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消費税殺人事件(2) -近未来政治小説-
佐藤鴻全
■■ 転送歓迎 ■■ No.2338 ■■ H26.12.01 ■■ 8,451 部 ■■
前号は:
http://archive.mag2.com/0000013290/20141020080000000.html
第二章 事件現場・女記者
◆事件現場◆
「な、何なんだ、これは。」
警視副総監の村山が、到着するなり叫んだ。
全裸の死体がフロアの絨毯に転がっている。岡田事務次官だ。
後ろ手にした両手に手錠を掛けられ、口の中に靴下が詰まり上からガムテープを貼られた状態だ。左手には手錠のカギを握っていた。
そして肛門には花が差し込まれている。いや、差し込まれていたのは小型のバイブレーターだ。その柄の部分に薔薇が一輪、紐で括りつけられていた。
「官邸に速報を入れろ。だが、余り刺激するな。」
「はい。副総監。」
都内のマンションの一室。鑑識、検視官を含め警視庁の警察官が詰めている。エレベーター前からフロア全体に規制線が張られている。
「もしもし、こちら警視庁刑事部の前田警視正であります。」
「はい。こちら官邸。」
警察庁出身の山川秘書官へ電話が入った。
「杉並区のマンションで財務省の岡田次官が死亡いたしました。只今現場からです。」
「・・・了解した。詳しく状況を報告されたし。」
前田は、山川へ死体の状況を説明した。
「それで、死因と死亡推定時刻は何時だ。」
「はい、死因は窒息死、死亡推定時間は昨夜から未明に掛けてと思われます。」
「で、犯人の目処は?」
「まだ立っておりません。先ず岡田次官の女性関係を洗っているところです。」
「男関係も忘れるな。それでそのマンションは誰の名義だ。」
「はい、岡田次官が個人的に借りていた模様です。」
◆官邸◆
官邸の執務室で、山川秘書官から報告を受けた上田の眉間に皺が寄った。
「明らかに狙われたな。」
「しかし、SMプレイによる事故死の可能性も、また左手に手錠のカギを握っていたことから自慰行為中の事故死の可能性も捨てきれません。」
「そんな訳はないだろう!」
上田が珍しく声を荒げた。
「岡田次官にどんな趣味や性癖があったかは知らんが、消費増税を控えたこの時期に、目的達成にまっしぐらな財政省のトップが、死に至る程のSMプレイや自慰行為でリスクを冒す訳がない。」
「・・・」
「消費増税に反対していて、犯行実行能力のある組織を虱潰しに洗うんだ!」
「はい、既に暴力団、右翼団体、左翼、労組、業界団体についても洗わせています。」
「そうか。徹底的にやってくれ。」
上田は、窓の外に目をやった。
そして、今後の政局の展開い想いを巡らせた。
財政省は、弔い合戦として、マスコミを総動員し世間の情に訴えて、中央突破で消費税増税を図ってくるだろう。
「厄介な事になった。」上田は一人呟いた。
◆女記者◆
「はい。只今現場です。それについては、後程また報告いたします。」
四条玲子は、朝売新聞の女性記者だ。
デスクとの電話を切ると、マンションの外に停まっているパトカーの中で煙草を吸っている前田警視正に近づいて行き、窓越しに声を掛けた。
「前田さん、今日は。大分難しそうな事件に成りそうですね。」
「あっ四条さん、そうか、もう政治部記者も取材に入ったか。」
「で、どんな筋ですか?」
「いや、今は何も話せない。官邸から緘口令が敷かれた。」
「分かってる。でも、おいおい色々確認させてもらうわ。」
玲子は、8年前に大学を出ると社会部の事件記者となった。その時に警視庁の前田と面識が出来た。というか持ち前のバイタリティと東大理学部卒の理詰めのアプローチで前田に食い下がって色々な事件で情報を引き出した。
