「一国二区」― レイムダックは西へ? 迫田 勝敏(ジャーナリスト)
【台湾ダイジェスト:5月号】
再選された馬英九総統が、役立たずの政治家、レイムダックのようだと前月、この欄で書いた。数字がそれを裏付けた。支持率(満意度)が急降下し、20%を切ったのだ。日本だったら、内閣総辞職だが、台湾は違う。街中に怨嗟の声が溢れているというのに、馬総統は「仁誼の旅」と称してアフリカ訪問して腕立て伏せやジョギングのパフォーマンス。李登輝元総統に「皇帝になったと思っている」と批判された。「馬皇帝」はいったい、この台湾をどこへ引っ張っていこうとしているのか…。
◆20%を切った支持率
支持率が20%を切ったのは、独立派の長老、辜寛敏氏が主宰するシンクタンク「新台湾国策智庫」の4月中旬の調査。支持率ともいえる馬総統への満足度は前月の26・1%から18・7%に急落した。国民党寄りともいわれるテレビのTVBSの世論調査でさえ馬総統に満足しているのは22%で、不満は61%。国民党支持者でも33%が「不満」と答えた。
日本で内閣支持率が20%を切れば、間違いなく首相退陣だ。昨年の菅直人前首相もその前の鳩山由紀夫元首相も支持率が10%台に落ちて辞職している。
支持率急落の原因は明白。新台湾国策智庫の調査では、添加剤入りの米国産牛肉の輸入解禁の方針や鳥インフルエンザ発生を隠していたことなどから食品安全での政府の措置に84・2%が不満。電力料金値上げやガソリン価格の上昇で91・2%が生活への負担が大きいと悲鳴を上げ、84・8%が貧富の差が広がっていると答えている。実際、2010年の貧富の差は93倍という調査結果もある。要するに経済失政だ。
◆馬英九は皇帝になった?
これだけ庶民の不満の声が高まっているのに、最高責任者である馬総統はこれといった対応策を打ち出していない。立法院(国会)での国情報告を求める野党に、馬総統は最初は拒否、さらにあれこれ条件をつけて受諾を引き伸ばしている。野党などの批判や追及に対応するのはもっぱら陳冲行政院長(首相)。おかげであの端正な顔立ちの院長が最近は気の毒にもやつれた感じになっている。
支持率が20%を切るというは政権の危機だ。これを乗り切る道はトップ自らが切開かなければならない。それを部下に任せて、のんびりと外遊し、国情報告さえ逃げようとしているのだから、「皇帝になったと思っている」という批判も当然だ。
◆「軟土深耕」と国共論壇
無為無策にもみえる馬政権を隣の中国が黙ってみているはずがない。中国では「軟土深耕(掘)」という。柔らかい土は深く掘れ、相手が弱ければどんどん突っ込んでいけの意味。今の台湾は「軟らかい」からどんどん行けということなのか、自由時報によれば、今年は国民党主催で台湾で「国共論壇」を開くよう強力に求めているという。
国共論壇は正式には「両岸経貿文化論壇」で国民党と中国共産党が共催、2006年に第1回が北京で開かれ、「第三次国共合作」のスタートともいわれた。実際、その後の馬政権の対中接近を導いており、次回は8回目。中国から当然、要人が訪台する。国務院台湾弁公室の王毅主任は必然、さらには全国政協の賈慶林主席の可能性も取りざたされている。
開催なら台湾側は国民党の呉伯雄名誉主席がトップ。その呉名誉主席は、中国の胡錦濤総書記の前で中国と台湾の関係を「一国二区」と言い切った。国共論壇の初期の台湾側トップだった連戦元主席は総統選の勝利集会で「台湾地区の同胞に感謝」と発言。ともに台湾を「台湾地区」と認める御仁だ。中国がこの時機に台湾開催を求めるのは、台湾併合へ一歩進み、「台湾地区」を世界に印象付ける狙いがあるのではないか。
◆5月20日大規模デモも
そんな危機感を持つ前出の辜寛敏氏は記者会見し、馬総統の退陣を求め、辞めないなら、5月の総統就任式を3カ月延ばして、総統選挙のやり直しを訴えている。李登輝元総統は自らの民主改革は半分しかできなかったとし、「台湾人はかつては自分の財産も命も惜しまず、街に出て民主を勝ち取った」とし「もう一度民主改革を」と呼びかけている。
