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    『三橋貴明の「新」日本経済新聞』

     2014/09/02



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From 藤井聡@京都大学大学院教授



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●これは経済学者のルサンチマンの結果なのか?「EUの闇」とは? 
https://www.youtube.com/watch?v=DID9wg3PIVo



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この度の広島での集中豪雨による土砂災害は,70名を越える犠牲者を出す,大惨事となりました.

政府でもこの事態を重く受け止め,砂防対策のあり方を,法体系の内容やその運用の見直しも含めて,様々な対応を進めようとしているところです.

こういう土砂災害対策は,一般に「砂防」と呼ばれますが,古くは「治山」と呼ばれ,山麓に覆われた国土に住む日本人にとって,政治の中心的課題であり続けてきました.例え場,昔の自民党本部は「砂防会館」にあったのですが,それなどは土砂災害対策の,日本における重要性を象徴しています.

砂防問題を考えるためには,短期的,中期的,長期的なそれぞれの視点から総合的に考えていかなければなりません.

「短期的」には,もちろん「逃げる」ことが何よりも重要です.

このためには,まずは,一人一人の国民が「土砂災害警情報」が発令されれば,危ない所の人々が避難することが肝要です.そしてそれ以前にやはり,自分達が住んでいる家が,土砂災害の危険地帯かどうかを考えておく事が必要です.そのためにも,政府による「危険地域指定」は重要な意味を持ちます.

一方,中期的な視点に立てばやはり最も大切なのは,「砂防ダムの建設」です.

そもそも,今回の広島のエリアでは,8の砂防ダムが整備されていましたが,その全てが,上流からの土石流を食い止め,下流側の人家等が破壊されることを防ぎました.
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140830-00000133-san-soci

一方で,その他にも9つのダム計画があったのですが,それがいずれも未完成だったのです.
http://daily.2ch.net/test/read.cgi/newsplus/1408964920/

もしそれら9つ全てが完成していたら,多くの命が,場合によってはお亡くなりになった方全ての命が救えたのかもしれません.

・・・・

さて,こうした未完成の砂防ダムは,全国に約80%もあります.逆に言うなら,人家が危険にさらされているポイントで,砂防ダムが整備されているのは,わずか20%程度しかないのです.

なぜそこまで低い整備率なのかといえば,当然ながら「財政制約」のためです.

つまり,「インフラに対する財政制約」というものが,今回の70名以上の人命毀損に繋がった大きな背景である,ということは,冷静に事実として受け止めなければなりません.

さらに長期的に考えれば,やはり,こうした土砂災害の危険地帯が「宅地」として開発されてきたという事実があります.

報道でよく言われる様に,この被害があった地域は「まさ土」という,土砂災害が発生しやすい地質で,しかも,過去にも何度も土砂崩れがあった地域です.というよりむしろ,その土地(扇状地)そのものが,「度重なる土砂崩れ」によってできあがった地形だったのです.

それを踏まえますと,こうした宅地開発を当然の様に進めてきた,日本の宅地マーケット,および,そのそれを許容してきた行政や法体系のあり方そのものが,今回の惨事の背景にあったこともまた,明白です.

このように,今回の災害は,短期,中期,長期の様々な背景が折り重なって生じたものであることが分かります.

したがって,こうした対策を行うためには,多面的に考え,総合的な対策を図っていくことが不可欠なのです.

....

さて,そうした議論を,ここ最近,いくつかのメディア等で討論致しましたが,その中で,巨大な違和感を感じましたので,ここにご報告いたしたいと思います.

そもそも上述の様に,砂防対策のためには「多面的な対策」を進めることが不可欠なのですが,どういうわけか,特定の施策「だけ」が,批判の対象にさらされるという事実があるよう思えます.

それは,「砂防ダムの建設」という対策です.

これが,どうも,不当に差別されているようなのです.

理性的な議論として,総合的な対策の必要性を訴え,その中の一つの対策として,砂防ダムの重要性を訴えたときに「だけ」,不思議な事に多くの人々が,

「いやいや,砂防ダムだけでは防ぎきれないでしょう」
「そういうハード対策だけじゃなくて,ソフト対策もあわせてやらなきゃいかんでしょう」

と,(いわゆるドヤ顔で)「ハード施策」を批判するのです.そんな事,別にドヤ顔で言われなくとも,当たり前のことですし,そもそも総合的な対策が必要だという前置きをして話をしているにも関わらずドヤ顔ができる神経が,今一つ理解できません.

