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『三橋貴明の「新」日本経済新聞』
2015/04/22
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From 佐藤健志
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●●憲法9条は日本の誇りなのか? 国家の危機の原因か?
月刊三橋最新号のテーマは「激論!憲法9条?国家の危機に備えるために」
https://www.youtube.com/watch?v=4OQ4DnbgVS0&feature=youtu.be
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経済(活動)とは、「ある特定の共同体(国家、社会、地域など)に帰属する人々が、豊かで安心して暮らせることをめざす活動」の総称である。
ゆえに経済活動が、つねに効率よく利益をもたらすとは限らない。また根本の目標は「特定の共同体に帰属する人々の幸福」なので、当該の共同体とは密接不可分の関係がある。
ビジネスとは、「経済活動の中で、もっぱら効率よく利益をあげることを目標とするタイプのもの」を指す言葉である。特定の共同体の幸福が、この目標よりも優先されることはなく、ゆえに共同体と密接不可分の関係を形成する必要もない。
先週はこの定義を踏まえ、過剰なビジネス志向が共同体の破壊にまで行き着きかねないことを、ジョン・カーペンター監督の映画『ゼイリブ』(1988年)を題材に論じました。
しかるに経済とビジネスの相違を、「共同体とのつながり」を媒介にして鋭く描いた映画が、もう一つあります。
デイヴィッド・クローネンバーグ監督が2012年に発表した『コズモポリス』。
アメリカの作家、ドン・デリーロの小説が原作ですが、映画はカナダ・フランス・ポルトガル・イタリアの合作となっていました(ちなみにクローネンバーグ監督はカナダ人)。
知的で哲学的な視点に基づき、人間や文明の持つ自滅的な傾向を探求するのがクローネンバーグ映画の特徴。
彼の作品の中でも、『コズモポリス』はとくにインパクトが強いものの一つです。
主人公のエリック・パッカーは、28歳の若さにもかかわらず、金融業界で大成功を収めたスーパーリッチ。
当然、ウォール街にオフィスを構えているものの、彼にはもう一つ、「移動するオフィス」とも呼ぶべきものがありました。
すなわち、愛用のリムジン。
車体がやたらに長い、いわゆる「ストレッチ・リムジン」(「引き延ばされたリムジン」の意)ですが、内部には最新のコンピュータが詰め込まれ、投資活動ができるようになっている。
ついでに完全防音処理が施されており、外の物音は一切入ってきません。
医者の検診であれ、愛人とのセックスであれ、パッカーはこのリムジンの中ですませていました。
さて。
ある日、リムジンに乗り込んだパッカーは、散髪に行くと宣言します。
美容師を車に呼びつければ良さそうなものながら、そういう話にはなりません。
パッカーが行きたがったのは、子供時代によく通った下町の床屋なのです。
それはまあ、スーパーリッチが気まぐれを起こしていけないことはない。
しかしリムジンが出発した直後から、物事はとんでもない展開を見せ始める。
大統領が来ているとかで、道路は大渋滞。
そう遠くないはずの床屋に、えんえんたどりつけません。
おまけに街頭では、社会的格差の拡大に怒った人々が激しいデモを展開中。
というと、数年前に起きた「ウォール街占拠運動」が思い出されますが、『コズモポリス』の原作が発表されたのは2003年のことですから、じつに先見性のある設定です。
パッカーのリムジンもデモ隊の標的にされ、純白だった車体が落書きだらけになってしまう。
しかも彼は車内から、人民元について莫大な買い注文を出したものの、床屋への道をのろのろ進む間に人民元が暴落、一日のうちに全資産を失うハメに!
パッカーが買い注文を出す通貨は、原作では日本円とされていたのを、クローネンバーグが人民元に変更したそうですが、これも予言的な展開になるかも知れません。
そして。
どうにか床屋にたどりついたパッカーを、ベノという男が殺そうと付け狙う。
ベノはパッカーの投資会社で働いていた人物ながら、同社をクビになったせいで、自分の人生を奪われたような気になっていたのです。
さあ、パッカーの運命やいかに?
