■6.財務相の「酩酊会見」

 朝生内閣は第一次、第二次に加え、第三次の補正予算に取り組んだ。第三次は次なる景気対策として「公共事業拡大」が中心となると予想されていた。

 そこに、もう一つの敵が現れた。今まで公共事業総額を抑え込んできた財務官僚にとって、朝生政権の政策は許容限度を超えていたのである。

 特に朝生首相に見込まれて財務相を務めていた中井昭二は、経済・財政に関する造詣も深く、財務官僚が操りやすい大臣ではなかった。中井財務相は、財務官僚にとって、「排除の対象」と見なされるようになった。

 2009(平成21)年2月、ローマで開かれたG7にて、中井財務相は、IMF(国際通貨基金)を通じて、金融危機に陥った加盟国への資金提供などのために、日本が最大1000億ドル(約9兆円)を貸し付ける提案を行った。

 加盟国による資金提供としては過去最大で、IMFのスタースカーン専務理事は「人類の歴史上、最大の貢献である」と言って、謝意を示した。

 大役を終えた中井財務相は、随行した財務官僚やジャーナリストから祝杯を上げようと誘われた。義理堅い中井はそれを受け入れたが、後で記者会見を控えているために、さすがに酒をセーブせざるをえなかった。

 しかし、2杯目のワインを飲んだところで、なぜか気分が悪くなった。酒の強い中井がこれだけの量で酔うことは考えられない。

 記者会見では、中井はさらに体調が悪化しているように見受けられたが、左右に座る財務官僚は、記者会見をそのまま強行させた。記者会見は大臣が体調不良でキャンセルしても問題になるようなものではなかったのだが。

 中井は傍目にはほとんど泥酔者のように見えた。日本のテレビは「酩酊会見」のシーンを執拗に繰り返し、野党やマスコミは一斉に大臣辞任を要求した。それと同時にスタースカーン専務理事が「人類の歴史上、最大の貢献である」と絶賛した事実も、伏せられてしまった。

 不思議なことに、随行した財務官僚も、ジャーナリストも、国内での大騒ぎを一切、中井に伝えなかった。中井がそれを知ったのは、成田について妻に電話した時だった。もはや、中井には辞任以外の道はなかった。


■7.「政権交代選挙」

 朝生内閣は4月10日に15兆4千億円の財政支出を中心とする第三次補正予算を成立させた。その中には、学校や病院の大規模な耐震化工事も含まれていた。

 しかし、マスコミはそういう内容についてはまともに報道せず、わずか117億円の「国立メディア芸術総合センター」のみをクローズアップして、「国営のマンガ喫茶」などと批判した。

 朝生内閣の奮闘ぶりは国民に伝えられず、マスコミの意図的なネガティブ・キャンペーンで、支持率は下がり続けた。

 7月21日、朝生は衆議院解散を宣言した。マスコミは「政権交代選挙」と繰り返した。一般国民の間では「政権交代」さえ実現すれば、すべてが良くなるというような根拠のない期待が広まっていった。

 その「政権交代」の担い手となる民主党の鳩山代表は、外国人地方参政権に関連し、「日本列島は、日本人だけのものじゃないんですから」と語った異様な国家観の持ち主だったが、それが新聞やテレビで取り上げられることはなかった。

 民主党のビジョンも「子ども手当」「高速道路無料化」「農家個別所得補償」などのバラマキ政策ばかりで、財源については明確な根拠は示されていなかった。

 選挙期間中の朝生総理と鳩山代表による党首討論を、自民党はノーカットで放送するよう各局に求めた。テレビが都合のいいように映像を切り貼りする偏向的な報道の防ごうとしたのである。

 しかし、各局はノーカット放映を拒否した。これによって、自民党は国民の前で、民主党政策の欺瞞を暴露する機会を失ったのである。


■8.「裁かれるべきは」

 こうして平成21(2009)年8月30日、マスコミの思惑通り、歴史的な「政権交代」が実現し、民主党が政権を握った。その異様な国家観と、財源の裏付けもないバラマキ政策は、日本と国民を3年間、苦しめ続けている。

 期待を裏切られたと多くの国民は思っているだろう。しかし、その期待は、そもそもマスコミの作った幻影だった。小説『真冬の向日葵』の主人公である新米記者の雪乃は、こう語っている。

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 わたしはこれまで、マスコミによる歪んだ報道や、国民に対する刷り込み、根拠のないバッシング、高慢なレッテル貼りに怒りを持ってきた。しかし今、//