その取材姿勢が認められて、政治部に異動となり当時の矢部首相番となった。
玲子は、首相番となると公邸に入っていなかった矢部の邸宅の近くのマンションに引っ越して夜討朝駆けを掛けた。その取材姿勢から、記者仲間から矢部のストーカーともドーベルマンとも渾名されていた。
しかし、その後矢部の失脚とともに、社内抗争に巻き込まれ、政治部には残れたが今は一線を外され遊軍記者となっていた。
玲子の携帯が鳴った。デスクからだった。
「なんで、事件記者でもない君が現場にいるんだ?早く帰ってこい。これから会議だ。」
◆隠蔽◆
「総理、警視庁からは、今のところ事故死と推察されるとして記者会見を開きます。」
その日の夜9時、官邸執務室に入ってきた平田官房長官が、報告した。
「マンションの密室で、一体どんな事故が起こるんだ。」
「岡田事務次官は、書斎として個人的に借りていたマンションの寝室で転倒し脳震盪を起こしたまま吐瀉し、その吐瀉物により窒息死をしました。」
「そんな不自然な嘘が世間に通用するのか?」
「大丈夫です。マスコミには各社トップに全部手を打ちました。」
官邸の意図に沿った警視庁の記者会見の通り、岡田次官の死は書斎で勉強中に起きた事故死としてマスコミに一斉に発表された。
週刊誌メディアは、財政省自身のリークにより、消費増税反対勢力によるテロの可能性を強調した報道となり、不名誉な姿での変死については一部3流週刊誌記事に限られた。
果たして世論は、財政省の目論見通り、そして上田光次郎首相の懸念通りに岡田次官への同情へ傾いて行った。
テレビのワイドショーやニュースショーで、各局のコメンテーターや司会者達が「命を掛けた消費税増税」「国の財政を思う志を無駄にしてはいけない」という言葉を繰り返し、国内に消費増税に反対し難い空気が醸成されて行った。
第三章 巷の声
ある土曜日、上田一行は大阪の下町に視察に出向いた。
景気についての庶民の実感と、消費税増税に対する賛否の声を直接に知るためだ。
片岡経済再興担当大臣と筆頭秘書官の深川、財政省出身の墨田秘書官が同行している。
首相秘書官は、通常数名いて上田内閣では5人いた。いずれも各省庁から将来の事務次官候補であるエース級の人材が送り込まれていた。筆頭秘書官の深川は商務経済省の出身だ。
一行の後にTVカメラと各局レポーター、記者達の取材陣が続く。
視察場所は、警備の都合もあり基本的に事前に根回しをしている。
商店街を練り歩いて、八百屋の前に足を止め女将さんに話し掛けた。
「売れ行きは如何ですか?」
「葉物やなんかは、高くなってなかなかお客さんの財布の紐も固いですね。出るのは葉物以外の輸入ものが多いです。」
「ご迷惑お掛けします。もう少しだけご辛抱下さい。経済再生をして必ず景気を良くする事をお約束します。」
「総理、お願いしますよ。じゃあお約束のあれやっときますか?」「ああ、あれですね。」
女将さんは、上田にカブを2つ渡した。
「カブ上がれー、景気上向けー。」
TVカメラに向かって、上田はカブを両手に持ち万歳をした。
お約束通り拍手が起こり、TV局のクルーはニュースやワイドショー用の画が撮れてホッとした。
根回しをしているといっても、全てではない。
商店街を歩きながら、上田は何人かの買い物客に気軽に声を掛けた。
「今日は何をお買いになりましたか。」
上田は買い物袋をママチャリの籠に入れようとしていた30代後半の主婦も声を掛けた。
「今日は鶏肉とネギとか野菜類です。」
「夕飯はどんなおかずになりますか?」
「そうですね。鶏肉のピーナッツ炒めです。それにピーマン、ニンニク、ネギ、トウガラシを入れたやつです。主人も子供も好きなもんで。」
