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『三橋貴明の「新」日本経済新聞』
2014/09/24
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From 佐藤健志@評論家・作家
みなさん、ノーマン・スピンラッドというアメリカの作家をご存知でしょうか?
SFを中心に作品を発表してきた人ですが、大胆で挑発的な視点と、鋭い社会的・政治的センスが持ち味。
代表作に「バッグ・ジャック・バロン」「鉄の夢」「マインド・ゲーム」「星回りの良い娘」「ロシアの春」などがあります。
小説のほか、エッセイ、評論、シナリオ、作詞でも活躍。
日本ではあまり紹介されていないものの、私はかねてより愛好してきました。
「コモン・センス完全版」のプロローグ「星条旗の理想と矛盾」は、50ページを越える長いものですが、これを書く際にも、スピンラッドさんのアメリカ論が大いに参考になっています。
くだんの理想と矛盾について、もっと知りたい方はこちらをどうぞ。
http://amzn.to/1lXtL07
そのスピンラッドさんが、ご自分の公式サイト「NORMAN SPINRAD AT LARGE」に、じつに興味深い文章を発表しました。
なんと、ウクライナ危機をめぐるロシア大統領ウラジーミル・プーチンへの公開書簡!
ウクライナ危機については、プーチンの横暴によって引き起こされたようなイメージがあります。
しかし中野剛志さんが、新著「世界を戦争に導くグローバリズム」で指摘するように、事はそう単純ではない。
ロシアがクリミアを制圧する前に、アメリカとEUが、ウクライナを自分たちの陣営に引き込もうとすることで、ロシアを追い詰めていたのです。
ならばプーチンの行動も、「自国の安全と権益を確保する」という、国家指導者として当然の義務を果たしたにすぎないことに。
この経緯について、もっと知りたい方はこちらをどうぞ。
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4087207552/
スピンラッドさんも、同様の認識に立っています。
ついでに新自由主義的なグローバリズムが強くなりすぎることにも、強い危機感を抱いている。
こうしてプーチンにたいし、「ロシアはアメリカ型グローバリズムに対抗する勢力の先頭となれ!」という趣旨の提言をしたわけですが・・・
公開書簡には「拡散希望」と記されていました。
希望者は誰でも、自分の国の言葉に翻訳し、適切と思われる方法で広めて良いとのこと。
長年のスピンラッド・ファンである私は、さっそく連絡を取り、日本語への翻訳を申し出ました。
そして「ていねいな連絡をありがとう。むろん許可する」という返事をいただいたのです。
というわけで、どうぞ。
ただし長いので、今週と来週の二回連続とします。
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ウラジーミル・プーチンに告ぐ!
ノーマン・スピンラッド
佐藤健志訳
ウラジーミル・プーチンに告ぐ。
いわゆる「西側」の連中は、貴君のことをサッパリ理解できずにいる。
おそらく貴君には、そのこと自体がサッパリ理解できないだろう。
推測するに、西側の連中が貴君を理解できない原因はこうである。
アメリカとEUは、自分たちの自由主義的なイデオロギーによって盲目同然となったあげく、自分たちが特定のイデオロギーにしたがって行動していることすら自覚できなくなったのに違いない!
自覚していないふりをしているのではなく、本当に自覚できなくなっているのがヤバいところだ。
だがクレムリンから観察していれば、事態は明々白々のはず。
西側諸国の指導者もメディアも、「国際金融資本主導のグローバル型市場経済」こそが、唯一普遍の望ましいシステムだと信じ込んでいる。
この信念自体が、特殊な物の考え方、つまりイデオロギーではないかなどとは思いもよらない。
彼らにとって、これは絶対の真理なのだ。
連中の御用学者フクヤマなど、「歴史の終わり」が来たと大言壮語する始末。
(注:フクヤマとは、アメリカの政治学者フランシス・フクヤマ。「歴史の終わり」は彼の著書名)
だがそのあと、西側は「経済の大停滞」を経験した。
そこから生まれた「新しい正常な経済(ニュー・ノーマル)」の実態とはいかなるものか?
巨額の政府赤字、大量の失業、下がってゆくばかりの賃金、そして所得と生活水準に関するグロテスクなまでの格差拡大だ。
「国境を越えた自由な金融活動や、グローバルな市場経済の徹底こそが、人々を豊かで幸福にする」という自画自賛など、この現実の前には、泣けるほど哀れなタワゴトでしかない!
ウラジーミル・プーチンに告ぐ。
貴君はソ連の共産主義イデオロギーのもとで育ってきた。
ならばイデオロギーがうまく機能していない場合、そうと見分けるのも容易なはず。
共産主義が失敗に終わったことは、強欲なグローバル資本主義によって世界が幸福になることを何ら意味しない。
悲惨な例の筆頭はギリシャである。
スペインはどうだ? アイルランドは?
EU全体だって、うまく行っているわけではない。それどころか、世界の勝者のごとく振る舞っているアメリカにしても同じこと。
ウラジーミル・プーチンに告ぐ。
貴君はKGB出身のプロフェッショナルだ。イデオロギーなどに左右されることなく、冷徹な判断を下す実利重視のリアリストだろう。
ロシアの人々は、貴君を三度も大統領に選んだ。
貴君が果たすべき責務は何か?
ロシアという国家、そしてロシアの人々の利益を守り、維持し、強化すること。これに尽きる。
ソ連崩壊いらい、ロシアの人々は裏切られ、踏みつけにされてきた。
だからこそ、かの崩壊を「20世紀最大の惨事」と呼んだ貴君の言葉は有名になったのだ。
ソ連は複雑な内部自治のシステムを持った多民族国家だった。
「オレたちが一番」という民族的優越感ではなく、相互の経済的利害関係によって結びついた、真の連邦国家だったのである。
かつてゴルバチョフ(注:ソ連末期の指導者)は西側にたいし、「諸君の敵を消滅させてあげよう」と宣言、ドイツがNATOに属したまま統一することを認めた。
だが、それには条件があった。
NATOやEUがロシア近辺へと進出するような真似を控え、ロシアの安全保障を脅かさないことだ。
西側もこれに合意したはずだった。
にもかかわらず、連中はみごとに約束を破った!
バルト諸国、ポーランド、スラブ系バルカン諸国、そしてウクライナと、どんどんロシアに迫っているではないか。
ウラジーミル・プーチンに告ぐ。
貴君はほとんど武力を用いることなく、クリミアを取り返した。
(注:クリミアは1954年、ロシアからウクライナに割譲されたもの)
ウクライナ東方の国境周辺には、ロシア軍の部隊が集結している。
といって、貴君にウクライナ侵攻の意図があるはずはない。
ウクライナ、あるいは同国の東部地域を、武力の行使、または武力による威嚇によってロシア連邦に編入する、そんなことを貴君が考えるわけがない。
貴君には、もっと雄大な目標があるはずだ。
(つづく)
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