●日本の教科書の中で「南京事件はなかった」と書いたのは、ゆいつ自由社の『新しい歴史教科書」だけでした。しかしそこに立ちふさがったのが文科省による検定でした。
●藤岡信勝さんは、同教科書の代表執筆者として検定の経緯と結果を報告する社会的義務があると考えました。上記『WiLL』6月号に掲載された記事から、その経緯を抜粋してみましょう。
●教科書調査官による第一回目の要求
教科書は「単元77 日中戦争」のなかの本文で、「日本軍は国民党政府の首都南京を落とせば蒋介石は降伏すると考え、12月、南京を占領した」という文章を載せ、これに「注6」をつけて、
《日本軍による南京占領の際に、中国の軍民に多数の死傷者が出たことが、のちに「南京事件」として宣伝されるもとになった》
と書いた。
つまり、南京事件は中国の宣伝であった。プロパガンダであった、というのが注6の趣旨で、南京事件はなかったという立場をこういう形で表現したのである。
【教科書調査官】 196番、いわゆる南京事件ですけれど、このままですと、「中国の軍民に多数の死傷者が出たことが、のちに(この言葉を強調して発音――引用者)……宣伝された」(とあるが)、当時からある程度わかっていたわけでありますし、これは事実として書いていただかないと困る。「のちに宣伝された」というのは、あったかなかったかわからないけど宣伝された、というふうに読めてしまう。
●執筆者側の作戦変更
南京事件についてあれこれ書き直しを命じられるのは、注のかたちではあれ、「南京事件」を教科書に書いたからである。そもそも1975年以前には教科書に記載されていなかったのだから。執筆者は南京事件の記述を一切やめてしまうことにする。
「注6」の南京事件の記述自体を削除することにした。ついでに、「注4」の「通州事件」(*注)も削除することにした。南京事件の削除を文科省が認めるとすれば、通州事件もバランス上、削除を求められるだろうことが見え透いていたからである。
(*注)通州事件⇒http://tinyurl.com/6pnwben
【執筆者】 通州事件の注は、いろいろ考えて削除することにしました。
教科書調査官は何のクレームもつけず、むしろ満足そうな顔をする。
【執筆者】 注6の記述の全体を削除することにします。
教科書調査官はひどく困惑した顔をし、あくまで南京事件の注は残すように言う。
【執筆者】 南京事件についての学界の通説は、この十数年で研究が著しく進展した結果、大きく変わった。
【教科書調査官】 そういうことはない。
【執筆者】 ついさきほど、通州事件を削除することについて、何も異論が出されませんでした。無数の史実から何を選んで教科書に書くかは執筆者の裁量に委ねられるはすでしたね。そこで、私たち(自由者の教科書の執筆者)は、通州事件について、この際削除するこにしたのですが、これについては何もおっしゃらなかった。ところが、南京事件のほうは削除してはいけないと言う。通州事件の削除は認めるのに、南京事件の削除は認めないというのは、矛盾しているのではないですか。
この発言に対して、教科書調査官は全く答えに窮してしまった。
●次に自由社の編集者が文科省から呼ばれる。藤岡さんをはじめ執筆者は参加することができませんでした。
【教科書調査官】 前回削除されると言った南京事件ですが、もともとの原文で、この事件はあったというふうにお書きになっているわけですよね。「南京占領の際に、中国の軍民に多数の死傷者が出たことが、のちに」、ここで切っちゃって。この程度だったらいかがでしょうか。(検定の趣旨は)削除しろといのではなく、こないだ申し上げたように、十分、誤解のないように、あったことが十分わかるようにしてくれ、ですから。(犠牲者の)規模云々ということを言っているわけではありません。
【編集者】 犠牲者の数を問題にしているわけではない……。
【教科書調査官】 ……じゃないですから、ちょっとご検討いただければと思います。
教科書調査官の要求は、注6の次の前半部分だけを復活させよ、というものです。
《日本軍による南京占領の際に、中国の軍民に多数の死傷者が出た》
これでは、このあとにどういう記述が続くかによってその解釈が左右され得る内容になっていしまう。
しかし教科書運動全体にとってはいま、つくる会の教科書が消えることのほうが重大な打撃である。そう考えた執筆者は上記注6の前半分の復活を決断する。
●文科省の検定はこれで終わらない。注の末尾に「(南京事件)」を入れよと言う。注6は次のようになった。
《日本軍による南京占領の際に、中国の軍民に多数の死傷者が出た(南京事件)》
●さらに、文科省の検定はこれでも終わらなかった。行為の主体が日本軍であることを明示するために、「日本軍」という言葉の位置を変更せよという。かくて注6は、最終的に次のとおりとなった。
《南京占領の際に、日本軍によって中国の軍民に多数の死傷者が出た(南京事件)》
●結局、執筆者が書こうとした文章とはほぼ正反対の解釈が可能な文章となった。これを言論統制と言わずして何と言いうのでしょうか。
●ちなみに文科省の教科書調査官は一貫して同一人物であったといいます。つまり日本国民が支払う税金で賄われた役人が、日本の利益を代表せずに中国の利益を代表しているという腹立たしい現実が浮かんできます。
●今回の検定では、収穫もありました。「南京事件」の注を復活させたに対して、「通州事件」の注も復活できたことです。教科書の歴史上はじめて、通州事件についての記述が載ることになりました。