気になるのはこうした危機感を露にするのは李元総統ら「政治欧吉桑(おじさん)」(聨合報)だけ。民進党の中からはあまり聞こえてこない。もう一国二区は諦めているのだろうか。そんな中、一部で5月20日の就任式に合わせて反馬総統の大規模デモ計画も出ている。そのデモが実現するのか、デモがどこまで盛り上がるのか。今後の台湾の行方を占う試金石かもしれない。
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2>> 東京都尖閣諸島寄附金について
4月17日未明、石原慎太郎・東京都知事がワシントンでの講演で東京都が尖閣諸島を買い上げると発表した。東京都は27日に尖閣諸島(沖縄県石垣市)購入資金の寄付金口座を開設したところ、5月1日までに5428件の入金があり、計7600万7211円が集まったと発表したと、昨日の産経新聞が1面で伝えている。
≪都の担当者は「ご賛同いただいて早速多くの方々からお志をいただき、感謝申し上げます」と話している。……都は5島中、魚釣島、北小島、南小島の3島の購入を計画。今月1日に専従の担当部署を立ち上げた。今後のスケジュールについて石原知事は、現在の所有者と国の賃借契約が来年3月に切れることを見込んで、「正式に取得するのは来年4月」との見通しを示している。2億円以上の場合は都議会の議決が必要となるが、購入議案は12月にも提案する構え。≫
尖閣諸島は日本の固有領土だ。中国や台湾の領土でないことは歴史的経緯や国際法でもすでに証明されている。本誌でも何度か伝えたように、李登輝元総統は2002年に「尖閣諸島は明らかに日本の領土」と表明して以来、繰り返して主張している。
台湾総統の馬英九氏が主張する中華民国領有論の根拠である大陸棚説は破綻している。なぜなら、中華民国自身がその事実を否定していた体。例えば、1970(昭和45)年1月発行の『国民中学地理科教科書』(初版)に掲載の「琉球群島地形図」では、国境線は台湾と尖閣諸島との中間に引かれ、尖閣諸島には「尖閣群島」というわが国の島嶼名が使用されている。馬氏の論はこの事実に一切触れず、その後に「後知恵」で発表したものだからだ。これは中国の同じ論法だ。
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【台湾ダイジェスト:5月号】
再選された馬英九総統が、役立たずの政治家、レイムダックのようだと前月、この欄で書いた。数字がそれを裏付けた。支持率(満意度)が急降下し、20%を切ったのだ。日本だったら、内閣総辞職だが、台湾は違う。街中に怨嗟の声が溢れているというのに、馬総統は「仁誼の旅」と称してアフリカ訪問して腕立て伏せやジョギングのパフォーマンス。李登輝元総統に「皇帝になったと思っている」と批判された。「馬皇帝」はいったい、この台湾をどこへ引っ張っていこうとしているのか…。
◆20%を切った支持率
支持率が20%を切ったのは、独立派の長老、辜寛敏氏が主宰するシンクタンク「新台湾国策智庫」の4月中旬の調査。支持率ともいえる馬総統への満足度は前月の26・1%から18・7%に急落した。国民党寄りともいわれるテレビのTVBSの世論調査でさえ馬総統に満足しているのは22%で、不満は61%。国民党支持者でも33%が「不満」と答えた。
日本で内閣支持率が20%を切れば、間違いなく首相退陣だ。昨年の菅直人前首相もその前の鳩山由紀夫元首相も支持率が10%台に落ちて辞職している。
支持率急落の原因は明白。新台湾国策智庫の調査では、添加剤入りの米国産牛肉の輸入解禁の方針や鳥インフルエンザ発生を隠していたことなどから食品安全での政府の措置に84・2%が不満。電力料金値上げやガソリン価格の上昇で91・2%が生活への負担が大きいと悲鳴を上げ、84・8%が貧富の差が広がっていると答えている。実際、2010年の貧富の差は93倍という調査結果もある。要するに経済失政だ。
◆馬英九は皇帝になった?
