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『三橋貴明の「新」日本経済新聞』
2014/07/29
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From 藤井聡@京都大学大学院教授
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「民間の活力」なるものを「活用する!」なぞという話が喧しい昨今ですが、そんなことについて少々感じた事がございましたので、それについて一つお話いたしたいと思います。
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週末、「交通」についての会議(日本モビリティマネジメント会議)で帯広に参りました。
帯広には「十勝バス」と言う、このバス大不況の時代に、利用者を伸ばしている事で有名となったバス会社があります。
この会社は、交通関係の各種賞の受賞はもちろんのこと、TV番組の「アンビリーバボー」で取り上げられたり、オペラ(!)になったりして、交通関係者以外にも広く知られるようになったものです。
そもそも十勝バスは、年々利用者が減少、ピークの頃の実に五分の一以下(!)にまで経営が悪化していました。その中でも何とか事業を継続させようと、合理化に次ぐ合理化を繰り返し、人件費を大幅にカットしつつ、絞りに絞りつつ経営を続けていました。
そんな中、2008年のリーマンショックとガソリン価格の高騰に見舞われ、いよいよ、倒産するしかない.....となった時に、「もう残る方法は、なんとか利用者を増やすしかない」と、時の社長(野村氏)が決意します。
そして、野村社長は、これまでの様々な場面で見聞きしてきた利用促進方法を思い起こし、まず、沿線住民の声を、可能な限り一軒一軒、
「なぜ、バスをご利用いただけないのでしょうか?」
という事を、社長自ら、「尋ね歩く」という取り組みを始めます。
すると明らかになったのが、皆がバスを利用しないのは、(バス会社が勝手に想像していた)「不便だから」という理由では無く、いつ、どこで、どうやってバスを使えば良いのかが分からないから「不安だから」という事が理由だったといいます。
この「気づき」は、野村社長以下、十勝バスの職員にとっては、「目から鱗」の体験だったとのこと。ついては、野村社長は、広く沿線住民に「バスの使い方」を簡単にまとめたチラシを配布することとしました。
この取り組みによって少し利用者が増えたそうです。
その後、また色々と利用者の声を聞いたところ、バスを利用しない重要な理由の一つに、「バスを使ってどこに行けるのか分からない」というものがあったといいます。
実際バス停に行って、どんな情報が掲載されているのかを確認すると、バス停には、「最終目的地」の情報しか掲示されておらず、どこを通るのかが全く情報が掲載されていなかったそうです。
ついては、今度は、バス路線の沿線に、どんなお店があるのか、どんな病院があるのか、等をまとめた路線図を、バス路線毎に、ひとつずつつくり、これを沿線路線に配布していきました。
そすると、また少し利用者が増えたそうです。
こういう取り組みを少しずつ少しずつ重ねて行った所、利用者が年々増加し、倒産するどころか、利用者はわずか2年で、「2割程度」も増えるに至ります。
これはもちろん、一つの民間企業のビジネスに収まる話ではありません。公共交通が活性化していくということは、その路線が接続する「駅前」や「まちなか」に人々が集まり、まちが賑やかになり、地域経済が活性化することに繋がります。
さらに言えば、医学的には、クルマ依存が肥満をもたらす等、人間の健康を根底から蝕んでおり、社会保障費を増大させる重要な要因であることが「実証」されていることを思えば、バス事業の復活は、帯広の人々の「健康」にも、さらには、帯広市の「財政」にも、大きな肯定的影響があると言えるでしょう。
(今年の、帯広での交通の会議では、この問題が大きく取り扱われました)
http://www.jcomm.or.jp/
つまり、バス事業は、地域の公益を増進させる「公共」交通「事業」なわけで、この十勝バスの取り組みは、純然たる民間事業であるにも関わらず、「公共的に大きな意義」があったわけです。
全国各地でバス利用者が減少し、かつ、帯広のような典型的な「自動車社会」の地域で右肩下がりに減り続ける利用者が、文字通り「V字回復」するという事例は、大変画期的であります。
だからこそ、現・太田国交大臣も、地域公共交通の再生を希求する全国の関係者にとっての、極めて有望な「希望の灯火」として、この事例を絶賛しておられるのだと思います。
http://www.akihiro-ohta.com/blog/2014/01/post-769.html
ところで。。。。
こんな事例のお話を致しますと、スグに耳に入ってくるのは、
「なるほど、だからやっぱ、民間の活力の活用が大事なんだよな。
やっぱ、政府や行政じゃぁ、だめなんだよ、今の時代わぁ」
なる、通り一遍としか言い様の無い、陳腐なセリフです。
もちろん、筆者は、十勝バスの事例は素晴らしいものであることに完全に同意します。
そして、こういう「活力」こそを、政府、行政は、「活用」すべきなのだと心底感じます。
とりわけ、「民間の活力を!」なるスローガンで、結局は、特定の大企業の儲け話を実現させて、他の中小企業を破壊したり、社会や公共主体の活動を衰弱させ、解体させたりすることが横行している今日の状況を見れば(いわゆる、レントシーキング、ってやつですね)、こういう十勝バスの様な「民活」事例こそを、推奨すべきであることは論をまちません。
が!!!!!
