◎「ひび(皹・罅)」
「ひめや(ひめ矢)」という言葉がある。また、「ひ」の感覚的浸透感による「ひひき(疼き)」という動詞もある。この「ひひき(疼き)」は(辛味を含めた)浸透的感覚感を表現する。その「ひひ」による「ひひめ(疼目)」が傷(きず)を意味し、傷を負わせる矢が「ひひめや(疼目矢)→ひめや(ひめ矢)」(これは小型の矢であろう)。その「ひめや(ひめ矢)」が射続けているようだ、という表現が「ひめいい(ひめい射)」(「い」は連続感を表現する)。これが「ひめいい→ひみ・ひび(皹)」になる。「ひび(皹)」は「ひみ」とも言う。寒気(かんき)が厳しい季節などに乾燥により指先などに発症する裂傷的炎症を言う。同じ原因による皮膚裂傷を「あかぎれ(赤切れ)」(古名「あかがり」(その項))と言いますが、原意としては両者の区別は曖昧でしょう。21世紀では、「ひび」は症状の軽いものであり、皮膚の裂けが大きくなり出血し内部が赤くなり、その痛みも激しいものを「あかぎれ」と呼んでいる。
壁などにできる糸状の割れ痕跡、亀裂、を「ひび(罅)」と言うのはこの「ひび(皹)」の応用表現。
「皸𦙠 ……ひび あかかり」(『類聚名義抄』)。
「Fibi(ヒビ). … Gretas de frio(寒さのひび割れ). …Fibiga(ヒビガ) qiruru(キルル)…」(『日葡辞書』)。
「あかがりは恋の心にあらねども ひびに増(まさ)りてかなしかりけり」(「狂言」『皸(あかがり)』:「ひび(皹)」に「日々(ひび)」がかかっているということ)。
◎「ひびき(響き)」(動詞)
この「ひ」はH音の感覚感とI音の進行感により感覚的進行感・浸透的影響感を表現し(音響により人間の脳に生じた神経伝達を表現する擬態・その再現をし、と言ってもいい)、その「ひ」が二度重なることによりその浸透・影響の持続感・永続感が表現される。おもに音響の浸透影響を表現しますが、他の、ものごとが影響することも表現する。
この語は「ひびき(響き)」と濁音化もしますが、この濁音化は影響性や持続感の強化によるものであり、元来は清音でしょう。
「一切の聲の中に最も上たること大きに梵(な)り響(ヒヒキ)震ふ雷と音との如し」(『金光明最勝王経』)。
「泉郡(いづみのこほり)の茅渟海(ちぬのうみ)の中(なか)に梵音(のりのおと)す。震響(ひびき)雷(いかづち)の聲(おと)の若(ごと)し」(『日本書紀』)。
「みあと(御足跡)つくる いしのひびき(比鼻伎)は あめ(天)にいたり つち(地)さへゆすれ ちちははがために」(『仏足石歌』)。
「(ご遺体を)をさめたてまつるにも、世の中ひびきて悲しと思はぬ人なし」(『源氏物語』)。
「…善悪の報は影の形に随ふが如く。苦楽の響は谷の音に応ふるが如し……… ………(文末訓釈)響 比々支波」(『日本霊異記』)。
「響 …ヒヒキ」(『類聚名義抄』「僧下」)、「〓 …ヒビキ」(『類聚名義抄』「法上」:「〓」は「響」の上の向かって左が「了」、右が「卩」になっている字)。『類聚名義抄』には「ヒヒキ」と「ヒビキ」がある。「鍠 ……ヒヒク」(『類聚名義抄』「法中」)と「應(応) ………ヒビク」(『類聚名義抄』「法中」)もある。ここでの漢字のもちい方としては、「ひひく」は音響、「ひびく」は影響。
◎「ひひき(疼き)」(動詞)
この「ひひ」も「ひびき(響き)」のようにH音の感覚的進行感(感づき)とI音の進行感によるものですが、神経伝達を表現する擬態と言っていい。刺激がしみるような状態であることを表現する。味覚なら辛(から)み。「はじかみ(山椒)口ひひく」と表現したりする。これは辛味刺激を表現している。辛味は粘膜に感じる痛みであり、味覚ではない。
「…垣下(かきもと)に 植(う)ゑし椒(はじかみ) 口ひひく(比比久)…」(『古事記』歌謡13)。