何か、突拍子もない話だなあ・・・
そう思われた方もいるのではないでしょうか。
しかし面白いのは、「経済(経世済民)」「ビジネス」「共同体」の概念を当てはめると、このすべてが見事に意味をなすこと。
パッカーが、経済ならぬビジネスに徹している人物であることは明らかでしょう。
ゆえに彼は、地元であるニューヨークはもちろん、アメリカという共同体ともつながりのない存在。
完全防音処理が施され、外の世界と隔絶されたリムジンの中で、中国の通貨に投資しているのですから。
しかしどんな人間も、共同体と完全に無縁のまま生きることはできない。
アイデンティティの基盤がなくなってしまうではありませんか。
髪を切りたくなったパッカーが、美容師を車に呼ぶのではなく、子供時代に通った床屋に行きたくなったのも分かる話。
けれども共同体とのつながりを回復したいのであれば、共同体の幸福(つまり経世済民)を無視してビジネスをやってきたツケを払わねばならない。
デモ隊の襲撃もそうですが、ツケの最たるものはベノです。
なにせベノは、パッカーの命を狙いつつも、「俺はアンタに救ってもらいたかったんだ!」と訴える。
この言葉を聞いて、パッカーはふいに涙を流すのですが、「経世済民」が「世を経(おさ)め、民を済(すく)う」ことを意味するのを思えば、彼がなぜ泣いたかは明らかでしょう。
ベノはパッカーが「経済」をやってくれると信じたのです。
けれども、現実にパッカーが展開したのは「ビジネス」だった。
そのせいで「共同体」は荒廃し、ベノも失業者となった。
だからベノはパッカーが許せないのです。
とはいえこれは、その気さえあれば、パッカーがベノの「救世主」になれたことも意味する。
郷里の村のために堤防を建設し、「生き神」のごとく崇められた濱口梧陵のように、です(梧陵自身は崇拝の対象となるのを拒んだようですが、それは別の話でしょう)。
クローネンバーグは、ある描写を通じて、この点を鮮烈に際立たせました。
ベノとのやりとりのさなか、パッカーはふいにピストルで自分の手のひらを撃ち抜く。
しかるにキリストも十字架にかけられるとき、手のひらに釘を打たれたとされているのです。
キリスト教では、超自然的な理由によって、信者の身体に同様の傷が生じることがあるとされており、これを「聖痕(スティグマータ)」と呼びます。
パッカーが流した涙は、ビジネスにたいする経済の優位を痛感したためのものではなかったか?
なおイギリスの新聞「ガーディアン」に掲載された、ピーター・ブラッドショーによる映画評によれば、「散髪(ヘアカット)」とは「過熱しすぎた市場が、暴落によってバランスを取り戻すこと」の隠語かも知れないとのことでした。
伸びすぎた部分をバッサリやってしまうから、というわけでしょう。
ならば床屋に行く途中、パッカーが資産を失うのは、ますます必然の帰結と評さねばなりません。
ではでは♪
(※)次週、4月29日はゴールデンウィークなのでお休みします。
5月6日にまたお会いしましょう。
PS
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<佐藤健志からのお知らせ>
1)クローネンバーグ映画は人間や文明の持つ自滅的な側面を探求しますが、戦後日本人も主観的には繁栄を願いつつ、自滅の道を歩むパラドックスに陥っているのでは?
三橋貴明さんも「読んで『これだ!』と思った」と絶賛!
「毒をもって毒を制する、愛国者のためのワクチン」という趣旨のコメントもいただいています。
「愛国のパラドックス 『右か左か』の時代は終わった」(アスペクト)
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2)KADOKAWAのメルマガ「踊る天下国家」が更新されました。
「劇団四季に見る戦後史?繁栄とアイデンティティのジレンマ」。
演劇はつねに国の縮図。
日本を代表する劇団である四季の歴史にも、アイデンティティの模索、欧米(とくにアメリカ)への複雑な感情、さらには自由化とグローバリズムなど、戦後日本の本質が浮き彫りになっている。
創立者の一人で、長年のリーダーだった浅利慶太氏が、今年になって劇団を離れたことは何を意味するのか?
4/22(水)の8:00より配信開始。
1時間を超える音声ファイルつきです。
http://ch.nicovideo.jp/k-chokuron/blomaga/ar774964
バックナンバーもどうぞ。
どれも音声ファイルがついています。
「さらば、愛の行為よ‐日本で男女関係は成り立つか」
http://ch.nicovideo.jp/k-chokuron/blomaga/ar736635
「石原慎太郎から安倍晋三まで‐2015年はどんな年になるか」
http://ch.nicovideo.jp/k-chokuron/blomaga/ar706735
「アベノミクスの成否はゴジラに聞け!」
http://ch.nicovideo.jp/k-chokuron/blomaga/ar691866
「今度の選挙の争点とは?消費税と社会的連帯」
http://ch.nicovideo.jp/k-chokuron/blomaga/ar672975
3)「表現者」60号(2015年5月号、MXエンターテインメント)に、「保守派の世界観は…
[続きはコチラから]
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