『平成猿蟹合戦図』 | ゴキゴキ殲滅作戦!

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念のために言っておくが、私はゴキブリではない。
さらに念のために言っておきますが、このブログはコックローチやゴキブリホイホイとは何の関係もありません。
本と映画と渋谷とフランスについての日記です。

吉田修一さんの『平成猿蟹合戦図』(2011年)を読了。

 

連絡の途絶えた夫を探し、生後6ヶ月の赤子を抱いて、長崎県五島列島から新宿歌舞伎町までやってきた、ホステスの美月。夫が働いていると人づてに聞いたホストクラブに出向くが、すでに退職したことを知らされ途方に暮れていたところを、近くの店のバーテンダー・純平に声をかけられる。

 

早稲田の政経学部を卒業後、国会議員の秘書として働くも、紆余曲折あって退職した、中年女性の夕子。現在は世界的チェロ奏者・湊の個人事務所で働きながらも、自分の手で大物政治家を育て上げるという夢を、捨てきれずにいる。

 

さて、純平は、美月の夫・朋生(ともき)にけしかけられて、偶然目撃したひき逃げ死亡事故をネタに、湊を脅迫しようと企てる。

 

こうして夕子と接触したことにより、純平の運命は大きく変転してゆくのだが・・・というお話。

 

吉田さんに関しては、『悪人』、『さよなら渓谷』、『怒り』など、深刻なテーマを扱った小説が印象に残っていますが、それらとは違った、明るくてユーモラスで痛快な物語。『横道世之介』(私は未読ですが)の系譜に連なる作品なのかも知れません。

 

二転三転するストーリー展開の面白さもさることながら、登場人物の造形のうまさが際だちます。ある種の「直木賞作家」などによくあるような類型的ではない、数々の矛盾を抱えた具体的な人間が丁寧に描かれる。

 

そうした登場人物達が織りなす日常的なエピソードは、いかにも現実にありそうで、思わず微笑んだり、ときには爆笑したりしてしまいます。

 

「上質で高級なエンタメ小説」という印象。文学性があるとは思いませんが、すごく楽しめました。

 

今回の評価は、AA(=お薦めです)にしておきましょう。「文学!」などと肩肘張らず、軽い気持ちで、どうぞ。