『どや顔』
調子にのって自信満々な表情をする時の事を大阪弁でどや顔といいます。
初めてお笑いを志した時、僕は関東のとある芸能事務所の社長と知り合いました。
僕は所属していたわけではありませんし、まだコンビも組んでおらずただの素人でした。にも関わらず、社長は僕の事を気にかけ時々連絡して下さりました。
ある日社長から
「うちの事務所に芸人一組だけおるから紹介したるわ。今から来れるか?」
突然の誘いです。
プロの芸人さんと話すのは初めてです。電話の時点でもう緊張しています。
しかしそれ以上にこれからお笑いの世界に自分が触れるのだという興奮の方が大きかったのを覚えています。
指定された居酒屋に着くと一番奥のテーブルに社長と女性が数名、そして少しぽっちゃりした茶髪の男性が座っています。
「おはようございます!」
業界の人間は24時間いつ人に会っても『おはようございます』というのです。照れくさい気持ちを抑え僕も言ってみました。
「おう。紹介するわ、芸人目指してる片山君。」
「初めまして、片山です!」
「◯◯いうコンビのA君。片山君の兄さんやな。」
「よろしくお願いします!」
「どうもです。」
茶髪の男性が軽く会釈します。
周りの女性は同じ事務所のタレントさんや社員さんだそうです。
席につき、お酒を飲みます。
兄さんがコテコテの大阪弁でしゃべります。THE芸人という感じの方です。
社長や周りの女性がガンガン笑います。僕も笑います。兄さんの独壇場です。
正直居心地悪かったです。
人見知りですし。でもせっかく誘って頂いたのを帰りますなんて言うほど僕は非常識ではありません。
しかしその気持ちとは逆に、僕の心にはもう一つの感情が湧いていました。
周りの一般のお客さんに対する優越感
『俺は今業界の飲み会に参加しているぞ』
今思えば、恥ずかしい話です。ただの飲み会です。
心の中でニヤついていると、突然兄さんが言います。
「片山君はギャグとかないの?」
今なら何とかしてごまかしますが、当時はないなんて答えていいのかもわかりません。
あたふたしていると
「ノリでやったらええねん。こんなとこから生まれるから。」
酔っぱらった社長にケツを叩かれます。
「じゃあ・・」
何かをしようと覚悟を決めました。何かは僕にもわかりません。
とりあえず、両手をピストルの形にし人差し指と中指を前に突きだし人差し指と中指を大きく開くと同時に唇を「ポン」と鳴らしました。
ギャグです。
それ以上説明のしようがありません。
どのような空気になったのかは皆さんのご想像通りで間違いないと思います。
その後も飲み会は続きます。
「帰ります」の一言がのどちんこにぶら下がって暴れています。
「この前テレビ見ましたよ!」
タレントの女性が兄さんに言います。
「あぁ、おもろかったやろ?」
「めちゃくちゃおもしろかったです!」
兄さんはどや顔です。
「本当におもしろかったです!車の屋根に張り付けられるてる姿!」
「ええ顔してたやろ(笑)」
兄さんは一点の曇りもないどや顔で美味そうに酒をあおります。
素晴らしいお仕事だと思いますし、すごい事だとは思いますが・・そこまでどや顔しなくても・・。
「すいません。終電なんで・・。」
外に出て、楽しそうに騒いでいる酔っぱらいの中をすり抜けながら心の中で呟きます。
『これが芸能界か・・』
もちろん違いました。
調子にのって自信満々な表情をする時の事を大阪弁でどや顔といいます。
初めてお笑いを志した時、僕は関東のとある芸能事務所の社長と知り合いました。
僕は所属していたわけではありませんし、まだコンビも組んでおらずただの素人でした。にも関わらず、社長は僕の事を気にかけ時々連絡して下さりました。
ある日社長から
「うちの事務所に芸人一組だけおるから紹介したるわ。今から来れるか?」
突然の誘いです。
プロの芸人さんと話すのは初めてです。電話の時点でもう緊張しています。
しかしそれ以上にこれからお笑いの世界に自分が触れるのだという興奮の方が大きかったのを覚えています。
指定された居酒屋に着くと一番奥のテーブルに社長と女性が数名、そして少しぽっちゃりした茶髪の男性が座っています。
「おはようございます!」
業界の人間は24時間いつ人に会っても『おはようございます』というのです。照れくさい気持ちを抑え僕も言ってみました。
「おう。紹介するわ、芸人目指してる片山君。」
「初めまして、片山です!」
「◯◯いうコンビのA君。片山君の兄さんやな。」
「よろしくお願いします!」
「どうもです。」
茶髪の男性が軽く会釈します。
周りの女性は同じ事務所のタレントさんや社員さんだそうです。
席につき、お酒を飲みます。
兄さんがコテコテの大阪弁でしゃべります。THE芸人という感じの方です。
社長や周りの女性がガンガン笑います。僕も笑います。兄さんの独壇場です。
正直居心地悪かったです。
人見知りですし。でもせっかく誘って頂いたのを帰りますなんて言うほど僕は非常識ではありません。
しかしその気持ちとは逆に、僕の心にはもう一つの感情が湧いていました。
周りの一般のお客さんに対する優越感
『俺は今業界の飲み会に参加しているぞ』
今思えば、恥ずかしい話です。ただの飲み会です。
心の中でニヤついていると、突然兄さんが言います。
「片山君はギャグとかないの?」
今なら何とかしてごまかしますが、当時はないなんて答えていいのかもわかりません。
あたふたしていると
「ノリでやったらええねん。こんなとこから生まれるから。」
酔っぱらった社長にケツを叩かれます。
「じゃあ・・」
何かをしようと覚悟を決めました。何かは僕にもわかりません。
とりあえず、両手をピストルの形にし人差し指と中指を前に突きだし人差し指と中指を大きく開くと同時に唇を「ポン」と鳴らしました。
ギャグです。
それ以上説明のしようがありません。
どのような空気になったのかは皆さんのご想像通りで間違いないと思います。
その後も飲み会は続きます。
「帰ります」の一言がのどちんこにぶら下がって暴れています。
「この前テレビ見ましたよ!」
タレントの女性が兄さんに言います。
「あぁ、おもろかったやろ?」
「めちゃくちゃおもしろかったです!」
兄さんはどや顔です。
「本当におもしろかったです!車の屋根に張り付けられるてる姿!」
「ええ顔してたやろ(笑)」
兄さんは一点の曇りもないどや顔で美味そうに酒をあおります。
素晴らしいお仕事だと思いますし、すごい事だとは思いますが・・そこまでどや顔しなくても・・。
「すいません。終電なんで・・。」
外に出て、楽しそうに騒いでいる酔っぱらいの中をすり抜けながら心の中で呟きます。
『これが芸能界か・・』
もちろん違いました。