「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成24(2012)年5月30日(水曜日)
通巻第3666号
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この類いの話は本当か、別目的が隠された情報操作か
陳希同が回想録、「六四」弾圧は間違いだった。トウ小平には過剰情報が流れた所為だ
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1989年6月4日、あの天安門事件から23年の歳月が流れた。
学生を無差別に銃撃し、多数の民主活動家が殺された。中国は世界から制裁され、孤立を深めたが、六四への反省は一切無く、民主運動は「反革命暴乱」という「犯罪」にあたると言ってのけた。(天安門事件のことを「六四」という)。
当時、死刑を言い渡された学生活動家がひとりが、ようやく5月28日、23年ぶりに釈放された。ただし向こう八年間、自宅で監視され、マスコミとの接触を禁じられているが。他方、犠牲者の父親が抗議の自殺をした。当局に補償を要求し、名誉回復を二十三年間訴え続けてきた軋偉林さん(73歳)。『抗議のために自殺する』と周囲にほのめかしていたという。
当時の学生指導者だったウアルカイシは逆にワシントンの中国大使館に「自首」し、門前払いを受けた。学生指導部を形成した柴玲はファンドマネジャーに、李剛はバフェットに右腕といわれたほどの投資家に、そして王丹は台北へ移住して政治大学客員教授。その前はハーバードで客員研究員だった。
六四は風化した。
当時、北京市長だった陳希同は、六四事件で学生無差別殺戮の責任者のひとりとされたが、「わたしは傀儡でしかない。元老だったトウ小平同市のもとには過剰な情報が集まった」として、「あの悲惨な弾圧は間違いだった」と回想しているという。
この話は本当か、それとも保守派の情報操作の匂いがしないか。
陳希同といえば、その後、現職の政治局員として江沢民と対立し、汚職で捜査され失脚した悪名高き政治家である。同氏回想録は六月四日を前に香港で出版されるが、過去数ヶ月、北京の病院で録音した回想を元に一冊の書籍を編んだと『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』(5月29日)が伝えた。
そもそも陳希同は北京市長から北京市党委員会書記となって、1995年に汚職容疑で起訴され、懲役十六年、内蒙古の監獄で刑期を終えたが衰弱激しく、北京泰城監獄へ移され、さらに末期ガンと診断されて北京の病院に収用されていた。
生命維持装置が取り付けられており、言語不明瞭、たびたび危篤情報が外部にも漏れてくる人物がはたして回想録なんどを喋ることが可能なのか?
植物人間の奇跡なのか。
▼要人らの回想録には裏を読むか、行間のメッセージを読め
昨年、一昨年と李鵬と朱容基の回想録は本人等が印税を狙っての都合の良い作文集。数年前にでた趙紫陽回想録とは、いささか趣きが異なった。銭基深の回想録は「天安門事件で国際的に孤立していた中国に日本の天皇陛下を呼んだことは外交的勝利だった。天皇を政治利用できた」と自己の外交を礼賛したものだった。
だから陳希同が回想録を出すという報道を受けてのネットの投書には「いまさら言い訳かよ」「死ぬ前に嘘の証言ですかい。腐臭がするな」「おまえなんか早く死ねよ。まだ生きていたのか」等と凄まじい酷評が並んでいる。
さて中国から発信される情報のなかには意表を突くものも多く、就中、興味津々な情報操作のひとつは愛人スキャンダルの話題だ。それもおもしろ可笑しく、しかもまじめに報じられる。相変わらず主役は遠景にあるが薄煕来で、副登場人物の梁山泊的な物語が多く綴られる。その一つは薄の最大のスポンサーだった徐明という大連実徳集団のCEOをめぐるセックススキャンダルだ。
在米華僑の『多維新聞網』(5月28日号)には「有名女優の章子台は、薄煕来とだけでも十回、密会した。場所は北京市西山の徐明の別宅など。徐明は最初に600万人民元を章に支払い、追加で合計1000万元を支払い、自分を含めて彼の要求の通りに不特定の男性に性的サービスをやらせていた」という。章子台は32歳、美人で歌手でもある。
章は中華世界ではしらない者もいないと言われるほどの有名女優で、北京五輪ではギリシアへ飛んで採火式の中継役も引き受け、ジャッキー・チェンと共演したり、世界の映画祭でも有名なうえ、浮き名がおおく恋多き女性としても知られる。
香港財閥ヘンリー・フォクの孫と婚約したかと思えば、ユダヤ人で映画プロダクション社長のビビ・ネーボという大富豪と婚約、ふたりが無人島での裸体写真が流れ出して一悶着おこしたこともあり、中国ネットの上の噂に「利用しやすい」わけだ。
章は高級幹部や大財閥相手に性事で蓄財し、預金は7億元。このうちに1億8千万元は徐明から得たそうな。植物人間の陳希同の回想録同様に、その金額を聞いただけでもいかがわしきガセ情報という感じを受けるだろう。章は日本の化粧品のコマーシャルに登用されたためにネットで猛攻撃を受けたこともあるため、この類いの噂はじつに疑わしい。
(註 章子台の「台」にはりっしんべん、銭基深の「基」は下の土をとり「深」は王扁)
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◆BOOKREVIEW ◆書評 ◇しょひょう ◇ブックレビュー ★
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困窮生活、日本の敗戦への誤断は誰が最終的に責任を負うのか
米国ではシナの工作が議会、ホワイトハウス、マスコミを壟断していた
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鳥居民『昭和二十年 さつま芋の恩恵』(草思社)
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「鳥居節」という名調子は中国政治の闇の奥に独自の視点から挑み、闇に一条の光を当てて、その本質の一部をえぐり出す。じつに快刀乱麻を断つような中国の分析は一定の旋律に沿っての名調子。ファンが多い。薄煕来事件では「新四人組」を定義されて胡錦涛、習近平、温家宝、そして賀国強のそれぞれ派閥がまるで異なるにもかかわらず、共産党トップの意見が合致した。ゆえに薄は斬られたと説かれる。理由は共産党の指導のコンセンサスに薄が正面から挑んで秩序をかき乱したからである。秋の党大会では江沢民を飾り物の「顧問」に祭り上げ、引退への花道を準備したとも説かれる。こうしたユニークな分析の鳥居氏はライフワークとして『昭和二十年』を選ばれた。このシリーズは第一部の十三巻目である。全十五巻になる予定。すでに三十年の歳月をかけて、昭和二十年の一月一日から、克明に刻一刻を縷々しるされるという歴史。この巻でようやく七月一日、二日の記録である。知られざる歴史の断面は、その日、七月一日に高松宮邸ではさつま芋畑で草取り。南太平洋の島々でも飢えを満たすために薩摩いもを育てている。ソ連を介しての和平交渉は進まず、木戸幸一は保身のための暗躍を続けている。田中新一も策謀を続ける。日本が敗戦へむかう一瞬一瞬、政治トップ、宮内庁と宮様がた、そして軍の中枢はいったい何を考えていたのか、外務省は和平工作をしていたのか、本気で。陰謀と誤断と悪辣な外交工作が渦巻く舞台裏の動きを活写していく手法は、文章が生きているようで波瀾万丈。個人的には杉田一次、法眼晋作といった(面識があった人達でもあり)戦後日本の防衛、外交の一翼を担った人々の信念の形成が、こうした戦争の過程で凝縮されていったことを、今更ながら思った。
さて浩瀚な本書を評者(宮崎)は全体を通して読んでいるわけではないので、ここでは、本巻に登場するロビィ工作に関した記述を紹介しておきたい。なぜなら在京中国大使館の一等書記官が出頭要請に、さっと逃げ出した。