別に、立派な仕事ができるのは、「民間」だけではない、というあたりまえの常識を、忘れてはなりません。
例えば、明石市には、行政が導入した「TACOバス」というバスがありますが、これもまた、ある担当者が赴任して以降、5年間、実に様々な利用促進の取り組みを重ね、利用者全体を4割以上増進させ、長年の悲願だった年間利用者数100万人という目標を突破させています。
あるいは「京都市」は、現市長就任以後「歩くまち・京都」というスローガンの下、様々な公共交通活性化策、自動車抑制策が展開され、京都市域全体で、(10年前に比べて)自動車の都市圏内でのシェアが約15%(!)も減少すると共に、バス利用者も増え、かつて、大きな赤字をかかえていた事業であったところ、現在では20億~30億円程度の「黒字」事業となっていますす。
(ある宅急便のCMで「歩くまち・京都」の取り組みを進めています、なんてセリフをTOKIOがナレーションしているのを聞いた事があるかもしれませんが、アレがまさに、この京都の取り組みです)
これが、京都のまちの賑わいの活性化や、京都市民の健康の増進、はては、道路渋滞の解消にも大きく貢献していることは、明々白々です。
さらに言いますと、十勝バスの取り組みがはじめられる「直前」の数年間は、国交省や帯広市が、技術力をもっていた地元コンサルタントや大学関係者の力を借りつつ、帯広の公共交通の衰退を防ぐことは公共的に極めて重要であると考え、「公共事業」の形で、バス活性化事業に取り組んでいたのです。
(※ 僭越ながら、筆者もおおよそ十年前、利用促進技術の技術指導に帯広に参上したことがあります。その時指導差し上げたのが、路線別の詳細な路線図の作成・配布や、職員による沿線世帯の個別訪問でした)。
http://trans.kuciv.kyoto-u.ac.jp/tba/wp-content/uploads/2013/09/public_transport_mm.pdf
そして、そうした地道な「行政による十勝バス支援」が数カ年続けられたからこそ、ようやく、社長の意識が変わり、今日の十勝バスの事業回復へと繋がっていったのです。
つまり、確かに十勝バスの取り組みは、文字通り素晴らしいものであることは間違いないものの、だからといって、
「やっぱ、民間じゃ無きゃダメだよね!」
なんてことは、全くもって主張することなど、できないのです。
そもそも、わたしたちが活用すべきは、究極的に言うなら、
「民間の活力」
なのでは、決してありません。
我々が活用すべきは、
「人間の活力」
なのであり、
「組織の活力」
なのです。
官や民といった区別はあくまでも「表層的」なものに過ぎないのであり、最も本質的な部分で言うなら、大切なのはそんな区別ではなく、人間であり組織の力、なのです。
にも関わらず、「民間の活力」なるコトバが、あらゆる局面で軽々しく使われている風潮を見るに付け、何とも言えない、残念な気持ちになります。
そんな軽々しいコトバの使い方では、この十勝バスのような、パブリックな意味合いを色濃く秘めた「民間の活力」の活用が、かえって、阻害されてしまうのではないかとすら、危惧します。
是非ともそんな事にならないように、少なくとも本メルマガの読者の皆様におかれましては、「民間の活力」なるものの広がりを、過不足なくご認識いただければ幸いです。
(さらにご関心の方は、少々ベタな事例で恐縮ですが(笑)、渋沢栄一や角倉了以、濱口梧陵の事例などの事例を是非、ご参照下さい)
では、また来週!
PS
ついに、発売されました!
http://www.shobunsha.co.jp/?p=3225
PPS
こんな言論を配信しました!
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