鍛冶俊樹の軍事ジャーナル
第96号(3月7日)
*戦争は近いのか?
「戦争は近いのかね?」とある会合で、そんな質問を受けた。といわれても世界中どこも戦争の火種だらけだ。「どこの戦争?」と聞き返すと「中国だよ。空母が遂に出てきたんだろう。日中戦争は不可避なのかな?」
確かに2月26日、中国の空母「遼寧」が大連から青島に移動した。「とうとう東シナ海にやって来た」というような報道もあった。尖閣侵攻作戦の一環と危惧する向きもあろう。
だが専門家の見る所、「遼寧」は実戦配備できるような空母ではない。中国軍当局も「実験段階」と言っているように、速力は遅く搭載機も完備していない。この空母で実験データを収集して新規空母開発に資するというのが本来の目的である筈だ。
では何故、移動したのか?作戦でないとするなら、訓練あるいは実験データの収集ということになるが、それなら波の穏やかな遼東湾でやった方がいいだろう。中国の報道では今後、青島を母港とするとも言われているが、外洋進出などできる段階ではない。
作戦でも訓練でもないとしたら、軍艦が動く残された理由はただ一つしかない。避難である。
北朝鮮は2月12日に核実験を強行した。通算3回目となるが、今回の実験により核爆弾の小型化に成功したといわれる。北朝鮮はさっそく「ワシントンを火の海にする」と大言壮語したが、米軍は「ワシントンはおろか東京までも届かない」と見ている。
北朝鮮は昨年末、弾頭を地球一周させる事に成功したが、一旦大気圏外に出た弾頭を再び大気圏内に突入させると、重力加速により大気の圧力が累進的に高まり弾頭は数千度まで加熱される。
普通の金属だと熔解してしまうから、特殊合金と断熱材で弾頭を加工しなければならない。これを再突入技術というが、北朝鮮にはこの技術がまだないと見られる。
つまり長距離ないし中距離弾道弾はまだ技術的に無理なのだが、射程500キロ以内の短距離弾道弾なら高度が低くてすむので、再突入技術を必要としない。
今回の核実験で中国と韓国が強く反発しているのはこのためだ。北朝鮮の核ミサイルは日本や米国には届かなくとも中国や韓国には届くのである。
空母「遼寧」が停泊していた大連から北朝鮮の平壌までの距離は500キロ以内、あらたな停泊港の青島から平壌までは500キロ以上、この数字を見れば明らかだろう。遼寧は逃げ出したのである。
金正恩の女房は出産したらしい。となると年末の弾道弾実験、2月の核実験は出産祝いだったことになるのか?冗談めいた話だが、おかげで北朝鮮危機が高まり、中国は尖閣侵攻どころではなくなっただろう。金正恩の女房に感謝すべきか?
軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)
1957年広島県生まれ、1983年埼玉大学教養学部卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、主に情報通信関係の将校として11年間勤務。1994年文筆活動に転換、翌年、第1回読売論壇新人賞受賞。2011年、メルマ!ガ オブ ザイヤー受賞。2012年、著書「国防の常識」第7章を抜粋した論文「文化防衛と文明の衝突」が第5回「真の近現代史観」懸賞論文に入賞。
主著:「国防の常識」(角川学芸出版)
http://www.kadokawa.co.jp/book/bk_detail.php?pcd=201203000167
「戦争の常識」(文春新書)
http://www.bunshun.co.jp/cgi-bin/book_db/book_detail.cgi?isbn=9784166604265
「エシュロンと情報戦争」(文春新書、絶版)
「総図解よくわかる第二次世界大戦」(共著、新人物往来社)など
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第96号(3月7日)
*戦争は近いのか?
「戦争は近いのかね?」とある会合で、そんな質問を受けた。といわれても世界中どこも戦争の火種だらけだ。「どこの戦争?」と聞き返すと「中国だよ。空母が遂に出てきたんだろう。日中戦争は不可避なのかな?」
確かに2月26日、中国の空母「遼寧」が大連から青島に移動した。「とうとう東シナ海にやって来た」というような報道もあった。尖閣侵攻作戦の一環と危惧する向きもあろう。
だが専門家の見る所、「遼寧」は実戦配備できるような空母ではない。中国軍当局も「実験段階」と言っているように、速力は遅く搭載機も完備していない。この空母で実験データを収集して新規空母開発に資するというのが本来の目的である筈だ。
では何故、移動したのか?作戦でないとするなら、訓練あるいは実験データの収集ということになるが、それなら波の穏やかな遼東湾でやった方がいいだろう。中国の報道では今後、青島を母港とするとも言われているが、外洋進出などできる段階ではない。
作戦でも訓練でもないとしたら、軍艦が動く残された理由はただ一つしかない。避難である。
北朝鮮は2月12日に核実験を強行した。通算3回目となるが、今回の実験により核爆弾の小型化に成功したといわれる。北朝鮮はさっそく「ワシントンを火の海にする」と大言壮語したが、米軍は「ワシントンはおろか東京までも届かない」と見ている。
北朝鮮は昨年末、弾頭を地球一周させる事に成功したが、一旦大気圏外に出た弾頭を再び大気圏内に突入させると、重力加速により大気の圧力が累進的に高まり弾頭は数千度まで加熱される。
普通の金属だと熔解してしまうから、特殊合金と断熱材で弾頭を加工しなければならない。これを再突入技術というが、北朝鮮にはこの技術がまだないと見られる。
つまり長距離ないし中距離弾道弾はまだ技術的に無理なのだが、射程500キロ以内の短距離弾道弾なら高度が低くてすむので、再突入技術を必要としない。
今回の核実験で中国と韓国が強く反発しているのはこのためだ。北朝鮮の核ミサイルは日本や米国には届かなくとも中国や韓国には届くのである。
空母「遼寧」が停泊していた大連から北朝鮮の平壌までの距離は500キロ以内、あらたな停泊港の青島から平壌までは500キロ以上、この数字を見れば明らかだろう。遼寧は逃げ出したのである。
金正恩の女房は出産したらしい。となると年末の弾道弾実験、2月の核実験は出産祝いだったことになるのか?冗談めいた話だが、おかげで北朝鮮危機が高まり、中国は尖閣侵攻どころではなくなっただろう。金正恩の女房に感謝すべきか?
軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)
1957年広島県生まれ、1983年埼玉大学教養学部卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、主に情報通信関係の将校として11年間勤務。1994年文筆活動に転換、翌年、第1回読売論壇新人賞受賞。2011年、メルマ!ガ オブ ザイヤー受賞。2012年、著書「国防の常識」第7章を抜粋した論文「文化防衛と文明の衝突」が第5回「真の近現代史観」懸賞論文に入賞。
主著:「国防の常識」(角川学芸出版)
http://www.kadokawa.co.jp/book/bk_detail.php?pcd=201203000167
「戦争の常識」(文春新書)
http://www.bunshun.co.jp/cgi-bin/book_db/book_detail.cgi?isbn=9784166604265
「エシュロンと情報戦争」(文春新書、絶版)
「総図解よくわかる第二次世界大戦」(共著、新人物往来社)など
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