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『三橋貴明の「新」日本経済新聞』
2015/01/11
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From 平松禎史(アニメーター/演出家)
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●月刊三橋最新号のテーマは「フランス経済」。
「ユーロという罠」に落ちた大国の選択とは?
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霧につつまれたハリネズミのつぶやき:第九話 です。
……
◯オープニング
安倍首相は年頭記者会見で、日本の科学者三人がノーベル賞を受賞したことを喜びました。
ボクも嬉しかった。
もの作り大国と言われる日本の誇るべき技術が、大和魂と言っても良い心意気とともに継承されることを祈ってやみません。
一方で、会見で安倍首相は「日本経済を必ずや再生する。そのためにはこれまでにはない大胆な改革を進めていかなければなりません。」と仰っています。
これまでにない大胆な改革を進める、とは如何なることでしょうか。
誰も歩んだことのない道を、切り開き、進む、という誰もが良いことと思いそうな話。
一緒に進もう!と肩を組みたくなる気持ちになりそうです。
その気持は否定はしません。それが経済再生につながるのなら大いに賛成です。
「だが、ちょっと待ってほしい」…どこかの新聞の社説のようで嫌だけど…立ち止まって考え直していただきたい。
そう言いたくなる現実が、すでに数字で表れています。
今回は、ある神社の賽銭箱に刻まれた歌を採り上げて、文化と経済について考えてみます。
第九話:「人の道をば たどらまし」
◯Aパート
田舎話から始めて恐縮ですが… ボクの実家は愛知県豊川市です。
最寄り駅は飯田線牛久保駅で、飯田線といえば鉄道ファンには有名だと思います。
小学校時代、日本各地で引退した旧型国電が次々飯田線に投入され、スカ色、湘南色といわれる特徴的な塗装に彩られた電車が走っていました。
鉄の車体と独特の油の匂いがする木の床や、首振り扇風機、擦り切れた青いモケット生地の座席など味わいがありました。
東洋随一と言われた豊川海軍工廠跡に出来た日本車両から、出来立ての新幹線電車の車体が飯田線で運ばれるのが学校の窓から見えたことがあります。
そうなると大騒ぎで授業にならなくなった思い出もあります。
牛久保駅の近くには牛久保城跡があります。
享禄二年(1529年)、牧野出羽守保成の築城だそうです。
城は河岸段丘の縁にあって見晴らしが良く、二重の堀を備えた平城だったそうですが、現在は城址を示す石組みと石碑があるのみです。
この城の守りのために、牛久保一帯にはお寺がたくさん建てられたそうで、その一帯は「寺町」といいます。
罰当たりを恐れて攻めて来られまいとの考えらしく、敵勢をお寺で守るというのはいかにも日本的ですね。
長谷寺(ちょうこくじ)には武田信玄の軍師、山本勘助の遺髪塚があります。
通学路にある大聖寺には今川義元公の胴塚がありまして、日が暮れると怖かったなぁ。
お寺がたくさんあるということは、神社も多いわけです。
実家から歩いて数分のところに二社あります。
豊川観光協会の「観光スポットを探す」ページのほとんどが社寺!
http://www.toyokawa-map.net/sightseeing_spot_look.html
× × ×
さて、ようやく本題です。
若葉祭(うなごうじ祭)で有名な牛久保八幡社。
奈良時代の飢饉では、朝廷が蔵を開放させ民の救済に務めたそうです。
経世済民ですね。
その牛久保八幡社の賽銭箱に、こんな歌が刻まれています。
八幡宮の
神杉の
なほき姿
仰ぎつつ
直ぐなる心
一筋に
人の道をば
たどらまし
たぶん、昔からあったのだと思いますが、不覚にも気付いたのは数年前に参拝した時でした。
初めて読んだ時、驚いて何度も読み返すうち、痛いくらいに背筋が伸びる感覚になりました。
それ以来、帰省する度に参拝してこの歌を読んでいまして、パソコンのデスクトップ壁紙にもなってます(^_^;)
ある時、ふと、「たどらまし」とは何だろう?と疑問が湧きました。
さっと読めば、杉の木のまっすぐな姿のように素直に一筋に生きたいものだ、と読めますが
なぜ、「たどらまし」なんだろう。
そのように生きたいのなら「進む」でも良いはずなのに。
なぜ、「すすむ」じゃないんしょう?
