■「加瀬英明のコラム」メールマガジン


送信日 : 2012/12/11 (Tue)
題 名 : 世界を揺さぶり続けるイスラム教と儒教

 いま、イスラム圏と中国が世界を揺さぶっている。なぜか。そのためには、イスラム教と、中国の儒教を理解しなければならない。

 イスラム教と儒教は地理的に大きく隔って成立したが、双生児のように似ている。

 中国は前漢後漢時代から、現在の中華人民共和国に至るまで、天子とされる統治者が徳を独占してきた。中国は一貫して、儒教体制のもとにあってきた。

 儒教もイスラム教も、個人の心のありかたを説いた教えではない。いかに人民を従わせるかという、治世術である。

 儒教は「怪力乱神を語らず」というように、神仏の存在を否定した、現世だけのものだ。

 イスラム教は神を信じるが、政教一致による神政体制である。7世紀に教祖モハメドが定めた『コーラン』によるシャリアー(宗教法)が、今日のイラン、サウジアラビア、スーダンなどをはじめとするイスラム原理主義諸国において、民衆の全生活を律している。アフガニスタンのタリバン政権も、そうだった。女性が不倫を働くと石打ちによって処刑され、盗みを働く者は腕を斬り落される。

 キリスト教も暗黒時代が終わるまでは、ローマ法王が全ヨーロッパに頑迷なキリスト教原理主義を強いていた。ルネサンスによって世俗主義が力をえて、自由がもたらされた。

 昨年1月に、チュニジアで独裁政権が倒れ、リビア、エジプトなどの中東諸国に波及すると、欧米のマスコミが「ジャスミン革命」とか、「アラブの春」とか、囃し立てた。これらの独裁政権はみな世俗主義をとって、イスラム原理主義を厳しく弾圧していた。

 「アラブの春」は民主化をもたらすどころか、イスラム原理主義を甦らせた。エジプトでは、まさかそこまでゆくまいが、イスラム化がこのまま強まれば、アフガニスタンでタリバン政権がバーミアンの石仏を爆破したように、ピラミッドやスフィンクスも偶像として破壊しかねないと、一部で危惧されている。

 中国も、イスラム圏も、長い歴史を持っているが、一度とすら民主主義が行われたことがない。日本は聖徳太子の民主的な『十七條憲法』が諭したように、和の国であってきた。

 中華帝国も、イスラム圏も、国境がない。中国の天子が全世界を支配するのが建前だったから、歴代の中華帝国には王朝名があったものの、国名がなかった。1842年に清朝がイギリスによる阿片戦争に敗れて、南京条約を結ぶ時に、便宜的に王朝の名を使った。

 イスラム教も唯一つの正しい教えであって、全世界を教化することを建て前としている。

 中国では儒教に対して、道教がある。道教は、老子が始祖とされ、儒教が統治思想であるのに対して、心のありかたを教えている。老子は孔子と同じ時代の人だ。荘子を加えて、老荘思想ともいう。

 林悟堂(中国の大文学者、没1976年)が、中国人は「外では儒教を装うが、家に戻ると老荘思想に依る」といったが、家では道教である。きっと、習近平も、胡耀邦、江沢民たちも、そうなのだろう。

 道教は日本に大きな影響を及ぼすことがなかったが、日本でも気功や、太極拳によって、健康法としてなじみがある。

 私は父の書架に『老子道徳経』があったので、高校時代から愛読した。5000語の短いものだ。「清心寡欲」「謙虚柔和」「無為自然」を説いている。

 81章から成っており、第80章は『和諧社会』と題されており、「小国寡民使有什伯之器而不用」(小国で人口が少なく、多くの利器があっても使わない)、「人々が安らかに暮らし、遠くに行こうとしない。車や船があっても、使わない。武器を誇らない。隣国から鶏や犬の鳴き声が聞えるが、互いに侵略しあうことがない」と、述べている。

 中国が道教国家となるかたわら、イスラム圏にルネサンスがおとずれることを、願う。

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