「美味しそうですね。」
「本当は鶏肉のカシュナッツ炒め作りたいんですが、カシュナッツが高いんでピーナッツを使っています。それにピーマンとネギ以外は全部輸入物です。鶏肉はブラジル産のグラム90円のもの、ピーナッツとニンニクとトウガラシと胡麻油は中国産です。でも最近は輸入ものも円安やなんかで高くなって家計は正直言って苦しいです。」
「一日も早く、物価高に給与水準の上昇が追い付くようにいたしますので、どうか信じて応援ください。」
多分このシーンは、消費税増税の首相判断を控えた財政省の意向を受けてTVでは使われないだろう。
取材陣の中にいた朝売新聞記者の四条玲子は、そう思った。
「でも新聞記事は、いや私は記事に必ず書く。」
視察場所の一つに、商店街を抜けた所にある町工場の安田精密があった。
上田一行は、社長の安田虎二郎に案内され工場内を一通り視察した。
応接間に通された上田は、安田に問い掛けた。
「お疲れ様です。ご商売は如何ですか?なかなか厳しいですか?」
「それは厳しいです。内需がこれ程冷え込んじゃうとねえ。うちみたいな部品工場は、海外と競争となってメーカーに買い叩かれ、このところの円安でも材料と電気、燃料が上がっちゃって、恩恵なんか受けてまへん。
うちは精密バネを作っていて特許も持ってるんで、それでもマシな方なんですけど。」
「ご苦労お掛けします。」
「総理。本当にそう思ってるなら、消費税増税は絶対止めなはれ。わしは増税に必ずしも反対じゃない。子供が産まれんようになって、年寄りばかり増えてく社会で年金に金が掛る事は十重知ってるつもりです。
でもねえ、総理。順番が違うんじゃありませんか?
わしも小さいながら会社をやってる立場から言わせてもらえば、消費税増税は会社に例えたら、売り上げが落ちて借金が嵩んで、さてどうするかって言うんで値上げに踏み切るようなもんですわ。
でもね首相、そんなことしたら、お客さん離れて売上ますます落ちまっせ。そんな時にいの一番にやらにゃならんのは、無駄を徹底的に削る事、社長自ら給与減らして従業員にも賃下げを飲んでもらう事、
その上で生かす事業と撤退する事業を決めて絞り込む事、研究開発や新しいアイデアを出して、場合によっては社運を掛けて投資に打って出る事。その上で売り物の付加価値が高まったら値上げをさせて頂く場合もある、それが順序なんと違いますか?」
上田の右脇に付いている財政省出身の墨田秘書官が口を開いた。
「社長。社長の会社も原料や燃料のコストが上がったら値上げをされますでしょう?」
「アホ言うな。それは、大企業の寡占や地域独占の場合だけや。そら、国は謂わば独占企業みたいなもんだからお客さん、この場合納税者は国外移住するしか余所に行きようがない。その場合は買い控えに走るんや。主婦は買い控えて、安もんしか買わんようになる。どんどん景気落ち込みまっせ。」
墨田秘書官が口を挟もうとしたが、上田が制した。
「社長。私達に今一番して欲しい事は何ですか?」
「さっきも言ったように、わしは将来の消費税増税には必ずしも反対していない。先ず首相率先して政治家の給与と公務員の給与を3割カットしなはれ。その上でもし移動で遣り繰りしても本当に人手が足りない部署があれば、そこには1割増員しなはれ。これだけで最低2割、場合によっちゃ10兆円近くのコスト削減や。」
墨田秘書官が再び口を開こうとしたが、今度は上田は手で制した。
「もちろん、あんたみたいなエリート達はお国には絶対必要やと思うから、その配分とか公務員制度の仕組みとかは国や地方の中で工夫してや。
