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 『三橋貴明の「新」日本経済新聞』

     2013/07/20

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From 古谷経衡(著述家&『月刊三橋』ナビゲーター)


日本人なら「フランダースの犬」を知らない人は居ないと思う。

原作は19世紀末の英国文学だが、日本では特に1975年から世界名作劇場内で放映されたアニメ作品として、いまなお児童アニメの金字塔と言われている。地上波でも「懐かしアニメ特集」ときたら、本作が登場しない方が寧ろ不思議なくらい。

 先日、この「フランダースの犬」について知人からこんな話を聞いた。

「この作品の何が面白いのか正直よくわからない。ネロとパトラッシュが失意の内に教会で死ぬ。こんなかわいそうな話のどこに教訓があるのか。なぜこの作品が名作と言われているのか謎だ—」

 というもの。少年と犬が無慈悲に死ぬ。誰もが知っている本作のラストは、なるほど悲劇といえる。が、この知人はすごく大事な視点が欠けているように思う。「フランダースの犬」は、お涙頂戴の悲劇が重要なのではない。本作の舞台は19世紀後期のアントワープ(ベルギー)だが、ネロとパトラッシュの直接の死因は、ネロの祖父であるジェハン(牛乳の運搬で政権を立てている)が過労で死に、結果、賃貸住宅の家賃を滞納していることを理由に部屋を追い出され、ネロが路頭に迷う事による栄養失調と凍死である。

 当然のことだが、この過酷な19世紀のベルギーの社会環境の中には、孤児となったネロに温かい手を差し伸べる、という人間は皆無である。「フランダースの犬」は、ネロとパトラッシュの路上死、という衝撃のラストを通じて、如何に社会福祉が重要であるかを逆説的に問いただすものだ。

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 つまり、国家による社会福祉が整備されていれば、ネロには施設への入所や生活保護、あるいは里親制度という選択肢が用意されている。犬であるパトラッシュも、なんらかの保護が講じられるはずだ。
ところが、社会福祉という概念がない世界では、富者は貧者に対し、強者は弱者に対し、あまりにも冷酷な仕打ちをするのだ、という人間社会のむきだしの自然状態をあえて描くことによって、社会福祉の重要性と、それを疎かにすることによって起こった少年と犬の死をことさら悲劇的に描いているのである。

 よって「フランダースの犬」の教訓とは、社会福祉をおろそかにしている社会がいかに悲惨で、いかに人間を不幸にし、そして新自由主義的な考えがとことん間違っているかを説いているものである。
この観点がどこかに吹き飛んで、単にこの作品を児童向けアニメとして観る向きがあるが、よもや人の命を金で換算するような医療改悪を含むTPP導入が危ぶまれている昨今、本作のネロとパトラッシュは、どこまでも社会福祉の重要性を、その身を持って訴えていると解釈して相当である。
こんな社会になってはいけないと、ネロとパトラッシュは無言の中で叫び続けているのだ。いまだからこそ、彼らの悲劇をたんなる物語ではなく、社会学的に考察しなければならないだろう。

 因みに、同じく19世紀の孤児を描いた英国文学の古典の中にはディケンズの「オリバー・ツイスト」がある。

この作品はロマン・ポランスキーによって近年映画化されているが、こちらはネロと違って、孤児になったオリバー少年が苦難を乗り越えて成長する姿を描く名作だ。
産業革命の只中にあった19世紀前期の欧州では、このような貧困にあえぐ子供たちを社会的にどのように救済していくか、という問題が沸き起こるのだが、それはまた別の話。


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●今週の「新」日本経済新聞

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【三橋貴明】悲惨な国
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【藤井聡】「強靱化」せにゃぁ、マジで激ヤバです。
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【柴山桂太】人口大国の憂鬱
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