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国柄探訪: 袋背負いの心 ~『新釈古事記伝』から

 外国人も賞賛する我が国の「思いやり社会」の理想は『古事記』に説かれていた。
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■1.大きな袋を背負って

 出雲大社に祀られている大国主命(おおくにぬしのみこと)には大勢の兄弟、八十神たちがいた。ある時、稲葉の国(鳥取県東部)に八上比賣(やかみひめ)という日本一の女神がいると聞いて、兄弟で嫁取り競争をする事になった。

 しかし、太古のことで途中には道のないところが多いし、旅館もない。米、味噌、醤油から、鍋釜、寝具にいたるまで、持って行かなければならない。

 そこで、八十神一同で相談して、皆の荷物を大きな袋にいれ、大国主命に運んで貰うよう頼むこととした。大国主命は力持ちだし、また立派そうなので、荷物運びの従者のように見せかければ、八上比賣から選ばれることもないだろう、という魂胆だった。

 八十神たちに頼まれて、大国主命はビックリしたが、自分が荷物を背負わなければ、嫁取り競争も取りやめるしかない、と聞いて、「よろしゅうございます。お引き受けいたしましょう」と答えた。

 こうして大国主命は一人で大きな袋を背負い、八十神たちに従って、歩いていった。その姿はどう見ても従者としか見えない。

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 しかし、大国主命は、決して
「自分はお供ではないぞ」
などとは仰せになりません。

 平気な顔をして、黙っておいでになります。お顔を見ましても、少しも自慢そうな様子はなく、少しも悲観した様子もなく、少しもお怒りになる様子もなく、まことに元気よく、ニコニコしておいでになります。[1,p35]
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■2.『古事記』に凝縮された古代日本人の心映え

 最近、刊行された『新釈古事記伝』の一節である。書名は厳めしいが、文章は小中学生にも読める平易なものだ。しかし『古事記』のおとぎ話風の物語から、著者は自らの心に映った大和民族の深い理想を解き明かしていく。

 著者は阿部國治氏。戦前の東京帝国大学法学部で英法学を学び、副手になったが、その後、同じく東京帝大で印度哲学科で学び、首席で卒業した、という人物である。そのまま進んでいれば、帝大教授か高級官僚への道が約束されていたろう。

 しかし、阿部氏はそんなエリート・コースを捨てて、疲弊にあえぐ農民救済のために、地下足袋を履いて全国の村々を歩いた。そんな人生を歩んだ人だからこそ、『古事記』に凝縮された古代日本人の心映えが、よく見えたのだろう。

 氏の解き明かす古代日本人の心映えは、泉から湧き出る清冽な水のように、現代の子供達の心に新鮮な潤いを与えるだろう。大人も、その水で喉を潤すことで、多忙な毎日を生き抜く元気を与えられるに違いない。そのごく一端をご紹介したい。


■3.稲葉の白兎の感謝

 八上比賣に会いに、稲羽の国に向かう一行は、白兎(ウサギ)に出会う。白兎は隠岐の島に生まれて、ワニを騙して、本州に渡ったのだが、騙されたワニが「痛い目にあわせて、少し考えさせよう」と、皮をはいで、陸の上に放り出した所だった。

 兎は痛くてたまらずに泣きだした。「ワニの奴め、いくらなんでも、こんなにしなくてもよいではないか」と思って、ワニを恨んで泣いた。

 しかし、ワニはなぜ自分を赤裸にしただけで、なぜ海に放り込んで殺さなかったのだろう、とふと思うと、「ワニは自分を反省させようとして、こうしてくれたのだな」と気がついた。

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 すっかり気がついた兎さんは、心から後悔しました。「決して、もう嘘はつきません。人様に迷惑をかけて、馬鹿呼ばわりはいたしません。ほんとに立派な兎になって、ワニの好意に酬いたい」と思いました。[1,p22]
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 あまりの痛さに泣きながら、「どうぞ、神様、私の身体をもとどおりにしていただきとうございます」と祈っている所に、八十神の一行がやってきた。

 八十神たちは、兎に海の水を浴びて、塩をからだにつけ、日向で乾かしなさい、と教えた。兎は神様の仰せられることだから、と思って、その通りにしたら、痛みがひどくなって、さらに泣き苦しんだ。
 そこに、一人遅れて大国主命がやってきた。兎から訳を聞くと、「私の兄弟たちがからかって、すまない事をしました」と謝りつつ、川の水で塩を洗い流し、日陰の風の当たらないところで静かに寝ているように教えて、介抱してやった。それで兎はすっかり治った。

 兎は、こうして念願だった本州にも辿り着けたし、ワニにゆがんだ心は叩き直してもらったし、大国主命のお陰で、もとの身体に戻れたので、心から感謝した。そして、大国主命に「あなたこそ本当に立派な方です。八上比賣様は、必ずあなた様をお婿様となさるに違いありません」と申し上げた。