これだけ庶民の不満の声が高まっているのに、最高責任者である馬総統はこれといった対応策を打ち出していない。立法院(国会)での国情報告を求める野党に、馬総統は最初は拒否、さらにあれこれ条件をつけて受諾を引き伸ばしている。野党などの批判や追及に対応するのはもっぱら陳冲行政院長(首相)。おかげであの端正な顔立ちの院長が最近は気の毒にもやつれた感じになっている。
支持率が20%を切るというは政権の危機だ。これを乗り切る道はトップ自らが切開かなければならない。それを部下に任せて、のんびりと外遊し、国情報告さえ逃げようとしているのだから、「皇帝になったと思っている」という批判も当然だ。
◆「軟土深耕」と国共論壇
無為無策にもみえる馬政権を隣の中国が黙ってみているはずがない。中国では「軟土深耕(掘)」という。柔らかい土は深く掘れ、相手が弱ければどんどん突っ込んでいけの意味。今の台湾は「軟らかい」からどんどん行けということなのか、自由時報によれば、今年は国民党主催で台湾で「国共論壇」を開くよう強力に求めているという。
国共論壇は正式には「両岸経貿文化論壇」で国民党と中国共産党が共催、2006年に第1回が北京で開かれ、「第三次国共合作」のスタートともいわれた。実際、その後の馬政権の対中接近を導いており、次回は8回目。中国から当然、要人が訪台する。国務院台湾弁公室の王毅主任は必然、さらには全国政協の賈慶林主席の可能性も取りざたされている。
開催なら台湾側は国民党の呉伯雄名誉主席がトップ。その呉名誉主席は、中国の胡錦濤総書記の前で中国と台湾の関係を「一国二区」と言い切った。国共論壇の初期の台湾側トップだった連戦元主席は総統選の勝利集会で「台湾地区の同胞に感謝」と発言。ともに台湾を「台湾地区」と認める御仁だ。中国がこの時機に台湾開催を求めるのは、台湾併合へ一歩進み、「台湾地区」を世界に印象付ける狙いがあるのではないか。
◆5月20日大規模デモも
そんな危機感を持つ前出の辜寛敏氏は記者会見し、馬総統の退陣を求め、辞めないなら、5月の総統就任式を3カ月延ばして、総統選挙のやり直しを訴えている。李登輝元総統は自らの民主改革は半分しかできなかったとし、「台湾人はかつては自分の財産も命も惜しまず、街に出て民主を勝ち取った」とし「もう一度民主改革を」と呼びかけている。
気になるのはこうした危機感を露にするのは李元総統ら「政治欧吉桑(おじさん)」(聨合報)だけ。民進党の中からはあまり聞こえてこない。もう一国二区は諦めているのだろうか。そんな中、一部で5月20日の就任式に合わせて反馬総統の大規模デモ計画も出ている。そのデモが実現するのか、デモがどこまで盛り上がるのか。今後の台湾の行方を占う試金石かもしれない。
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2>> 東京都尖閣諸島寄附金について
4月17日未明、石原慎太郎・東京都知事がワシントンでの講演で東京都が尖閣諸島を買い上げると発表した。東京都は27日に尖閣諸島(沖縄県石垣市)購入資金の寄付金口座を開設したところ、5月1日までに5428件の入金があり、計7600万7211円が集まったと発表したと、昨日の産経新聞が1面で伝えている。
≪都の担当者は「ご賛同いただいて早速多くの方々からお志をいただき、感謝申し上げます」と話している。……都は5島中、魚釣島、北小島、南小島の3島の購入を計画。今月1日に専従の担当部署を立ち上げた。今後のスケジュールについて石原知事は、現在の所有者と国の賃借契約が来年3月に切れることを見込んで、「正式に取得するのは来年4月」との見通しを示している。2億円以上の場合は都議会の議決が必要となるが、購入議案は12月にも提案する構え。≫
尖閣諸島は日本の固有領土だ。中国や台湾の領土でないことは歴史的経緯や国際法でもすでに証明されている。本誌でも何度か伝えたように、李登輝元総統は2002年に「尖閣諸島は明らかに日本の領土」と表明して以来、繰り返して主張している。
台湾総統の馬英九氏が主張する中華民国領有論の根拠である大陸棚説は破綻している。なぜなら、中華民国自身がその事実を否定していた体。例えば、1970(昭和45)年1月発行の『国民中学地理科教科書』(初版)に掲載の「琉球群島地形図」では、国境線は台湾と尖閣諸島との中間に引かれ、尖閣諸島には「尖閣群島」というわが国の島嶼名が使用されている。馬氏の論はこの事実に一切触れず、その後に「後知恵」で発表したものだからだ。これは中国の同じ論法だ。
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