ところが一方で,ソフト的な対策(避難施策や土地利用対策,緑のダム対策)を主張する人に対しては,

「いやいや,ソフトだけじゃ防ぎきれないでしょう」
「そういうソフト対策だけじゃなくて,ハード対策もあわせてやらなきゃいかんでしょう」

と「ソフト施策」を批判する人は「皆無」なのです!
(※ 少なくとも,当方が見聞きした範囲では,皆無でした).

こうした事実を踏まえますと,どうやら,この世の中には,

「ハードを批判してソフトを主張する人は,レベルが一つ上/あるいは格好良く」
「ソフトを批判してハードを主張する人は,なんだかレベルが一つ下/あるいは格好悪い」

という「ハード蔑視の風潮」が,ぬぐいがたく存在しているとしか考えられません.

もちろん,「それは藤井の被害妄想だよ」と思われる方もおられるのかもしれませんが,私が参画していない議論の場でも,常にそのように議論が展開している様を幾度となく目撃しているので,これはおそらく,藤井の被害妄想ではないように思います.

...

これは,社会科学的にいうと,次の様に簡単に説明することができます.

つまり,「ハード蔑視全体主義」とでも言うべき「空気」,が現代日本を覆っていると考えざるを得ないのです.
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もちろん,こうしたうすあまい空気,全体主義は,著しく不条理なものです.

こうした全体主義があるが故に,ハード対策費が大きく削られ,80%もの危険箇所が対策されずに放置され,結果,今回の70名以上の方々の命が失われるという大惨事に繋がったのだ,という解釈は,何人たりとも否定できないでしょう.

もしもこの当方の解釈が正しいとするなら,これを不条理と言わずして,何を不条理と言うことができるのでしょうか.

いずれにしても,こうした「全体主義の構造」を念頭に置いたとき,そうした全体主義に乗っかってドヤ顔で(一部ハード対策の重要性も言い訳的に口にしながら)「ハード批判」を繰り返す学者モドキの輩の顔は,人間の仮面をかぶった人有らざる存在に見えて来ても不思議ではないように思います──.

繰り返しますが,災害対策には,ソフトもハードも大切です.

しかし,どちらが上だとか下だとか,善だとか悪だとかということはないのです.

もしも「悪」があるとするならそれは,ソフトとハードの間の「不適切なバランス」以外にあろうはずもありません.

そして,「兎に角ハードを蔑視する」という態度は,その意味において,明確に「悪」なのです.

しかも,その「悪」の人々は,概して,「善意」の仮面をかぶって,耳あたりの良いソフトな言葉を槇散らかすのです.

これを「偽善」と言わずして何が「偽善」なのでしょう,これを「おぞましい」といわずして何が「おぞましい」のでしょうか.....

ただし!

忘れてならないのは,この全体主義の空気を作り挙げているのは,嬉々としてドヤ顔で「ハード批判」を繰り返す輩達だけではない,という事実です.

哀しいかな,「ハード施策」の重要性をイタイほど理解している専門家の方々も,「ハード批判」に荷担するのです(!).

その姿はさながら,ある「いじめられっ子」と昔から仲良しの子供が,皆からイジメられないようにするために,自らの意に反してイジメに「荷担」してしまう姿にうり二つです.

そして,そうしたイジメへの荷担がさらに,そのいじめられっ子のイジメを加速させていくのです───.

わたしたちは,そういう場面に直面した時,全体主義の空気に抗い,その「いじめられっ子」を助けることができるのでしょうか.....

ただし,こうしたうすあまい全体主義問題は,

「ハードよりもソフトをすべし!」

という問題のみならず.

「経済政策には,財出よりも改革すべし!」
「地方への投資よりも都市への投資をすべし!」
「ローテクよりもイノベーションすべし!」
「公共事業よりも民間を優先すべし!」
「保護貿易よりも自由貿易を推進すべし!」

といった,ありとあらゆる事柄において存在するのではないかと思います.

おそらくは多くの方々は,こういう構造を見て取る事さえできるなら,知らず知らずのうちに,そんなうすあまい空気に「媚び」,何らかの「イジメ」に荷担してしまわないように気を付けねば,とお感じになるのではないでしょうか....

では,また,来週.

PS 「全体主義の構造」については,是非こちらを.
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