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『三橋貴明の「新」日本経済新聞』
2014/09/23
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From 藤井聡@京都大学大学院教授
本メルマガでも何度か取り上げましたが,大手メディアや評論家,コメンテーターの多くが,
「景気対策や復興,防災で公共事業を増やそうとしているけど,人手不足,業者不足で,それができない.」
という趣旨の発言・報道を重ねておられます.
こうした状況は,要するに,「いま,公共事業は,人手や業者不足で増やせられない」という,信念や物語・ストーリーが薄く広く共有されるという「空気」が,日本国内に蔓延しつつあることを意味しています.
この「空気」の背後にはもちろん,
「土建系の奴らは,利権にまみれた胡散臭い奴らだ」
「奴らは,21世紀の最新の理論や状況なんて何も知らない,古くさい,単細胞だ」
という,長い間日本を覆い続けてきた(しばしば土建バッシング,公共事業バッシングとも言われる)「空気」が濃密に存在しているのではないかと思われます.
つまり,
「土建が必要だ,なんてことを主張する奴らはどうも単細胞で困る.
実際には,人手不足,業者不足のせいで出来やしないのに,そんな現実も見ないで,復興だ防災だといって騒いで公共事業を増やそうとしてる.
土建,土建って言う奴らは,ホントにバカでどうしようもない単細胞だよなぁ」
というストーリー/物語を勝手に作り上げ(もちろん,それを直接,赤裸々に公言することはほとんど無いわけですが)それを皆で共有していこうとする「空気」が存在していると考えられるわけです(社会科学的に言うと,こういう現象は「全体主義現象」totalitarianismと呼ばれます).
・・・
さて,(同じく本メルマガで何度か取り上げられている様に)こういう「空気」が一旦できあがってしまうと,その空気に沿った話はほとんどチェックされずに安易に「発言」されたり「報道」されたりしてしまいます.
そしてその結果としてますます,「空気」が強化され,ますます事実が無視され,予断と偏見だけで報道や言論が紡がれていくようになります.
その典型例が,昨今世間を賑わしている朝日新聞の吉田証言/吉田調書問題(以下,W吉田誤報事件)であることは論を待ちませんよね.
つまり,今,俄に日本では「公共事業は人手や業者不足でできない」物語,(「だから結局,公共事業を進めろ進めろといってる輩は愚か者だ物語)が,形成されつつある──とするなら,こういう物語・信念を「補強」する報道においては,W吉田の事件のような「誤報」が生ずる危険性が,高まっている,という次第です.
....ということで,そんな視点で,以下の朝日新聞の記事を確認してみましょう.
http://www.asahi.com/articles/ASG9K4DNVG9KULFA00P.html
この報道によれば,
「建設業界が受注した工事がどれだけ残っているかを示す「未消化工事高」が,統計始まって以来の高い水準になっている」
という「事実」を指摘した上で,「人手不足や資材高騰で着工が遅れているなどして積み上がっている」という,大手ゼネコン関係者の声が報道されています.
そして,(人手不足や資材高騰のために,公共事業をやろうとする業者が現れないという現象であるところの)「入札不調」もある,と指摘し,その上で「結論」として,
「(10%への増税を控えた今,政府では…)追加景気対策も検討され始めた.だが,工事が思うように出来なければ,景気を底上げする効果が薄まるおそれがある」
と述べています.
以上の記事を「素直」に読めば,
(1)政府は公共工事を増やして,景気対策をやろうとしている.
(2)でも,今は人手不足等で,業者がそれを受注しても円滑に進められないし,
(3)それ以前に,人手不足等のために,受注することすら難しい状況にある.」
という論旨が読み取れることになります.そして,通常の知性のある方なら,これらを読めば,
「なるほど!
今,政府には,景気対策で公共工事を増やそうっていう議論があるようだが,
そんな政府の議論は,ナンセンス極まりない,ってことだな.
公共事業の予算を増やすのは,やっぱり,愚策なんだ.」
と判断するように誘導される可能性が極めて高い,と思われます.
しかし!
