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『三橋貴明の「新」日本経済新聞』
2014/09/18
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From 柴山桂太@滋賀大学准教授
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●『月刊三橋』最新号のテーマは、「朝日新聞<従軍慰安婦>誤報問題」になります。
http://keieikagakupub.com/lp/mitsuhashi/38NEWS_CN_mag_china.php
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雑誌『フォーリン・アフェアーズ』の最新号で、国際政治学者のジョン・ミアシャイマーが興味深い論説を発表しています。ウクライナ危機は、米欧の間違った政策が引き起こした、という内容です。なおミアシャイマーは、国際政治学における現実主義(リアリズム)を代表する論者の一人です。
http://www.foreignaffairs.com/articles/141769/john-j-mearsheimer/why-the-ukraine-crisis-is-the-wests-fault
ウクライナ問題ではロシアが悪玉にされることが多いわけですが、「そう単純ではない」というのがこの論説です。むしろ問題にされるべきは、20年以上にわたって続けられてきた、米欧の無神経な勢力拡大策である、というのがミアシャイマーの見方になります。
無神経な勢力拡大とは何か。ミアシャイマーはNATOの東方拡大を重視しています。
いうまでもなくNATOは、冷戦期の対ソ軍事同盟ですが、冷戦終結後は、東方にその勢力を拡大してきました。99年にチェコ、ハンガリー、ポーランドが、2004年にはブルガリア、場ルーマニア、スロバキア、スロベニア、バルト三国などが、NATOに加盟しています。
しかしこの段階では、まだNATO加盟国は(バルト三国を除くと)ロシアと国境を接していません。ところが2008年には、グルジアとウクライナの加盟が検討され始めました。この辺りから、ロシアの怒りが頂点に達します。そしてグルジア戦争が勃発し、今回のウクライナ危機が始まりました。
アメリカは、民主主義を広めるという理想主義に基づいてこの政策を進めたと主張するかもしれませんが、ロシアはそうは受け取りません。その怒りを理解したければ、中国がカナダとメキシコを軍事同盟に引き込んだとき、アメリカがどんな反応をするか考えてみればいい、と。怒り狂うに決まっている、それと同じ事だ、というわけです。
NATO以外に、EUも東方拡大路線をとり続けてきました。2008年には「東方パートナーシップ」構想を発表し、ウクライナなど東方諸国の取り込みに入ります。これにもロシアは猛反発、「EUの拡大路線はNATO拡大の布石だ」と抗議しています。
またアメリカは、市民団体などを通じて、ウクライナの親欧米組織に非公式な資金援助を行っています。これも、「次はロシアか?」という疑念をモスクワに生じさせました。冷戦後、アメリカは民主主義を世界に広めるという理想主義に突き進んできました。EUも、国境なき地域秩序という理想主義に酔いしれていました。NATO拡大、EU東方拡大、民主化支援という政策の背後にあったのは、そのような理想主義です。
ミアシャイマーは、今回の危機を招いた原因を、米欧の行きすぎた理想主義に見ています。米欧の指導者は「プーチンが合理的に行動していない」と非難していますが、現実主義者に言わせれば、合理的に行動していないのは米欧の方です。
過去、ナポレオン戦争、第一次大戦、第二次大戦と3回の攻撃を受けているロシアが、ウクライナの広大な平原に安全保障上の重要な利害を持つのは当然のこと。こうした歴史を踏まえるなら、ウクライナは(冷戦期のオーストリアのような)東西の緩衝地帯にとどめておくのが、合理的な判断だというのがミアシャイマーの主張でした。
しかし、もう後戻りできないかもしれません。NATOはウクライナ支援を強化しており、ロシアとの対立姿勢をさらに強めています。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140916/k10014616851000.html
われわれは、理想主義の方が平和を実現してくれると思いがちです。民主主義が世界に広まり、自由貿易で各国が結ばれれば、世界はいっそう平和になるのだ、と。しかし、軍事的、経済的利害が複雑に入り組み、文化やアイデンティティの違いによる対立をたっぷり含んだ現実の世界は、理想主義者が考えるほど単純には出来ていません。いま世界中で起きている危機は、そうした文脈から理解する必要があります。
昨日出版された、中野剛志氏の新著『世界を戦争に導くグローバリズム』(集英社新書)でも、ウクライナ危機について同様の判断が示されていました。
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4087207552/
http://honto.jp/netstore/pd-book_26332512.html
中野氏は、ミアシャイマー同様、NATOの東方拡大を愚策と切り捨てた上で、このウクライナ問題への深入りがアメリカの覇権国としての寿命を縮めることになるのでは、という見方を示しています。
「ウクライナが不穏な情勢となったことで、アメリカはこの地域における軍事力を増強する必要が出てくるかもしれない。すでにアメリカは泥沼化する中東情勢に巻き込まれ、アジアでも中国の台頭に対峙しなければならなくなっている。
もし中東、アジアに加えて東ヨーロッパにおいても展開する軍事力を強化しなければならないとすると、これは、相対的な国力が低下する中では、明らかに「オーヴァー・ストレッチ(過剰拡張)」となり、アメリカは覇権国家としての寿命をますます縮めることになるだろう。」(p.197)
本書で中野氏は、いま世界で起きる危機を、アメリカの間違った理想主義(それにもとづく拡張政策)が引き起こした当然の結果と位置づけています。これは非常に説得力のある見方であると同時に、日本の今後を考える上でも重要な示唆に富んでいます。
日本では現実主義者と呼ばれる人たちが、アメリカとの一体化を盛んに提唱しています。しかし、それは本当に現実主義なのでしょうか。そういう疑問を持つ人が本書を読むと、目から鱗が何枚も落ちることになるでしょう。国際政治における現実主義の理論を、いまの日本を取り巻く状況に当てはめると、どうなるのか。本書における中野氏の筆は、いつにも増して冴え渡っています。
最後に、本書の主張が詰まった一節を引用しましょう。
「日米同盟がなければ「現在」の東アジアの秩序は維持できない。だが、日米同盟が継続されれば、アメリカが撤退した後の「将来」の東アジアの混乱はいっそう大きくなる。日本の安全保障は、完全にジレンマに陥っている。」(p.129)
日本の今後は、ますこのジレンマを意識することから始める他ありません。
PS
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