その上で、後は成長戦略と少子化対策や、前の矢部さんの時は『ヤベノミクス』『オンナノミクス』『地方興隆』とか散々派手に花火打ち上げてたけど、結局日銀に仰山お札刷らせてマネーじゃぶじゃぶにしただけや。//
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第二章 事件現場・女記者
◆事件現場◆
「な、何なんだ、これは。」
警視副総監の村山が、到着するなり叫んだ。
全裸の死体がフロアの絨毯に転がっている。岡田事務次官だ。
後ろ手にした両手に手錠を掛けられ、口の中に靴下が詰まり上からガムテープを貼られた状態だ。左手には手錠のカギを握っていた。
そして肛門には花が差し込まれている。いや、差し込まれていたのは小型のバイブレーターだ。その柄の部分に薔薇が一輪、紐で括りつけられていた。
「官邸に速報を入れろ。だが、余り刺激するな。」
「はい。副総監。」
都内のマンションの一室。鑑識、検視官を含め警視庁の警察官が詰めている。エレベーター前からフロア全体に規制線が張られている。
「もしもし、こちら警視庁刑事部の前田警視正であります。」
「はい。こちら官邸。」
警察庁出身の山川秘書官へ電話が入った。
「杉並区のマンションで財務省の岡田次官が死亡いたしました。只今現場からです。」
「・・・了解した。詳しく状況を報告されたし。」
前田は、山川へ死体の状況を説明した。
「それで、死因と死亡推定時刻は何時だ。」
「はい、死因は窒息死、死亡推定時間は昨夜から未明に掛けてと思われます。」
「で、犯人の目処は?」
「まだ立っておりません。先ず岡田次官の女性関係を洗っているところです。」
「男関係も忘れるな。それでそのマンションは誰の名義だ。」
「はい、岡田次官が個人的に借りていた模様です。」
◆官邸◆
官邸の執務室で、山川秘書官から報告を受けた上田の眉間に皺が寄った。
「明らかに狙われたな。」
「しかし、SMプレイによる事故死の可能性も、また左手に手錠のカギを握っていたことから自慰行為中の事故死の可能性も捨てきれません。」
「そんな訳はないだろう!」
上田が珍しく声を荒げた。
「岡田次官にどんな趣味や性癖があったかは知らんが、消費増税を控えたこの時期に、目的達成にまっしぐらな財政省のトップが、死に至る程のSMプレイや自慰行為でリスクを冒す訳がない。」
「・・・」
「消費増税に反対していて、犯行実行能力のある組織を虱潰しに洗うんだ!」
「はい、既に暴力団、右翼団体、左翼、労組、業界団体についても洗わせています。」
「そうか。徹底的にやってくれ。」
上田は、窓の外に目をやった。
そして、今後の政局の展開い想いを巡らせた。
財政省は、弔い合戦として、マスコミを総動員し世間の情に訴えて、中央突破で消費税増税を図ってくるだろう。
「厄介な事になった。」上田は一人呟いた。
◆女記者◆
「はい。只今現場です。それについては、後程また報告いたします。」
四条玲子は、朝売新聞の女性記者だ。
デスクとの電話を切ると、マンションの外に停まっているパトカーの中で煙草を吸っている前田警視正に近づいて行き、窓越しに声を掛けた。
「前田さん、今日は。大分難しそうな事件に成りそうですね。」
「あっ四条さん、そうか、もう政治部記者も取材に入ったか。」
「で、どんな筋ですか?」
「いや、今は何も話せない。官邸から緘口令が敷かれた。」
「分かってる。でも、おいおい色々確認させてもらうわ。」
玲子は、8年前に大学を出ると社会部の事件記者となった。その時に警視庁の前田と面識が出来た。というか持ち前のバイタリティと東大理学部卒の理詰めのアプローチで前田に食い下がって色々な事件で情報を引き出した。
その取材姿勢が認められて、政治部に異動となり当時の矢部首相番となった。