意味を調べると「まし」には3つの使い方があるようです。
1)反実仮想「もし?だったら…だろうに。」
2)実現不可能な希望、「?だったら良かったのに」
3)迷いやためらいを含んだ「?たものだろうか。」「?たらよかろうか。」です。
八幡社の歌の場合は文脈からすると
「たどることができたら良いのに」
という迷いやためらいを含むというのがしっくり来ます。
「すすむ」ではなく、また、迷いやためらいを含む「たどる」の示すところは何なのでしょう。
◯中CM
「進む」という言葉は「前へ進む」「東へ進む」など目的地や目指す方向があってそこへ向かう意味になります。
方向性や向かう先が不明瞭だと、それは「動く」であって「進む」とは表現しません。
英語ではどうなってるんでしょう。
「進む」は“advance”です。語源は古フランス語の“avancier”で、現フランス語の“avance”だそうです。
意味は「進む」で同じです。
英語で先頭が“ad”になったのは“adventure”というよく似た言葉と混同したせいだと説明されています。
“advanced”で「高度な」「先進的な」になり目的達成のための、より進んだ技術の意味で使いますね。
テニスなどで聞く“advantage”は「利点」とか「有利」という意味で、勝利に向かって意味を成します。
すべて目的や向かう先があってある言葉ですね。
言葉を調べていたらおもしろいものを見つけました。
「にっちもさっちも行かない」という言葉。
これはそろばんから来たもので、漢字で「二進も三進も行かない」と書くのですが、「二進(にしん)も三進(さんしん)も」が訛って「にっちもさっちも」になったそうです。
「二進」は2割る2。三進は3割る3でどちらも1に割り切れる。
2や3で割り切れない「二進も三進も行かない」状態から、計算通り、計画通りに行かなくなって頭を抱える状態を表すようになったんだそうです。
「答え」という目的地に行く方法がわからなくなって前にも後ろにも進めない状態、というわけです。
◯Bパート
さて、「すすむ」は目的地や当面の方向性が定められていてそこへ向かっていく意味なのが確認できました。
では、「たどる」はどうでしょうか。
誰かの歩んだ足跡をたどっていく、と言いますね。
歴史をたどるとも言います。
「進む」時には、それが前人未到であっても使います。
おそらく、そこから前向きで良いことだという印象があるわけですね。
誰もやったことがないことをやる。
これが今までの常識や旧来の秩序を打ち破る意味で使われるのが「革命」や「改革」ですね。
その先に今までや現在より良い未来があることを確信して「革命」や「改革」は行われます。
多くの場合「民意」を束ねて。
“未来”を信じて“進む”ことが「革命」「改革」の原動力と言えます。
しかし、“未来”は“進む”ことの正しさを証明してはくれません。
歴史を紐解けば、革命はたいてい「にっちもさっちも」行かなくなっていますからね。
× × ×
前向き、良いこと、と思われがちな「進む」に対して、「たどる」はなんだか地味です。
人の通った道をなぞるなんて新しくもないし良いことがあるとも思えないしつまらない。
そんな風に思われるでしょうね。
八幡社の歌では
「神杉の なほき姿 仰ぎつつ」は、長い年月を経て仰ぎ見るほど高く伸びる木々から、歴史の重みを想像させます。
「直ぐなる心 一筋に」は、正しき生き様を貫く心だと読めます。
先人の教えをよく思い出すこと。
歴史をよく見直すこと。
ありのまま(現実)を真っ直ぐに見よ
これが「たどる」こと。
自然の姿から示唆を得て、自らの姿勢を律する心持ちは極めて日本的な感覚でしっくり来ますね。
そして、迷いとためらいを含む「まし」で閉じることによって、さらに、慎重に確かめよ、と印象づけます。
どう進むべきかの明快な答えを示すのでなく、進もうとする人々の心の持ち様にある種、釘を差していると思います。
神杉の姿… 直ぐなる心… 人の道… どれも直線的で迷いのない、誰もが良いことと思いそうなことを示しています。
それを最後の「たどらまし」で「歴史に鑑み、慎重によく考えよ」と警告しているように思えます。
どんな状況でも常に正しい経済政策はない。
三橋経済塾で教わったことは、日本の長いひとつながりの歴史から得られた教訓とも合致するように思います。
めんどくさいこと言うな。ガンガン進もうぜ!…と言わんばかりの
「岩盤規制をドリルで打ち壊す」「大胆な改革を進める」「改革断行国会」
とても日本的とは思えない言葉の数々ではありませんか。
実家に帰ってお参りする時、この歌を読むと背筋が伸びる感じがするのは「おまえの進み方はそれで良いのか、よーく考え直してみろ」と言われているような気がするからです。
自分の考えだけでなく、先人の知恵や、ありのままの現実や、歴史的な出来事に学んでいるか? と。
◯エンディング
今回は、実家のある豊川市の小さな神社の歌から思うところを書いてみました。
賽銭箱に刻まれた歌が誰のもので、いつ歌われたものかはわかりません。
今度帰省した時にでも伺ってみようかな。
案外新しいものかもしれませんが、古いか新しい…
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