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メールコラム「使える!ビジネス古典」

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小利をみれば則ち大事成らず 
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日本の歴史と日本人の考え方に深く結びつく儒教の経典、
「四書五経」を中心に、様々な古典の紹介を通じて、
ビジネスヒントをお届けしてきたこのコラムも、今回が最終回となりました。


第1回では、日本の近代化のために荒野をブルドーザーで耕した明治の実業家、
渋沢栄一の著書、『論語と算盤』の冒頭をご紹介したことを
覚えているでしょうか。


西欧の先進国に追いつき追い越そうと懸命であった明治の日本では、
経済の面でも、先行する西欧のシステムを真似、知識を導入しようとして
いましたが、西欧的な近代化と旧来の儒教思想の中心を成す「徳」の精神は
相容れないと思われていました。

これを、自らの行動で覆し、自らの信念である「道徳経済合一説」を説いた
のが、五百もの企業創立に関わった、渋沢栄一でした。

渋沢は、幕末の1840年に生まれ、四書五経を通読した父親から
『論語』の素読の手ほどきを受け、後に、従兄であり、
初代富岡製糸場所長を務めた尾高惇忠から四書五経を学んでいます。

また、渋沢は1867年、パリ万国博覧会に出席する徳川昭武一行に随行し、
ヨーロッパ各地を旅しています。

その旅でヨーロッパ近代経営の一端を見て驚き、多くを学んで帰国した後、
一度は大蔵省に出仕するものの、下野して実業家となりました。


このとき渋沢の中ではすでに、論語と西欧的な経営システムが
ちゃんと同居していたのです。

渋沢は、『論語と算盤』の「処世と信条」の項をこう結んでいます。

「其の富を成す根源は何かと云えば、仁義道徳、正しい道理の富でなければ、
その富は完全に永続することは出来ぬ、ここに於て論語とそろばんという
懸け離れたものを一致せしめる事が、今日の緊要の務と自分は考えて居る
のである」

この言に間違いがないことは、利益の追求のために仁義道徳を捨て、
傲慢な経営を行ったり、不正を働いたりした企業が、
一時的には栄華を誇っても、最終的には失墜している例を見ても明らかです。


『論語』里仁第四には、こんな文章があります。


  子曰く、君子は義に喩(さと)る。小人は利に喩る。

 ***解釈***
 
  先生がいわれた、「君子は正義に明るく、小人は利益に明るい」

 ********
 
もう少しわかりやすく言うならば、君子は正しい道理にしたがっているため、
心には「義」が宿り、「義」に基づいて行動する。これに比べ、
小人には欲が宿り、利を得ようと謀る。ということです。

それは、「利」を追求しなくてはならない企業であっても同様で、
その利の追求が私欲を満たすためであれば、
それは小人の率いる会社ということになります。

同じ利を追求するのであっても、それが、私欲を満たすためではなく
社会的な意義があったり、社会に貢献するためで、
社会的責任を果たしているのであれば、それは小人の求める利とは
全く別のものです。

渋沢も、「余はいかなる事業を起こすに当たっても、
利益を本意に考へることはせぬ。この事業は盛んにせねばならずと思へば、
これを起こしこれに関与し、あるいはその株式を所有することにする。
余は何時でも事業に対する時には、これを利に喩らず、義に喩ることに
しておる。まず道義上より起すべき事業であるか否かを考え、
利損を第二位において考えることに致しておる」と述べています。

さらに、こうもあります。


  子の曰く、利に放(よ)りて行えば、怨み多し。

 ***解釈***
  
  利益ばかりにもたれて行動していると、怨まれることが多い。

 ********
 

派手なテレビCMで急成長し、全国に1000近い教室を持っていた
英会話スクールが、439億円もの負債を抱えて経営破たんした
ニュースを覚えているでしょうか?

創業者のワンマン社長は、東京と大阪の事務所に、
事務所に不釣合いなほど豪華な社長室を作り、
いよいよ倒産が近づくと、私財を守るための策を巡らしていたといいます。

給与未払いのまま職を失った外国人講師や職員たち、
約40万人の受講生の怨みはどれほどだったでしょう。

経営破綻の2年後、社員積立金を流用したとして、
業務上横領罪に問われた元社長は、3年6か月の実刑判決を受けています。


これは、私利に走った哀れな社長のほんの一例にすぎません。


とはいえ、義に従った経営が、すぐさま望ましい結果を
挙げるわけではないのもまた事実です。


『論語』の子路第十三にはこうあります。


  子夏、きょ父(ほ)の宰と為りて、政を問う。
  子曰く、速やかならんことを欲するなかれ。小利を見るなかれ。
  速やかならんことを欲すれば則ち達せず。小利をみれば則ち大事成らず。

 ***解釈***
  
  子夏が(魯の町)きょ父の宰(=とりしまり)となって政治のことを
  おたずねした。
  先生はいわれた、「早く成果をあげたいと思うな。小利に気をとられるな。
  早く成果をあげたいと思うと成功しないし、小利に気をとられると大事は
  とげられない。

 ********


義に従い、私利に走らず大事を為すには、それ相応の努力と時間が必要です。
小利であれば、小手先の戦術のみでも手に入れることができますが、
そんな、吹けば飛ぶような小利をいくら重ねたところで、会社の成長など
望むことができないばかりか、小利を稼ぐことだけに気を取られ、
そもそも何のために起業したのか?という大切な事柄を忘れてしまうこと
にもなりかねません。

「大事=ビジョン(夢)」を見失った経営者が本当の幸せを得ることは
決してないでしょう。

速やかならんことを欲するなかれ。小利を見るなかれ。
速やかならんことを欲すれば則ち達せず。小利をみれば則ち大事成らず。

この言葉を胸に刻んで、大事を為すために邁進していきたいものです。

52日間お読みいただき、誠にありがとうございました。


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