついていけないことに対する負け惜しみです。
ところが、自分がついていけないだけなのだと素直に認めたくない感情があって、しかもそのことを自覚していないのです。
この種の人たちは、自分の限られた前半生の中で、じつはそれまでの技術文明の恩恵にさんざん浴してきたのに、その事実は脇に置いてしまいます。
そして、こなしきれないものが現われると、たいてい道徳的なスタイルを取って世を嘆き、「昔はよかった」と過去を美化します。
その「昔」というのも、せいぜい自分の祖父母の代くらいまでしか想像力が及ばず、前近代がどんなたいへんな時代だったかなどを考えてみようとしないのですね。

こういうことは、文明が始まってからずっと続いてきました。
でもいまでは一部の偏屈な人を除き、だれもが少し前に現れた文明の利器をまったく自然に使いこなしているので、そのありがたみを意識しないだけなのです。
人間なんて、大多数の愚民と少数の賢者がいるだけで、昔からそんなに変わっていないんですよ。

回転寿司から話が広がりましたが、以上のように書くと、筆者が技術文明の発展を手放しで肯定しているかのように受け取られたかもしれません。
もちろん文明の利器には、それぞれに固有の欠陥があります。
テレビはいまでは、地上波メディアのコンテンツがすっかりマンネリ化しているのに、その洗脳力だけは強く残っていますからウソを平気で信じ込ませるための恰好の道具と化しています。
車は、性能が向上し、だいぶ事故が減りましたが、それでも年間交通事故死者数は4000人を超えています。
インターネットの普及は、質の高い出版文化の衰頽に大きな影響を及ぼしています。
また、だれでもロクに勉強せずにSNSなどで意思を発信できますので、間違った情報や悪意のある情報が乱れ飛ぶようになりました。
さらに、サイバーテロなどの新しい問題も起きています。

およそこれらのことは、技術文明の発達にはつきものです。
しかしいったん広がって私たちの生活に深く定着してしまった技術をなしにすることはできません。
あなたは車やスマホを棄てられますか。
エアコン、電気冷蔵庫、洗濯機、電話、鉄道はどうですか。
個人的には捨てることができて仙人生活に甘んじるとしても、人民の大多数が選択している技術文明を棄てるべきだと訴えることが、よい思想だとはとても思えません。
何よりも、技術開発投資を抑制することは、資本主義体制の根幹を揺るがすこと。
だれも前近代や発展途上国や原始生活に戻りたいと思わないでしょう。

ある技術文明の欠陥を克服するには、その全体を否定するのではなく、蓄積されてきた特定の技術領域の範囲内で工夫を重ね、より高度化した技術を開発するか、まったく新しい発想にもとづく技術を発明するか、それ以外に方法はないのです。

プロメテウスは人間に火を与えたことで山頂に縛り付けられて鷲に肝臓をついばまれる罰を受けましたが、この罰は人間自身が背負うことになった宿命であり、労苦であるとも考えられます。

筆者の頭の中では、いま、エネルギーや環境や医療、食糧やAIなど、現代技術文明にかかわるさまざまな問題がぐるぐる回っていますが、それについて詳しく語ることはまたの機会に。
いまは、あの回転寿司がもっと改良を重ねて、より快適な「和」の空間でより美味くより安い寿司が食べられるようになることを願うにとどめておきましょう。

【小浜逸郎からのお知らせ】
●『福沢諭吉と明治維新』(仮)を脱稿しました。出版社の都合により、刊行は5月になります。中身については自信を持っていますので(笑)、どうぞご期待ください。
●『表現者』連載「誤解された思想家たち第28回──吉田松陰」
●「同第29回──福沢諭吉」
●月刊誌『正論』2月号「日本メーカー不祥事は企業だけが悪いか」
●月刊誌『Voice』3月号「西部邁氏追悼」
●ブログ「小浜逸郎・ことばの闘い」
http://blog.goo.ne.jp/kohamaitsuo



---発行者より---



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