◎「はしか(麻疹)」
「はしきは(橋際)」。これは病名ですが、「きは(際)」は存在と不存在の限界域を意味し、「はしきは(橋際)→はしか」とは、橋の存在・不存在の限界域をいくこと、の意。橋の不存在域に入り落ちれば死ぬ。そうならなければ向こう側へ渡れる。渡り向こう側へ行った人はもはや橋の際を行くことはない。抗体が身につき、生涯免疫を得るのです。そういう症状であり病気であることを表現した名。これはウィルス性の病気ですが、症状としては、高熱が出、全身に発疹が現れる。他の病気を合併した場合は別として、これ自体の、罹患した場合の死亡率は、衛生環境や栄養環境にもよりますが、21世紀の日本では0.1~0.2%程度。10日ほどで全快することが多いですが、死亡ゼロというわけではない。別名そして古名「あかもがさ(赤痘瘡)」。「もかさ(痘瘡)」は天然痘。『類聚名義抄』(1100年頃か)には「はしか」も「あかもがさ」もありませんが「もかさ」はある。「もかさ」は「茂瘡(もかさ)」でしょう。「も(茂)」は形容詞「もし(茂し)」の語幹。「かさ(瘡)」は、傷跡にできるカサブタのような、皮膚に現れる一部の盛り上がるような状態。厚みのある大小の円状を基本として小さな瘡(かさ)が茂(しげ)るように全身に現れる天然痘の症状がそう表現された。ハシカの、赤い発疹が全身に現れるその症状が天然痘の症状の一部を思わせたわけです。古くは、のちに言われる「はしか」は、「もかさ」の、ただ赤くなるだけで、症状がなくなり元通りになってしまう軽いもの、という評価だったのかもしれない。
「赤瘢 ハシカ 或作隠疹 ハシカ」(『雑字類書』(1400年代末?):これは本書「支體門」にある)。
◎「はしか(芒)」
「はしけは(嘴毛端)」。長い鳥の嘴(くちばし)のような、毛(け)のような、印象の、小さな断片(「端(は)」的なもの。稲などの実の先端にのびる毛(け)のような部位を言う。別名「のぎ(芒)」。
「秕 ハシカ 穅秕」(『雑字類書』:これは本書「飲食門」にある)。