私はこれまでに、現代哲学関係の専門書を、3冊翻訳出版しています(すべて共訳ですが)。
4冊目(本来の順番では2冊目)は300ページに及ぶ大著で、友人と二人で翻訳し、出版することになっており、私だけで2/3ほど訳したのですが、その後、頓挫。仕事を紹介してくれた指導教授が死去したため、出版社が翻訳権を返還してしまったのです。
指導教授自身が10年以上放置していた仕事で、出版社にとっては翻訳権を維持するのにもお金がかかりますから、仕方ないと言えば仕方ないですけどね・・・。でも、何とかして、どこからか、出版したいと思っています。
私は他に、ピジネス関係の翻訳もしています。ときどき外務省等、政府関係の依頼も舞い込みます。洞爺湖サミットの際も、ほんのちょっとですがお手伝いさせてもらいました。
こうした翻訳業界の裏事情、一般の方は全くご存知ないでしょう。そこで、私がここで暴露してしまいます。
さて、翻訳の仕事は、大きく分けて、出版翻訳とビジネス翻訳とに分類されます。まずは出版翻訳ですが、これもまた専門書と一般向け書籍とに分けられます。
専門書は、当然ですが専門家でなければ訳せません。そこで、大学の教師や大学院博士課程在籍者が、翻訳を担当することになります。
通常、仕事の依頼は、すべてコネクションを通してやって来ます。
出版社に顔のきく人がいて、その人が編集者と話をつけ(「実はこういう本があるのですが、おたくの出版社から出してもらえませんか。」「分かりました。翻訳、お願いします。」)、あるいは逆に編集者から依頼され(「○○の新作が出ましたね。翻訳権を取ったのですが、先生に訳していただけませんか。」「分かりました。やってみましょう。」)、大部で難解な著作を自分一人で訳すのは困難だから、弟子や後輩や仲間に声をかけて、共訳する、ということになります。
あるいは、著名学者が弟子たちに研究実績を作らせるために共訳する、というケースもあります。依頼を受けた人が、担当編集者に友人や後輩を紹介し、仕事を回してあげることもあります。
仕事の依頼に当たって、契約書はありません。契約は、すべて「口約束」です。
以前、人文科学系の百科事典(全10巻)を翻訳する話があって、母校の教授が編集委員になった関係で、第1巻を私と仲間たちの10人で請け負いました。「1ページ担当すると1万円」という約束で、私はすぐに担当の50ページを翻訳し出版社に送りましたが、仕事の遅い人もいて、いつの間にかウヤムヤになり、その後、企画そのものが消滅してしまいました。私が訳した50ページについては、何の補償もありません。まぁ、要求もしませんでしたが。(確認してはいませんが、出版社自体が倒産した可能性もあります。)
この項つづく