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書籍紹介 廣木寧著『天下なんぞ狂える―夏目漱石の『こころ』をめぐって』
SK生
■■ 転送歓迎 ■■ No.2740 ■■ H29.12.11 ■■ 7,975部■■
本会(公益社団社団法人 国民文化研究会)会員、廣木寧氏の近著である。著者が学生時代から愛読してきた夏目漱石に関する論考であり、序章のほか、全七章からなるハードカバー上下二巻の大作である。
『こころ』は漱石の代表作の一つとして知られるが、主人公である「先生」は長い遺書の終りに、明治天皇の崩御の際、「私は明治の精神が天皇に始まって天皇に終ったやうな気がしました」と記し、「もし自分が殉死するならば、明治の精神に殉死するだ」と妻に語ってゐる。
『こころ』の有名な一節だが、では、この「明治の精神」とは、「先生」にとって、漱石にとって、どのやうな精神であったのかは『こころ』を読むだけでは必ずしも明らかではない。本書はこの漱石にとっての「明治の精神」を明かすものになってゐる。
本書では、明治を生きた漱石の、青春時代の正岡子規との交友、半生をかけた英文学研究と英国への留学、小説家としての生活と門下生とのやりとりなど様々な側面に光を当ててゐる。
著者は「人生の純粋性や理想を求めようとする哲学性なり思想性なりというものは私たちの心の中奥深くあるのだが、その、哲学性も思想性も日常性に食い殺されて行く生活の真っ只中で、漱石は戦いながら書き続けたのだ」と漱石の著作活動を評してゐるが、本書では漱石の不幸な生ひ立ちや恋愛や家庭の経済生活なども含めてその日常をも見据えつつ、漱石の内心の戦ひに迫る。
漱石の小説、論文、講演録、書簡、漢詩などその言葉を丹念に読みとくとともに、様々な周辺のエピソードを交へて漱石像を描き出す手際はいつもながら見事で、興味深い。そして、その全体が漱石に生きてゐた「天皇に始まって天皇に終った」「明治の精神」に収斂する構成となってゐる。
私は、特に子規と漱石の友情と二人の志の高さに打たれた。
著者は漱石が大学を卒業する前に発表した「英国詩人の天地山川に対する観念」といふ研究を紹介するに際して、子規の「俳諧大要」と並べて、二十代の両者の「研究の深さと烈しさ」、「(英文学と俳句文学と)耕す畑こそ違え同じ精神の高さと足腰の強さ」を指摘して、学問の豪傑たらんと「鍛錬」を競ひあった二人の仕事を評してゐる。
二人の友情はこの学問の志と一つであった。漱石は留学中にもらった子規の最後の手紙を、後年『吾輩は猫である』の自序にその全文を引用した、といふことも本書で知った。『猫』は親友子規に捧げられたのだった。
本書では乃木大将について二章を割いてゐる。普通には旅順の名将と小説家では如何にも対照的に思へるが、本書で明らかにされる倫理的人格としての漱石の姿を示す言葉や漢詩を読むとき、両者の距離は意外に近いことを思はしめられる。
二人とも明治新時代の国家的な使命感の中に生きた人である。本書で引用される漱石の書簡(鈴木三重吉宛)にも「死ぬか生きるか、命のやりとりをする様な維新の志士の如き烈しい精神で文学をやって見たい」とある。
著者が表題に選んだ「天下なんぞ狂える」とは大正五年の漱石最晩年の漢詩から取ったものである。七言律詩の一節に
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天下何(な)んぞ狂える筆を投じて起(た)ち人間(にんげん)道(みち)有り身を挺(ぬき)んでて之(ゆ)く
吾(わ)れ当(まさ)に死すべき処(ところ)吾れ当に死すべし…
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
とあって、あたかも憂憤する志士のやうな気迫に満ちてゐる。それを題に選んだ本書の著者もまたその気持ちを等しくしてゐるのであらう。
本書の序によれば、漱石は百年後の日本人に向けてその作品を書いた。「百年後に第二の漱石が出て第一の漱石を評してくれればよい」と漱石の書簡中にあるといふ。昨年は漱石歿後百年であった。
本書の著者は百年後の評家として本書を刊行した。第二の漱石としてかどうかは知らないが、漱石の志をよく見届けた人の書だと思ふ。著者の思ひは深く、読み応へのある本である。諸兄姉にもお手にとっていただきたい。
廣木寧著『天下なんぞ狂える?夏目漱石の『こころ』をめぐって』
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