次に、日本の「外交ムラ」の情けない状況について考えてみよう。

元国連職員である私の友人によれば、日本の対外交渉の仕方は、「日本だけの特殊事情」を強調するものだという。

「うちはちょっと例外なんですよ!例外を認めて下さい!」と必死に相手に頼み込むというのが日本の外交交渉の常套手段だというのだ。

しかしこのやり方は、普遍的な価値観、言うなれば「大義」を背負ったものではないために、交渉時に相手を圧倒できるような迫力や勢いを感じることが出来ない。

TPPの一連の交渉を見てもよくわかるように、日本側は「日本の特殊事情」ばかりを強調して、TPPというシステムの根底に流れている「自由貿易」という「普遍的な価値観」の面から論を展開しているものは、残念ながら、ほとんどお目にかかることがない。

これは、日本の対外交渉の担当者たちが「普遍的な価値観」という“攻撃的な"交渉の武器をつかわずに、「特殊事情」という壁をつくって防戦一方の交渉をしていることを意味している。

なんとも歯痒い話なのであるが、日本の外交担当者達は、「普遍的な価値観」という、いわば「錦の御旗」を使いこなせていないのだ。

このような状況は、大かれ少なかれ、日本国のみならず、各国が抱えている問題でもあるので、彼らばかりを責めるわけにはゆかないのかもしれない。

しかし、それでも私は敢えて言いたいのだが、交渉の際には「普遍的な価値観」を全面に打ち出して主張する、つまり、常に「攻撃」し続ける必要があるのだ。

もちろん実際の交渉の場では、自国の特殊事情も説明して「防御」しなければならないところはあるが、日本場合はその「防戦」一方である点が大きな問題なのだ。

そして、ここに今回の「アメ通」で、皆さんに考えて頂きたい「チョークポイント」がある。

「特殊事情」と「普遍的な価値観」の対立というのはつまり、「ローカル」と「グローバル」という価値観の衝突と言い換えることができるのだ。

そしてこれこそが、現在のグローバル化時代の大きな対立構造の一つなのである。

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先週お話した「従軍慰安婦問題」を思い出して頂きたい。

「アメ通」読者の皆さんならば、それが見事に、「特殊事情」と「普遍的な価値観」の対立という構造になっていることにお気付き頂けると思う。

この問題は、日本側にとっては具合の悪いことに、「これは日本の“特殊事情"である!」と主張して、「ローカル」の問題に落し込むことが出来ないものだ。

なぜなら米国内の韓国勢力が、「グローバル」な価値観である「人権」という価値観を持ち出して、日本を非難してきたからだ。

その対抗手段として、私は前回、「日本も相手側の人権侵害を喧伝すべきだ」として、ベトナム戦争における朝鮮兵の残虐行為の例を使うべし!」と提起した。

これは、同じ「人権侵害」というカードを使って、相手も一緒に巻き込んでしまうという戦術である。

この「人権侵害」という概念は、「錦の御旗」である。日本政府も遠慮せずに、どんどん積極的に旗を振ればいいのだ。

先の大戦の後、日本に駐留していたアメリカの進駐軍は、基地のそばに「吉原をつくれ」と命令したり、日本の婦女子に対して多くの狼藉を働いていたなどの記録がある。

これをアメリカに対して、訴訟などの形をとってぶつけてみたり、同列の問題にまで拡大してしまうというのはどうであろうか。つまりアメリカに対して「錦の御旗」を振るわけである。これは「従軍慰安婦問題」以上に大きな問題となろう。

そうなれば、これまでは単なる傍観者であったアメリカも、自らが問題の「当事者」となり、「炎上」が始まりかねない。

すぐに米国内の韓国勢力に圧力をかけて、例の銅像設置問題などは、直ぐに「消火」されることとなろう。

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このような、ある意味で「悪賢い」戦略こそが、外交や国際政治の現場では必要だ。

読者の皆さんにもここでしっかり考えて頂きたいのであるが、なぜ日本の対外政策エリートたちは、このような発想が出来ないのであろうか?

私は常々思っているのだが、日本のエリートたちは、「思考の抽象度」を上げる訓練をされていないのではないか。

この「抽象度」を上げるには、具体的な話をするというよりも、そのためのベースとなる、哲学や論理、思想や宗教のような、いわゆるリベラルアーツ的な学問を、体系的にキッチリと学びきることが必要である。

しかし、我々一般の日本人のみならず、曲がりなりにも国を動かす立場にあるようなエリートたちでさえ、肝心肝要の抽象的思考を「神学論争だ」といって、長らく目を背けて続けて来たのが実態なのだ。

何度でも言わなければならないのだが、少なくとも、現在の国際政治の表舞台では、「価値観」といった抽象度の高い思考を扱えるかどうか?が決定的な要因となってしまう。

よって、国家の対外政策を担う人々は、思考の「抽象度」を上げるべく、今すぐにでも“具体的な"行動を起こさねばならない。

我々日本人は、自国だけの「特殊な事情」のみを主張し、個別具体的な方法、または可視化された「策」だけで事を運ぼうとすることは、もはや限界である。

自らの利益を追求しようと、虎視眈々と狙っている相手に対して、我々は堂々と「錦の御旗」をはためかさなければならないのである。

(おくやま)

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■■奥山真司プロフィール■■

横浜生まれ。日本の高校を卒業後、カナダのブリティッシュ・コロンビア大学に入学。地理学科および哲学科を卒業。英国レディング大学大学院戦略学科で修士号及び博士号を取得。コリン・グレイに師事した。戦略研究学会会員。米国地政学研究家。戦略学博士・筆者ブログ「地政学を英国で学んだ」
http://geopoli.exblog.jp/

・奥山真司Twitter
http://twitter.com/#!/masatheman

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(編集後記)

さてさて、今回のアメ通は如何でしたでしょうか。これまであまりないパターンの「前回から引き続き…」という展開でしたが、おくやまさんとしては、それだけ、このトピックを皆さんによくよく考えてみて欲しかったのではないでしょうか。「抽象度を上げる」…。これは本当に…、難しいです。


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