■4.八上比賣の断り

 八十神たちは稲葉の国に着き、八上比賣に「どうぞ、この中からお婿様をお選び下さい」と申し出たが、八上比賣はきっぱりと断った。

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 皆様のように、どんないろいろな技をご修行になっても『嫁取り競争』というような、この上もない大事な真面目な旅行にお出かけになるのに、その旅行に必要な道具を、ご自分でお背負いにならないような方は、本当に真面目な人とは思いません。

 それにひきかえて、大国主命様は皆様の嫌がる荷物を全部お引き受けになった、どう見てもお供としか見えないのに、平気な顔をして、しかも皆様より遅れて、ひとりでおいでになっております。

 それだけではありません。

 皆様は稻羽の兎にお会いになって、何をなさいましたか。あの兎は後悔をして、泣いて祈っておったのであります。ワニすら、その兎を殺しはしませんでした。それなのに、皆様は兎をおからかいになって、慰みものになさったでしょう。

大国主命様はそれを後からおいでになって、親切にお治しになってやったのでございます。あなた方は、不真面目な呑気な方々で、まだ本当に立派とは申し上げられません。

 ですから、できることなら、私は大国主命様のような方のところのお嫁入りしたいと思います。[1,p44]
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 この八上比賣の言葉に、八十神たちは、一言も弁解できなかったことと思います、と著者は想像している。


■5.「他人の苦労を背負い込むことを喜びとせよ」

 阿部氏は、この『古事記』の一節を、次のように解説している。

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 大国主命は八十神たちが荷厄介に思われ、面倒に思って嫌われた旅行道具を一切引き受けて、大きな袋にお入れになり、これを背負われました。この袋を背負われる気持ちが非常に大切だと思います。

「できるだけたくさん、人さまの世話をやかせていただくことが立派なことである」と教えられているのであります。

「できるだけたくさん、他人の苦労を背負い込むことを喜びとせよ」と、教えられているのであります。

 しかも、この教えを徹底的に明らかにするために、大国主命は、お供になっておられます。お供になるというのはどういうことかと申しますと、これは、人さまの世話をしたり、人さまの苦労を背負い込んだりすると、自らの心のうちに喜びを感ずるだけではなくて、
「自分はこういうことをしてあげているのだから偉いな」
という誇りの気持ちが起こってまいります。

 それだけではなく、相手の人や世間から、
「これだけのことをしているのから、感謝してくれるのはあたりまえではないか」
という気持ちさえ起こってくるものです。

 このように、人さまの世話をやかせてもらって偉いと自分で思ったり、世話のやき賃を求めたりするようではいけない、と教えられているであります。[1,p50]
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「できるだけたくさん、他人の苦労を背負い込むことを喜びとせよ」というのが、阿部氏の言う「ふくろしよい(袋背負い)の心」である。


■6.「偉くなる」とはどういう事か

 大人は、青年や少年に向かって「偉くなりなさい」と言う。しかし、「偉くなる」とはどういう事か、はっきり教えていないし、自分自身でも分かっていない。

 そのために青少年が、有名大学に入って一流企業に勤めることが偉くなることだ、あるいはそこで出世して、部長や役員になった人がヒラ社員より偉い、と誤解する。そこに無益な競争が始まる。

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 つまり、間違った目標を立てて、無理な競争をした結果、どういうことになるかというと、成功した人たちは「自分の力で成功した」と思って、己惚れの気持ちを起こします。成功し損なった人たちは、表面はおとなしくしておりますが、内心は成功した人たちを羨みながら、反抗心をもっております。

こうして、世の中は、自惚れの人たちと、卑屈の人が多くなりますから、不安定な気持ちの悪いところとなります。[1,p54]
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「袋背負いの心」に目覚めれば、組織上の地位と真の偉さとの違いが分かってくる。

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 この教えから言いますと、ヒラ社員はヒラ社員で立派な職分ですから、ヒラ社員の「ふくろしよいのこころ」でやればいいのでして、偉いか偉くないないかは「ふくろしよいのこころ」の自覚の程度と、その実行の程度で決まってくるのであります。

 ヒラ社員だから偉くない、課長や部長だから偉いということはありません。課長や部長はなおさら「ふくろしよいのこころ」を忘れてはならず、社長であれば、いっそうこれを徹底しなければならないのであります。[1,p54]
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■7.「袋背負いの心」こそ日本人の理想

 阿部氏は、この「袋背負いの心」こそ、日本人の心、すなわち「大和魂」だとする。そして、二宮尊徳、吉田松陰、西郷隆盛、乃木希典など、わが国で尊敬されてきた人々は、みなこの「袋背負いの心」を持っていた、と言う。

 たとえば、乃木大将は日露戦争で大功があったが、部下の多くを亡くした事から、その後の俸給の大半を遺族の生活費や傷病兵の医療費に充て、まさに人々の苦を自ら背負って生きた。[a]

 二宮尊徳も、その一生をひたすら、多くの農村の復興に捧げた。…

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