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樋泉克夫のコラム
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【知道中国 751回】         
 ――「インド洋にいちばん近い都市」でみた少数民族政策の実態


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「インド洋にいちばん近い都市」が“売り”の芒市は、ミャンマーと国境を接する雲南省徳宏タイ族景頗族自治州の中心都市で?西とも呼ばれる。

改めて地図で確かめると、芒市以西には芒市より規模の大きい街はなさそうだ。であればこそのキャッチ・コピーだと思えるが、「インド洋にいちばん近い都市」というところに、将来を見据えた、この街の戦略性を感じる。つまり中国の内側ではなく、南や西に広がる外の世界と結ぶことで発展を図ろうというのだろう。

 たとえば宿泊した19階建ての芒市酒店の在る胞波路だが、胞波とはミャンマー語で親戚・同胞を意味する「Baut Pow」の音を発音の近い漢字で表記したもので、ミャンマー在住の華人を指す。ミャンマー在住華人との近さを表すことで、彼らを取り組もうという狙いを感ずる。

芒市の街を歩くと少数民族が混在していることを示す道路標識が目に付く。標識の真ん中に大きく漢字の横書きで「団結大道」と記され、その上部にタイ族の文字が記されている。下は景頗族の文字のようだ。タイ族の文字で表記した部分を読むと団結も大通りという意味はなく、ただ団結大道(tuanjie dadao)の漢字音をそのままタイ音で表記しただけ。おそらく景頗族文字による表記も同じだろう。

この道路標識に見られるように、タイ族景頗族自治州などと名乗っているものの、飽くまでも漢族が主流を占めているわけだ。ここにも、北京政府が進めている漢族による漢族のための「名存実亡式少数民族政策」の一端を垣間見ることができる。因みに州名に記されたタイ族は漢字では「にんべん」に泰で、タイに住むタイ族とは異なりタイ族系とはいうもののルー族で、一方の景頗族はミャンマーではカチン族と呼ばれている。民族的には国境を跨って住んでいることになる。

そういえば、中国製の地図を開いてこの一帯を見ると、ミャンマー、タイ、ラオス、雲南と国境を挟んだ一帯には孟、芒、孟の右に「力」を添えた漢字表記の地名を多く見かける。これはクニや集落を意味するタイ語の「muang」の漢字表記だ。加えるなら川沿いには「塔」や「打」を冠した地名も見受けられるが、これはタイ語の港を表す「taa」の音訳で、港や船着場を意味する。いうならば、この一帯は国境を跨いで広がるタイ族文化圏と考えられるわけだ。

 こうみてくると地名は文化であり、文化は《生き方》《生きる形》を表わすことを改めて知ることができるが、じつは芒市の北をミャンマー国境に沿って流れる檳郷江の上流に「支那」という地名がある。

もちろん、これは日本側が口にする毎に中国側が強い不快感を示し過敏に反応する“あの支那”ではないだろう。まさか、日本に向かって「支那」と呼ぶなと神経質に口を酸っぱくして抗議しながら、日本人の目の届きそうにない雲南省西南辺境の山奥に密かに「支那」があっただなどと、口が裂けてもいえないはず。

ところでミャンマー東北部と雲南を結ぶ要衝であるミートキーナを、漢字では「蜜支那」と表記している。ならば常識的には、檳郷江の上流に位置する「支那」はキーナの音訳と考えて間違いなかろう。今回の旅行で訪れることになる騰越(現在の騰冲)には熱海という地名もあるが、これは最近流行のセコイ登録商標ビジネスではなく、一帯に火山が多く温泉も湧いているところから「熱海」と名づけられたと考えたいのだが・・・。《QED》


(宮崎正弘のコメント)当該ホテルは、あの辺境にしては凄まじいほどに良いホテルでしたが、食堂は別棟、カラオケはないし、ロビィのバアにはつまみもないし、あれで五つ星というのも、頭を横にかしげます。ところでご指摘の「密支那」はビルマのミートキーナの漢語の当て字ですから、現地で「キーナ」と呼んでいる村落もしくは鎮の名前でしょうね、「支那」は。
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(読者の声1) 今朝配信の「読者の声1」、千葉・PB生 様のいつもながらの鋭い観察眼と流麗な筆致には恐れ入るばかりです。特に、ベトナムの今に関する部分に就いては、ベトナムに関与して20年超、襤褸家ながら、ホーチミン (旧サイゴン) 市内の一隅に住居もある小生としては、現地の表層的な世相の個々は、仮令、瑣末な現象にしか見えない事柄であっても、PB生様の筆の勢いに煽られたかの如く、ご参考までに及ばずながら、その裏話的真相や周辺事情を、より具体的に言及・付記して見たい欲求に駆られる時もあります。しかしながら宮崎先生のメルマのグレイドに支障を来したり、或いは、関係者に迷惑を及ぼし兼ねないことを怖れて遠慮申し上げ、今後とも、PB生様の機動力と活写振りに期待申し上げる次第です。(後期高齢龍)


(宮崎正弘のコメント)遠慮などなさらないで、御投書をお待ちします。
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