◎「はな(花)」
「ひああなは(日ああな端)」。語尾の「は」は退行化した。「ひ(日)」は、太陽ではなく、年月や歳月。「ああ」は嘆声。「な」は属性規定を表現する「な」(→「な(助・副)」の項)。「は(端)」は平面的な部分片。「ひああなは(日ああな端)→はな」は、年月や歳月に嘆声のもれる平面的な部分片、の意。部分片はとりわけ花弁の印象。年月や歳月に嘆声がもれる、とは、もうそんな季節になったのか…、もう一年たったのか…、あの時こんな季節に…といった思いのわくもの、ということ。これは植物の器官の名であり、ほとんどは、様々な形や色の、植物の生殖器官の部分であり、その季節になるとその植物にそれが現れる。命名の基本は桜(さくら)かもしれない。漢詩の影響でしょう、奈良時代には梅の花もそうとうに歌われる。「はな(花)」という言葉が応用された表現は非常に多い。「はなやか」や「はなやぎ」といった表現もある。
「…葉広(はびろ)ゆつ真椿(まつばき) 其(し)が花(はな:波那)の 照(て)り坐(いま)し…」(『古事記』歌謡58:「ゆつ」は神聖感の表現)。
「…たたなはる 青垣山 山神(やまつみ)の 奉(まつ)る御調(みつき)と 春へは 花かざし持ち 秋立てば 黄葉(もみぢ)かざせり」(万38)。
「…大日本(おほやまと) 久迩(くに)の都は うち靡く 春さりぬれば 山辺には 花咲きををり…」(万475:「久迩(くに)の都」は聖武天皇により一時都とされたそれ)。
「天降(あも)りつく 天の香具山 霞立つ 春に至れば 松風に 池波立ちて 桜花 木のくれ茂(しじ)に…」(万257)。
「恋しくは形見にせよと吾が背子が植ゑし秋萩花咲きにけり」(万2119)。
「妹が名に繋(か)けたる桜花咲かば常にや恋ひむいや年のはに」(万3787)。
「木の花は …紅梅。桜は…………。藤の花は………。いとめでたし」(『枕草子』)。
「草の花は なでしこ……。桔梗(ききやう)。あさがほ。かるかや(茅(かや))。菊。壺すみれ。龍膽(りんだう)は…………薄(すすき)…」(『枕草子』)。
「ただ、誠(まこと)の花は、咲く道理も、散る道理も、心のままなるべし。されば久(ひさ)しかるべし」(『風姿花伝』)。
◎「はとば(波止場)」
「ハトウば(波到場)」。波が彼方からやって来てそこに到(いた)る印象の場。海上に細長く突き出した施設を設置し、そこに船が接着しそこで船からの荷の上げ下ろしその他を行う施設。港(みなと)を言う語にもなっている。
「HATOBA, ハトバ, 埠頭… 」(『和英語林集成』)。
「駐車場(ステーション)宿駅(しゆくえき)を始め汽船の乗場(はとば)までも夫(そ)れ夫(ぞ)れ手が廻(まは)つて居るに相違なければ…」(『花間鶯(かかんおう)』(末広鉄腸))。