◎「はなち(放ち・離ち)」(動詞)
(馬が)「はなとあれ(花と離れ)→はなたれ」という表現から、「はなたれ」が「はなち」の受け身表現と受け取られ「はなち」という動詞が生じた。「打(う)ち→打たれ(受け身)」「保(たも)ち→保(たも)たれ(受け身)」のような変化。意味は、一体化していたなにかを離れ解放的な自由運動状態にすること。「はなとあれ(花と離れ)」は一体化していたなにかを離れ、散り、風に身を任せる花びらのような解放的自由運動状態になること。音(オン)も意味も「はなし(放し・離し)」に似ている。しかし、「はなし(放し・離し)」は活用語尾S音により動感が表現されるのに対し、「はなち(放ち・離ち)」はT音による思念的な確認があり、完了的な表現になる。たとえば「言ひはなつ」などはほとんど「言ひはなす」にはならない(希にはある)。
「天照大御神(あまてらすおほみかみ)の営田(つくだ)の畔(あ)を離(はな)ち…」(『古事記』:これは「戸をあけはなち」のような表現ではなく、畔(あぜ)にてはなつ、ということでしょう。「はなち」の状態になっているのは水)。
「且(また)畔毀(あはなち)す 毀、此(これ)をば波那豆(はなつ)と云(い)ふ」(『日本書紀』)。
「この御足跡(みあと) 八万(やよろづ)光(ひかり)をはなち(波奈知)出(い)だし 諸諸(もろもろ:衆生を)すくひ 渡(わた)したまはな(済度させてください) 救(すく)ひたまはな」(『仏足石歌』)。
「海若(わたつみ)の沖に持ち行きて放(はな)つともうれむぞこれがよみがへりなむ」(万327:「うれむぞ」は、誰かこの思いを救ってくれ、のような意(その項))。
「嶋(しま)の宮(みや) 上の池なる放ち鳥…」(万172)。
「…引き放つ 矢の繁(しげ)けく…」(万199)。
「火を縦(はな)ちて燔(や)く」(『日本書紀』)。
「小侍従と弁と放(はな)ちて、また知る人はべらじ」(『源氏物語』:小侍従と弁以外には知る人はいない)。
「「他国の聖なり。速に追ひ放(はな)つべし」と仰(おほせ)ければ放(はな)ちつ」(『宇治拾遺物語』:捕えずに解放し追放しろ、のような意)。
「『北面なにがしは…………』と申されければ、北面をはなたれにけり」(『徒然草』:北面(警護武士)を解任された)。
◎「はなだ(縹)」
「はななみだ(花涙)」。はなむだ、のような音(オン)を経、「はなだ」になる。極(ごく)淡い藍色(水色)を表現する。色名の一。
「(冠(かうぶり)の色は)追(つゐ)の八級には深縹(こきはなだ)。進(しん)の八級には浅縹(あさはなだ)」(『日本書紀』)。
「碧 波奈太」(『新撰字鏡』)。
「縹 …アヲシ ハナダ」(『類聚名義抄』)。