玲子は、首相番となると公邸に入っていなかった矢部の邸宅の近くのマンションに引っ越して夜討朝駆けを掛けた。その取材姿勢から、記者仲間から矢部のストーカーともドーベルマンとも渾名されていた。
しかし、その後矢部の失脚とともに、社内抗争に巻き込まれ、政治部には残れたが今は一線を外され遊軍記者となっていた。
玲子の携帯が鳴った。デスクからだった。
「なんで、事件記者でもない君が現場にいるんだ?早く帰ってこい。これから会議だ。」
◆隠蔽◆
「総理、警視庁からは、今のところ事故死と推察されるとして記者会見を開きます。」
その日の夜9時、官邸執務室に入ってきた平田官房長官が、報告した。
「マンションの密室で、一体どんな事故が起こるんだ。」
「岡田事務次官は、書斎として個人的に借りていたマンションの寝室で転倒し脳震盪を起こしたまま吐瀉し、その吐瀉物により窒息死をしました。」
「そんな不自然な嘘が世間に通用するのか?」
「大丈夫です。マスコミには各社トップに全部手を打ちました。」
官邸の意図に沿った警視庁の記者会見の通り、岡田次官の死は書斎で勉強中に起きた事故死としてマスコミに一斉に発表された。
週刊誌メディアは、財政省自身のリークにより、消費増税反対勢力によるテロの可能性を強調した報道となり、不名誉な姿での変死については一部3流週刊誌記事に限られた。
果たして世論は、財政省の目論見通り、そして上田光次郎首相の懸念通りに岡田次官への同情へ傾いて行った。
テレビのワイドショーやニュースショーで、各局のコメンテーターや司会者達が「命を掛けた消費税増税」「国の財政を思う志を無駄にしてはいけない」という言葉を繰り返し、国内に消費増税に反対し難い空気が醸成されて行った。
第三章 巷の声
ある土曜日、上田一行は大阪の下町に視察に出向いた。
景気についての庶民の実感と、消費税増税に対する賛否の声を直接に知るためだ。
片岡経済再興担当大臣と筆頭秘書官の深川、財政省出身の墨田秘書官が同行している。
首相秘書官は、通常数名いて上田内閣では5人いた。いずれも各省庁から将来の事務次官候補であるエース級の人材が送り込まれていた。筆頭秘書官の深川は商務経済省の出身だ。
一行の後にTVカメラと各局レポーター、記者達の取材陣が続く。
視察場所は、警備の都合もあり基本的に事前に根回しをしている。
商店街を練り歩いて、八百屋の前に足を止め女将さんに話し掛けた。
「売れ行きは如何ですか?」
「葉物やなんかは、高くなってなかなかお客さんの財布の紐も固いですね。出るのは葉物以外の輸入ものが多いです。」
「ご迷惑お掛けします。もう少しだけご辛抱下さい。経済再生をして必ず景気を良くする事をお約束します。」
「総理、お願いしますよ。じゃあお約束のあれやっときますか?」「ああ、あれですね。」
女将さんは、上田にカブを2つ渡した。
「カブ上がれー、景気上向けー。」
TVカメラに向かって、上田はカブを両手に持ち万歳をした。
お約束通り拍手が起こり、TV局のクルーはニュースやワイドショー用の画が撮れてホッとした。
根回しをしているといっても、全てではない。
商店街を歩きながら、上田は何人かの買い物客に気軽に声を掛けた。
「今日は何をお買いになりましたか。」
上田は買い物袋をママチャリの籠に入れようとしていた30代後半の主婦も声を掛けた。
「今日は鶏肉とネギとか野菜類です。」
「夕飯はどんなおかずになりますか?」
「そうですね。鶏肉のピーナッツ炒めです。それにピーマン、ニンニク、ネギ、トウガラシを入れたやつです。主人も子供も好きなもんで。」
「美味しそうですね。」
