目黒区総合庁舎が名建築だと知ったのはこちらのドラマで。
たまたまアマプラで見かけて、田口トモロヲさんと池田エライザさんが都内の名建築に出かけて行って、そこでお昼ご飯を食べるシリーズ。
ドラマでありつつも、建物探訪の要素もあって、現実とフィクションの境目が揺らぐ。
その中の一話が目黒区総合庁舎だ。
建築家・村野藤吾による旧千代田生命本社ビルを現在は目黒区役所として再利用している。
先日ちょうど近くまで行ったので、立ち寄ってみた。
中目黒駅から案内の矢印に従って歩いて行くと、何の変哲もない役所の入口があって、目黒区民じゃないけどな、と思いながら潜入する。
1階は低い天井にグレーのカーペット、いくつもの受付カウンター、呼び出しの番号札を持った人たちが待合ベンチに沈んでいる。
▲駅側西口 フツーの入口
あれ、ここじゃないのかも。
どこにも名建築的要素が見当たらない。
いたって普通の区役所だ。
戸惑いながら玄関横の案内図に戻って、それらしきものがないか確かめる。
あった!
きっと、あの階段!
エレベーターで2階へ上がり、そそくさと廊下を進むと、暗がりに軽やかな曲線のらせん階段が現れた。
なんとまあ、役所には似つかわしくないけれど、すこぶる美しい。
誰もいない。
たまに通りがかっても、誰も見向きもしない。
▲2階から仰ぎ見る
▲4階から見下ろす
用もないのに2階から4階を行ったり来たり、何度も昇っては降りて階段を味わう。
浮いている1段目、ゆるやかな段差、余裕のある幅、うねる曲線、息継ぎのような踊り場。
気づくと、3階受付カウンターの奥にぽっかりとした空間がある。
近づいてみれば、ここが本来の、千代田生命本社ビル時代のエントランスホールなのだった。
▲南口エントランスホール
▲エントランスホールの天窓(作野旦平氏制作)
天井にはモザイクガラスをあしらった楕円形の明り取りの窓が並んでいる。
2個セットでそれぞれ春夏秋冬を表しているということで、8つの窓は色合いが微妙に異なる。
口が開いてしまうくらい真上を見上げては、どの窓の色が好きだと言い合う。
▲エントランスホール(低い窓と曲線)
あえて端に寄せたとされる柱の意味と水盤の存在にはこの時は気づかず、後日見たこの番組で知ることとなる。
回廊のようにぐるぐると巡ることのできる建物内を行ったり来たりしていると、困っている利用者に見えるようで、要所要所に配置された案内係の方に、どちらの係へお越しですか?と尋ねられることたびたび。
いえ、探検です、と答えると、慣れているのか笑っておられた。
▲茶室があったり
▲中庭には水
南口のエントランスホールを出て、振り返ると立派な建物外観。
たしかに生保の本社ビルと思える、堂々とした出で立ちだ。
▲アルミと曲線
古い建物を活用していくのは美談ではあれ、なかなか骨の折れることだ。
趣きを残しつつ、耐震補強や改修など使い続けるために手を入れていかなくてはならない。
見に行ってよかった。
村野藤吾によるその他の作品
・世界平和記念聖堂
・日生劇場
・早稲田大学文学部校舎
・八ヶ岳美術館
など