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●藤岡信勝さんは、同教科書の代表執筆者として検定の経緯と結果を報告する社会的義務があると考えました。上記『WiLL』6月号に掲載された記事から、その経緯を抜粋してみましょう。
●教科書調査官による第一回目の要求
教科書は「単元77 日中戦争」のなかの本文で、「日本軍は国民党政府の首都南京を落とせば蒋介石は降伏すると考え、12月、南京を占領した」という文章を載せ、これに「注6」をつけて、
《日本軍による南京占領の際に、中国の軍民に多数の死傷者が出たことが、のちに「南京事件」として宣伝されるもとになった》
と書いた。
つまり、南京事件は中国の宣伝であった。プロパガンダであった、というのが注6の趣旨で、南京事件はなかったという立場をこういう形で表現したのである。
【教科書調査官】 196番、いわゆる南京事件ですけれど、このままですと、「中国の軍民に多数の死傷者が出たことが、のちに(この言葉を強調して発音――引用者)……宣伝された」(とあるが)、当時からある程度わかっていたわけでありますし、これは事実として書いていただかないと困る。「のちに宣伝された」というのは、あったかなかったかわからないけど宣伝された、というふうに読めてしまう。
●執筆者側の作戦変更
南京事件についてあれこれ書き直しを命じられるのは、注のかたちではあれ、「南京事件」を教科書に書いたからである。そもそも1975年以前には教科書に記載されていなかったのだから。執筆者は南京事件の記述を一切やめてしまうことにする。
「注6」の南京事件の記述自体を削除することにした。ついでに、「注4」の「通州事件」(*注)も削除することにした。南京事件の削除を文科省が認めるとすれば、通州事件もバランス上、削除を求められるだろうことが見え透いていたからである。
(*注)通州事件⇒http://tinyurl.com/6pnwben
【執筆者】 通州事件の注は、いろいろ考えて削除することにしました。
教科書調査官は何のクレームもつけず、むしろ満足そうな顔をする。
【執筆者】 注6の記述の全体を削除することにします。
教科書調査官はひどく困惑した顔をし、あくまで南京事件の注は残すように言う。
【執筆者】 南京事件についての学界の通説は、この十数年で研究が著しく進展した結果、大きく変わった。
【教科書調査官】 そういうことはない。
【執筆者】 ついさきほど、通州事件を削除することについて、何も異論が出されませんでした。無数の史実から何を選んで教科書に書くかは執筆者の裁量に委ねられるはすでしたね。そこで、私たち(自由者の教科書の執筆者)は、通州事件について、この際削除するこにしたのですが、これについては何もおっしゃらなかった。ところが、南京事件のほうは削除してはいけないと言う。通州事件の削除は認めるのに、南京事件の削除は認めないというのは、矛盾しているのではないですか。
この発言に対して、教科書調査官は全く答えに窮してしまった。
●次に自由社の編集者が文科省から呼ばれる。藤岡さんをはじめ執筆者は参加することができませんでした。
【教科書調査官】 前回削除されると言った南京事件ですが、もともとの原文で、この事件はあったというふうにお書きになっているわけですよね。「南京占領の際に、中国の軍民に多数の死傷者が出たことが、のちに」、ここで切っちゃって。この程度だったらいかがでしょうか。(検定の趣旨は)削除しろといのではなく、こないだ申し上げたように、十分、誤解のないように、あったことが十分わかるようにしてくれ、ですから。(犠牲者の)規模云々ということを言っているわけではありません。
【編集者】 犠牲者の数を問題にしているわけではない……。
【教科書調査官】 ……じゃないですから、ちょっとご検討いただければと思います。
教科書調査官の要求は、注6の次の前半部分だけを復活させよ、というものです。
《日本軍による南京占領の際に、中国の軍民に多数の死傷者が出た》
これでは、このあとにどういう記述が続くかによってその解釈が左右され得る内容になっていしまう。
しかし教科書運動全体にとってはいま、つくる会の教科書が消えることのほうが重大な打撃である。そう考えた執筆者は上記注6の前半分の復活を決断する。
●文科省の検定はこれで終わらない。注の末尾に「(南京事件)」を入れよと言う。注6は次のようになった。
《日本軍による南京占領の際に、中国の軍民に多数の死傷者が出た(南京事件)》
●さらに、文科省の検定はこれでも終わらなかった。行為の主体が日本軍であることを明示するために、「日本軍」という言葉の位置を変更せよという。かくて注6は、最終的に次のとおりとなった。
《南京占領の際に、日本軍によって中国の軍民に多数の死傷者が出た(南京事件)》
●結局、執筆者が書こうとした文章とはほぼ正反対の解釈が可能な文章となった。これを言論統制と言わずして何と言いうのでしょうか。
●ちなみに文科省の教科書調査官は一貫して同一人物であったといいます。つまり日本国民が支払う税金で賄われた役人が、日本の利益を代表せずに中国の利益を代表しているという腹立たしい現実が浮かんできます。
●今回の検定では、収穫もありました。「南京事件」の注を復活させたに対して、「通州事件」の注も復活できたことです。教科書の歴史上はじめて、通州事件についての記述が載ることになりました。
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