「本当は鶏肉のカシュナッツ炒め作りたいんですが、カシュナッツが高いんでピーナッツを使っています。それにピーマンとネギ以外は全部輸入物です。鶏肉はブラジル産のグラム90円のもの、ピーナッツとニンニクとトウガラシと胡麻油は中国産です。でも最近は輸入ものも円安やなんかで高くなって家計は正直言って苦しいです。」
「一日も早く、物価高に給与水準の上昇が追い付くようにいたしますので、どうか信じて応援ください。」
多分このシーンは、消費税増税の首相判断を控えた財政省の意向を受けてTVでは使われないだろう。
取材陣の中にいた朝売新聞記者の四条玲子は、そう思った。
「でも新聞記事は、いや私は記事に必ず書く。」
視察場所の一つに、商店街を抜けた所にある町工場の安田精密があった。
上田一行は、社長の安田虎二郎に案内され工場内を一通り視察した。
応接間に通された上田は、安田に問い掛けた。
「お疲れ様です。ご商売は如何ですか?なかなか厳しいですか?」
「それは厳しいです。内需がこれ程冷え込んじゃうとねえ。うちみたいな部品工場は、海外と競争となってメーカーに買い叩かれ、このところの円安でも材料と電気、燃料が上がっちゃって、恩恵なんか受けてまへん。
うちは精密バネを作っていて特許も持ってるんで、それでもマシな方なんですけど。」
「ご苦労お掛けします。」
「総理。本当にそう思ってるなら、消費税増税は絶対止めなはれ。わしは増税に必ずしも反対じゃない。子供が産まれんようになって、年寄りばかり増えてく社会で年金に金が掛る事は十重知ってるつもりです。
でもねえ、総理。順番が違うんじゃありませんか?
わしも小さいながら会社をやってる立場から言わせてもらえば、消費税増税は会社に例えたら、売り上げが落ちて借金が嵩んで、さてどうするかって言うんで値上げに踏み切るようなもんですわ。
でもね首相、そんなことしたら、お客さん離れて売上ますます落ちまっせ。そんな時にいの一番にやらにゃならんのは、無駄を徹底的に削る事、社長自ら給与減らして従業員にも賃下げを飲んでもらう事、
その上で生かす事業と撤退する事業を決めて絞り込む事、研究開発や新しいアイデアを出して、場合によっては社運を掛けて投資に打って出る事。その上で売り物の付加価値が高まったら値上げをさせて頂く場合もある、それが順序なんと違いますか?」
上田の右脇に付いている財政省出身の墨田秘書官が口を開いた。
「社長。社長の会社も原料や燃料のコストが上がったら値上げをされますでしょう?」
「アホ言うな。それは、大企業の寡占や地域独占の場合だけや。そら、国は謂わば独占企業みたいなもんだからお客さん、この場合納税者は国外移住するしか余所に行きようがない。その場合は買い控えに走るんや。主婦は買い控えて、安もんしか買わんようになる。どんどん景気落ち込みまっせ。」
墨田秘書官が口を挟もうとしたが、上田が制した。
「社長。私達に今一番して欲しい事は何ですか?」
「さっきも言ったように、わしは将来の消費税増税には必ずしも反対していない。先ず首相率先して政治家の給与と公務員の給与を3割カットしなはれ。その上でもし移動で遣り繰りしても本当に人手が足りない部署があれば、そこには1割増員しなはれ。これだけで最低2割、場合によっちゃ10兆円近くのコスト削減や。」
墨田秘書官が再び口を開こうとしたが、今度は上田は手で制した。
「もちろん、あんたみたいなエリート達はお国には絶対必要やと思うから、その配分とか公務員制度の仕組みとかは国や地方の中で工夫してや。
その上で、後は成長戦略と少子化対策や、前の矢部さんの時は『ヤベノミクス』『オンナノミクス』『地方興隆』とか散々派手に花火打ち上げてたけど、結局日銀に仰山お札刷らせてマネーじゃぶじゃぶにしただけや。//