『三島由紀夫の総合研究』(三島由紀夫研究会 メルマガ会報)
    平成24年(2012)5月28日(月曜日)
    通巻第653号  
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書評
 西村幸祐『幻の黄金時代  オンリー・イエスタディ80s』(祥伝社)
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                  評 秋山大輔

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 この熱気に帯びた書物を読み終えて一呼吸をおく。そして思い起こすのはやはり保守系の論文で何度も引用される三島由紀夫が最晩年にサンケイ新聞に執筆した『果たし得ていない約束』の一節だ。
「日本はなくなって、その代わりに、無機的な、からっぽな、ニュートラルな、中間色の、裕福な、抜目がない、或る経済的大国が極東の一角に残るであろう。それでもいいと思っている人たちと、私は口をきく気にもなれなくなっているのである」

 三島が予言したこの言霊は単に三島にとって近々の未来、70年代を予測したのではなく、80年代から21世紀まで見据えた論文ではないかと思うと空恐ろしくなるのは私だけではあるまい。西村氏の新作を熟読して三島が予見していたのは90年代以降であり、その萌芽が80年代にあったことを理解したのだ。
 西村氏は三島由紀夫の死により文壇と言う定義が崩壊した事を述べているが、保守言論を支えていたのは江藤淳、西尾幹二氏、そして西村氏、富岡幸一郎氏等の面々が現在までその血脈を保持していたことを本書で痛感した。
 この『幻の黄金時代』は、是非最近文庫化された『「反日」の構造』と一緒に読まれるのが効果的だと思う。
 1985年のプラザ合意で日本経済は敗北の始まりを迎える訳であるが、その背景には絢爛たる日本の技術者の匠の技が日本経済を支えていた事実がある。
西村氏は自身が取材等で体感したF1においての本田技研、本田宗一郎が確立した技術を80年代の日本経済躍進の象徴と捉え、自身の体験を踏まえながら正鵠な筆致で描き出していく。それにこの本の特筆すべき点は、これまで80年代のサブカルチャーのみを切り取り話題になった本は存在するが、80年代を主軸に置き、時代の枠を超越して敗戦時から脈々と流れる自虐史観に冒された病巣を下地にして80年代から現在までを重層的に、重厚に論じている点であり、西村氏はそれに成功しているのである。


▼ムラカミハルキのいかがわしさ

 西村氏は80年代に主要な役割を演じた作家として村上春樹の名を挙げている。西村氏はジョン・レノンが射殺された日に村上春樹がかつて店主を勤めていた店に赴き、曲をリクエストしていた逸話が象徴的に登場する。その村上春樹が三島由紀夫の自決について作中の人物に「とちらにしてもそれは我々にとってはどうでもいいことだった」と欺瞞の言葉を語らせる事を論理的に引き出し、70年代、80年代そして現在まで脈々と続く事件の衝撃を別の側面から書き上げている。

 私個人の事を述べると、80年代は小学生から中学生という多感な思春期を過ごした時代であった。ジャパンバッシングで日本車が外国人によって破壊されるシーンをテレビで観ていた。しかし現金が手元にある訳ではなく体感的な経済的享受を得ていた訳ではない。しかし、消費に関して現在よりはどこか呑気で大らかな、どこか牧歌的な空気が横溢していたのを熟読して思い起こしていた。

 しかし80年代に近隣諸国条項、靖国神社公式参拝問題等、亜米利加占領下GHQから続く自己検閲の残り香が顔を出し90年代から21世紀に病原体の如く、猛威を振るう情景が本著で炙り出されるのである。消費、経済的繁栄の裏に隠された巧みな起爆装置を仕掛けた朝日新聞等、左派の手法には義憤を覚えるのは私だけではないだろう。その芽が全て80年代にセッティングされていた事実。じわじわと日本を蝕む様を克明に記録する本作は未来への警告の書と言えるのではないだろうか。

 私が本書で注目した一節がある。中曽根康弘元首相が靖国神社を公式参拝した1985年が最後である事を指摘し、西村氏はこう慨嘆する。「首相の靖国「公式」参拝がこの年の一回限りで終わったことが。日本がその後二十五年にわたって支那、韓国、北朝鮮という<特定アジア>という近隣諸国へ、独立国家としての主張が徐々にできなくなったばかりでなく、わが国の文化、歴史、そして、敢えて言えば文明の危機に陥る過程の出発点になっているからだ」

 この記述が冒頭に引用した三島由紀夫の『果たし得ていない約束』の二十五年と年数が符合するのは偶然であろうか?三島が忌避した敗戦後二十五年と同様の、亜米利加から三国に蹂躙される関係が代わっただけだとしたら。同じ様な屈辱的な空間が継続している証左ではないか。

 この書は西村氏版の『果たし得ていない約束』であり、我々日本人はその叫びに虚心坦懐に耳を傾けなければならない。今を生きる日本人にとって必読の論である。(了)
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  三島由紀夫研究会公開講座、勉強会など連続開催のお知らせ
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公開講座 富岡幸一郎氏を招いて
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日時: 6月22日(金)18:30~2030(18:00開場)
会場: アルカディア市ヶ谷(私学会館)4階会議室
講師: 富岡幸一郎(鎌倉文学館館長。文藝評論家)
演題: 三島由紀夫は女系容認論者か?
 ~ その天皇論の意味するもの ~
会場分担金  おひとり2000円(会員千円)

<講師プロフィ-ル>昭和32年生、中央大学文学部卒業、文芸評論家、関東学院大学文学部比較文化学科教授。著書 『仮面の神学三島由紀夫論』(構想社)、『新大東亜戦争肯定論』(飛鳥新社)など多数。 

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三島研例会 金子宗徳氏を招いて
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日時: 7月30日(月)18:30~ (18:00開場)
会場: 中野サンプラザ8階研修室1番
講師: 金子宗徳(思想研究家)
演題: 三島由紀夫と国体論

<講師プロフィ-ル>昭和50年生、京都大学総合人間学部卒、同大学院修士課程修了、同博士課程修了退学、政治学者、里見日本文化学研究所主任研究員、日本国体学会理事(『国体文化』副編集長)など。著書に『安全保障のビッグバン』(共著 読売新聞社)、『保守主義とは何か』(共著 ナカニシヤ出版)など。

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公開講座 ロマノ・ヴィルピッタ氏を招いて
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日時: 9月24日(月)18:30~2030(18:00開場)
会場: アルカディア市ヶ谷(私学会館)4階会議室
講師: ヴィルピッタ・ロマノ(前京都産業大学教授、保田與重郎研究家)
演題: 三島由紀夫とイタリア
会場分担金  おひとり2000円(会員千円)


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公開講座 寺尾克美閣下(退役陸将補)を招いて
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日時: 10月22日(月)18:30~ (18:00開場)
場所: アルカディア市ヶ谷(私学会館)
講師: 寺尾克美(退役陸将補)
演題: 三島由紀夫事件の真相
会費: 二千円(会員は千円)
講師プロフィール:昭和4年生。愛媛県出身。昭和28年早稲田大学卒業、保安隊(当時)幹部候補生学校入校、以後経理将校畑をあゆむ。三島事件当時は41歳の3等陸佐。旧陸軍では経理畑では主計中将が最高位でしたが、自衛隊では陸将補(少将相当)が最高位です。昭和59年退官。
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