この,(2)(3)はいずれも明確に「事実と大きく乖離」しています.
そもそも,上記の(3)の主張が想定する「入札不調」が存在することは事実であったとしても,その入札不調の割合は,去年よりも今年の方が「減少している」のが事実なのです.
すなわち,当方の下記Facebookで紹介したように,去年よりも今年の方が「受注率が10%以上も高い」のです!
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=563863303714617&set=a.236228089811475.38834.100002728571669&type=1&theater
(※ 政府の公共事業については,当初予算については11%(=44-33),補正予算に至っては実に17%(=68-51)も,今年の方が予算執行率,つまり契約成立率が高いのです)
この一点だけでも,今回の朝日の報道は事実と乖離していると言うことができるのですが,これよりも,もっと深刻な「誤解」は,上記の(2)に関連したものです.
たしかに,朝日が報道した「『未消化工事高』は,統計始まって以来の高い水準だ」ということは事実です.しかしその原因は,朝日の報道が示しているように「人手不足があるから」ということが原因なのでは「ない」のです.
むしろそれとは「逆」(!)に,全国各地の公共工事の発注が,上記のように「より順調に進んでいる」が故に『未消化工事高』が本年最高水準に達しているのです.
そもそも『未消化工事高』というのは,工事が完了していない工事の総金額ですが,それは,年度がはじまったばかりの7月時点では,当然ながら「受注した工事の総額」とほぼ同じになります.なぜといって,政府から仕事を請け負った業者が,その工事をスグに完了することなどあり得ないからです(そんなこと,当たり前です).
つまり,この『未消化工事高』という指標は,年度前半で調べれば,「工事発注業務が円滑かつ大量に進んでいる場合に,大きくなる指標」なのです.だから「公共事業政策が円滑に進んでいない証拠」とは全く違って,その「真逆」の「公共事業政策が円滑に進んでいる証拠」とすら解釈でき得るものなのです(!).
....
ということで,今回の朝日の報道には,W吉田誤報事件と全く同様の構造が,「公共事業」を巡っても存在していることを強烈に示唆しています.
つまり,朝日のご担当の記者の方が,「未消化工事高」という名前のイメージだけ捕まえて,その内容を十分に考えもせず調べもせずに,彼らが共有している公共事業バッシング的な「空気」にて信じられている「物語」「ストーリー」に基づいてそのデータを勝手に解釈し,
「なるほど,この未消化工事高が最高水準になってるっていうデータは,結局は,人手や業者不足があって,公共事業がうまく『こなせてない』,ってことの証拠になってるよ!」
と,「まるっきり逆」の解釈をして,(小躍りでもする様な勢いで)報道をしてしまった....というのが,今回の「誤報」とも言い得る報道の実態である疑義が極めて濃厚ではないかと筆者には思えてならないわけです.
・・・・
この問題は,極めて深刻な問題であると,筆者は考えます.
なぜなら,朝日新聞社のW吉田「誤報」事件と同様,仮にそれが誤報であっても,それを読み,「なるほど」と感じた人々は,その報道内容を「信じて」しまって,様々なイメージや意見を形成し,それが,現実の社会や行政,そして政治の動きに,少なからずの,場合によっては多大なる影響を及ぼし得るからです.
いずれにしても.今回の朝日新聞の報道は,明らかに事実とは異なる印象を喚起する報道であることは,疑いを入れません.こうした報道が,数多くの読者を抱えた大手新聞社においてなされたことを,一学徒として,そしてそれ以前に一国民として,強く強く遺憾に思います.
本件関係者には,是非とも,真摯なる対応を,強く望みたいと思います.
...ではまた,来週.
PS
こういう「全体主義」「空気の支配」の構造にご関心の方は,是非,こちらをご覧ください.
http://amzn.to/QYb5Rp
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宮崎哲哉氏と,三島由紀夫や仏教について論じました.ご関心の方は是非,こちらを.
http://doboku-ch.jp
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中国のこうした実態が正しく伝わらないことも、日本のマスコミの問題点の1つかもしれません。
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